第42話 真実
「エレノア様のおかげで、教会を解体出来そうです。危ない目にあわせて申し訳ございませんでした」
「ちょ、ちょっと待ってください! というか、いつも通りにしてください!」
捕らえられた全員が騎士団の牢屋送りになった。続々と人が送られていく慌ただしい中、オーガストがエレノアに恭しく頭を下げてきた。
「さすが義姉上、懐が深い」
「あの、さっきのは、ハッタリとか嘘ですよね……?」
エレノアの言葉にパッと態度を翻したオーガストに、エレノアは恐る恐る聞く。
「いえ? 本当ですよ? あなたからシスターの話を伺い、まさかと調べさせれば、あなたは王弟のご息女じゃないですか! いやー、驚いた」
オーガストはわざとらしい物言いで笑った。
「まさか、エレノアを囮にしたのか、オーガスト」
エレノアの肩を抱き寄せたまま、イザークがオーガストを睨む。
「怖い顔しないでくださいよ、兄上。どのみち騎士団の件で義姉上は教会に目をつけられたんです。それを利用しない手はないでしょう?」
「エレノアは危険な目にあった……!」
「ザーク様!!」
実際、オーガストの思惑通りに進んだ訳だが、イザークは割り切れずに憤慨していた。それをエレノアが止めに入る。
「エレノア……? 君は酷い目にあったんだぞ?」
「ザーク様が助けに来てくれました! それに、憎い教会をオーガスト様が一網打尽にしてくれました。それだけで私は嬉しいの。王家うんぬんは、まだよくわからないけど、役に立てたのなら良かった」
エレノアのために腹を立ててくれているイザークに、くすぐったい気持ちを持ちながらもエレノアは彼をまっすぐに見つめて言った。
「俺なんかと結婚しなければ、こんな目に合わなかった……」
「そんなことない! ザーク様と結婚したからこそ、私は強くいられた」
「エレノア……?」
悲しそうな表情のイザークに、エレノアが強く否定すれば、イザークの瞳が揺れた。
「あー、後はお二人で……事後処理は私がしますので」
「まずは手当てしましょうか、エレノア様」
二人の世界に入りかけた所で、オーガストとエマがコホン、と割って入った。
「やれやれ、やっと素直になれそうですね、お二人とも」
「な……」
「え?!」
オーガストの言葉にイザークもエレノアも顔を赤くする。
「団長、騎士団の方も僕がやっておくので、エレノア様のお側にいてください!」
第一隊の指揮をとっていたサミュが遠くから声をかける。
「そもそも、お前がエレノアを守りきれなかったせいだろ」
「オーガスト様に泳がせるように言われていたので……」
「なんだと?!」
イザークがグチグチと漏らすと、サミュも申し訳なさそうに答える。ギラリとイザークがオーガストを振り返ると、オーガストは「あー、忙しい!」と言って部屋から逃げ出した。
「まったく……」
サミュもエレノアに手を合わせて謝罪のポーズをすると、部屋を出て行った。
「あの、ザーク様? 私は大丈夫ですから」
「まったく、君は一番怒って良いだろうに……」
「そこがエレノア様の良いところです」
どこからどこまでがオーガストの手の内だったのかはわからない。それでも教会を糾弾出来て良かったとエレノアは心の底から思った。
「じゃあ、帰りましょう、エレノア様!」
「うん!!」
神官長は捕らえられ、教会は解体させることになった。
虐げてきた孤児の聖女たちは王家の元に保護され、療養をしている。モナやラミも回復していっているようだった。
エミリアは修道院に送られることになり、監視下の元、生涯幽閉されることになった。バーンズ侯爵家も取り潰しになり、教会と通じていたエミリアの父、財務相も幽閉された。
教会に偽物を掴まされていた貴族たちは王家派に回り、証拠の聖水をこぞって提出した。公爵家のオーガストと王家のエレノアの証言により罪状を定め、神官長をはじめ神官たちは刑に処される。
今回の騒動は教会信者たちにも激震が走ったが、王家の発表とサンダース商会の証言によって、一人の聖女の存在が明らかになった。その聖女こそが国の希望だと皆思ったが、それはまだ少し先の話になる。
「エレノア、ここにいたのか」
「ザーク様」
カーメレン公爵家に帰ると、ジョージを始めとした使用人たちが皆涙を流して喜んでくれた。皆、心配してくれていたのだ。
手当を受け、温かい食事を受けたエレノアは、離れの中庭にやって来ていた。ミモザはすっかり散って、緑の葉だけが残っている。
「ザーク様、助けに来てくれてありがとうございました」
「いや、俺こそ遅くなってすまなかった」
エレノアは立ち上がって改めてお礼を言う。
「傷まないか?」
イザークは手当されたエレノアの頬にそっと触れるように距離を縮めた。
思えばイザークとは喧嘩別れして以来だった。少し気まずい空気が二人の間に流れる。
「そうだ、これ……」
その空気を割くようにイザークがエレノアの指にそっと指輪を通した。
「これ……」
エミリアに奪われた指輪。エレノアの指に戻って来た。
「俺が戻って来るまでと言ったが、叶うなら、一生、その指に許して欲しい」
イザークの真剣な表情にエレノアの胸が跳ねる。
「エレノア、俺は君を手放すなんてやっぱり出来ない」
優しい風が二人の間を通り抜け、エレノアの頬をかすめていった。
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