第7話 さよなら大好きな人

俺が首を吊るために買った「ぶら下がり健康器」は単なる物干し竿になった。死ぬのが怖かった。死ねなかった。


左腕をタバコの火で焼いた。久しぶりに自傷した。26歳にもなって自傷をやめられない俺は子供だ。成長できない大人は惨めだ。「メンヘラ」なんて糞ダサい呼称で自分を呼ぶ気は無い。なにがメンヘラだよ。ふざけんな。俺もお前もメンヘラじゃなくて“人間”だろ。メンヘラとかいう“つまらない型”に自分を当てはめようとするな。お前も俺も立派な人間だ。メンヘラじゃないぜ。


賃貸で自殺すると、親族にとんでもない賠償金請求が行く。それを承知の上で俺は死のうとしたが、死ねなかった。


俺はアパートでは死ねない。というか、死ぬ気は今は無い。


朝はいつも悪夢で目が覚めて死にたくなる。


俺はASDという発達障害を持っている。


だから多分人の感情の機微が理解できない。


さよなら大好きな人。


酒を飲みながら、タバコを吸いながら、ヒルナンデスを見ていた。3歳の女の子が出てきた。かわいかった。子供は可愛い。


俺たち穢れきった大人が生み出したその子供は、とても純粋でかわいい。


俺はおっさんになっても純粋でいたい。痛い。


さよなら大好きな人。


俺は、おっさんになっても純粋でいたい。痛い。


さっきヒゲを剃って、歯を磨いた。


ひげはいつも剃ってる。俺はヒゲが似合わないから。


さよなら、大好きな人。


俺は強く生きていく予定だ。


最期の別れでも、泣かないよ、俺は。


さよなら大好きな人。




つづく

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