番外編

番外編1. サミュの恋愛事情(前編)

「エレノア様、エマさんって恋人いるんですかね?」

「へ?」


 騎士団に聖水を納品しにやって来たエレノアは、サミュに捕まるなり、意外なことを聞かれ目を丸くした。


「サミュ、いきなりどうしたの?」


 今日はいつも一緒にいるエマはいない。イザークと結婚した後も、エマはエレノア付として新しい屋敷についてきてくれた。


 サミュはどうやら、エマがいない所を狙って聞いてきたようだった。


「ええと、あの……」


 言いづらそうなサミュに、エレノアは首を傾げる。


 エレノアとイザークは結婚式後、カーメレン公爵家の離れを出た。


 皆惜しんでくれたが、いつまでもあそこにいるわけにはいかない。来年の春には、オーガストがサンドラ王女と結婚し、正式にカーメレン公爵を継ぐ。


 ジョージとの別れは寂しかったが、いつでも遊びに来て欲しい、とオーガストには言われた。


(エマがついて来るって言ったときはびっくりしたけど、嬉しかったなあ)


「ちょっと、エレノア様?」

「あ、ごめん!」


 少し前を思い出し、しんみりと浸っていると、目の前のサミュがふてくされた顔でこちらを見ていた。


「えっと、エマに恋人だっけ。聞いたことないけど?」


 クールビューティーなエマはモテそうなのに、浮いた話一つ聞いたことがない。エマにはしっかりと休みも取ってもらっているが、異性と出掛けている、といった話は聞かない。


「じゃあ、好みのタイプは?」

「ちょ、サミュ、どうしたの?」


 エレノアに迫るサミュ。エレノアはその気迫に圧されつつ、慌てる。いつもの明るいサミュの様子が変だ。


「おい、俺の妻に何をしている?」


 真剣な表情のサミュに迫られ、エレノアが困惑していると、背後からイザークの声がした。


「ザーク様!」

「だ、団長……」


 後ろから聞こえた声はひやりとしていたが、エレノアが振り返ると、いつもの甘い笑顔のイザークが立っていた。


「エレノア、仕事お疲れ様」


 自然にふわりと自身の胸にエレノアを収め、イザークは抱き締める。


「ザーク様もお疲れ様です……」


 結婚後、人目を憚らず甘やかしてくるイザークに、エレノアはまだ慣れない。心臓がドキドキと煩い。


「それで?」


 イザークは鋭い目でサミュを見る。エレノアは胸の中なのでもちろんその表情は見えない。


「ち、違います! 僕はただ聞きたいことがあって……」

「聞きたいこと?」


 イザークの声の不穏さに、エレノアは埋められていた顔を出し、助け舟を出す。


「ザーク様、エマのことだって!」

「エ、エレノア様〜」


 サミュが焦った声を出す。どうやらイザークに言ってはいけなかったらしい。



☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:

お読みいただきありがとうございます!

サミュの話が思ったより長くなってしまい、良いところでぶった斬ると、前編が短くなってしまいました(汗)。後編も楽しみにしていただけると幸いです!番外編は不定期ですので、作品をフォローしていただけますと通知が行きますので、よろしくお願いいたしますm(_ _)m


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