最終話 化け物

 獅子人の牙丸は目を細める。


「見たこともないタイプだな? しかし、所詮は鬼だ。我の敵ではない」


 そう言って大剣を振り下ろす。

 すると、凄まじい斬撃波動が発生して、俺に向かって飛んで来た。

 本来の俺なら両断されてしまう程の威力だろう。しかし、今は桃神の力が宿っている。よって、


バヂンッ!


 俺は素手でそれを払った。


「何!?」


「そんな攻撃、俺には効かないさ」


「ならば──」


 と、俺の眼前に現れる。

 凄まじいスピードである。

 並の鬼ならば、移動したことすら認識できないだろう。


「──直接、斬る!!」


ガシッ!


 俺は大剣を片手で受け止めた。


「何!? 斬れないだと!?」


「これが攻撃か?」


「このぉ!」


 牙丸の連撃。

 それは秒で100を超える。


「ダダダダダダダダダァッ!!」


 俺はその全ての斬撃を右手だけで防いでしまう。


「そ、そんな! 我の攻撃が通じないだと!?」


「終わりだな」


 俺は牙丸の腹に正拳突きを入れた。


「ゴホァアアアアッ!!」


 10メートル吹っ飛ぶ。


 勝負はあったな。


「き、牙丸が負けるだとぉ!?」


 将軍はブルブルと震える。

 そして逃げ出した。


「ヒィーー!!」


 おおっと、そうはいかない。


 俺は先回りした。


「どこへ行く?」


「ヒィーーッ!!」


 平和条約を無理やりにさせてやっても良いが、まずは1発殴らないと気がすまんな。


 その時である。


「ま、まだだ……」


 牙丸はヨロヨロと立ち上がった。


 こいつ……。

 こんな将軍の為に必死だな。

 何か弱味でも握られているのか?


「この馬鹿がぁ!! 早く鬼どもを皆殺しにしろぉおおお!! 貴様の子供がどうなってもしらんぞぉおお!!」


 あーー、なんかビンゴっぽいな。

 大方、子供を人質にして命令してるのだろう。


 しかし、もう俺との力は明白なんだよな。


 牙丸はフラフラの状態で大剣を持ち上げた。


「無駄だ。そんな攻撃、俺には効かん」


「やらねばならぬ! やらねばならぬのだーー!!」


 牙丸は号泣する。


「我が子の為、爪丸の為にぃいい! 負けるわけにはいかぬのだぁぁッ!!」


 きっと、無力な自分にやりきれなくなったんだ。俺に勝てないことを悟っているのだろう。

 自分の子供を救うことができず、鬼も倒せない。不甲斐ない自分に絶望しているんだ。


「やれぇ、牙丸ぅうう!! 貴様の命と引き換えてでも鬼を殺せぇ!! 化け物どもを皆殺しにしろぉおおッ!!」


 やれやれ。

 お前の方が化け物だよ。

 人間は、こんなにも醜い生き物なのか……。


 そんな時だ。


「お前さんの子供は、この子じゃないのかい?」


 お爺さんが小さい子供も連れていたのだ。

 その子は、牙丸そっくりの獅子の顔だった。


「爪丸! どうして!?」


「この老夫婦が、幽閉されている私を助けてくれたのです」


 爺さんはニコリと笑った。


「可哀想じゃったからな。助けてやったんじゃよ」


 爺さん、あんたは人間の鏡だ。

 こんなにも優しい人がいる。


「あわわわわわわッ!! ひ、低野! 化け物どもを、こ、殺せぇええ!!」


 と、尊氏は1人だけで逃げようとしていた。


 人間が束になってかかっても俺たちには通じないさ。

 牙丸が自由になった時点で、お前の敗北は決定したんだ。


 俺は尊氏の襟首を掴んで、高々と持ち上げた。


「ヒ、ヒィーーーー! ば、化け物がぁあ!!」


 俺の握り拳が尊氏の頬に向かう。


 老夫婦を人質にして桃太郎をけしかけ。平和を願った長老を殺害し、獅子人の子供を人質にして鬼たちを殲滅しようとした。


 手利 尊氏。




「化け物は、お前だよ!」




ボコァァァアッ!!



「はぎゃあああッ!!」


 奴は5メートルぶっ飛んだ。

 血反吐を吐き、折れた歯が飛散する。


 かなり力を弱めたよ。

 本気でやったら頭が潰れるからな。


 それに、こいつに死なれては平和条約にサインをする人間がいなくなる。


 そんなことを思っていると、牙丸が倒れ込んだ尊氏の頭を掴み、高々と持ち上げた。


 え?

 あ、いや、それはまずいって!


「よくも、我が子を人質にしてくれたな」


「あががががががーーーー!!」



グシャアッ!!



 牙丸の拳が真っ赤に染まる。

 尊氏は体だけになっていた。


 ああ。やっちゃったぁ……。


 牙丸は俺たちを見つめ、


「迷惑をかけた。我が子を助けてくれてありがとう」


そう言って去って行った。


 城内は大騒ぎである。


 とりあえず、一旦引き上げよう。


 俺たちは鬼ヶ島へと戻った。

 勿論、桃太郎と老夫婦も一緒に。


 将軍の配下は桃太郎の家族に何をするかわからない。大事をとって、彼女たちには鬼ヶ島で暮らしてもらうことにした。


 鬼ヶ島では長老の葬儀が盛大に行われた。


 そして、


「オニトくん。長老の後を継いでくれる?」


「自信はないが……」


 イーラさんは俺の手を握った。


「オニト。お前しかいないんだ。頼む」


 みんなも俺の元へと集まった。


「オニト様しかいねぇだよ」

「ご主人様。お願いするっす」

「オニトくん……。お願い」


 島中の鬼たちが俺の元へと集まって、時期長老が俺であることを公言する。


 こうなれば仕方がない。

 もう、俺がやるしかないだろう。


「わかった。やってみるよ。みんなも助けてくれるかい?」


「勿論よ」

「あったりめぇだぁ!」

「当然っす」

「私は命をかけよう」


 こうして、俺は長老の後を継ぐこととなった。

 

 尊氏の死後、新しい将軍は彼の子供が引き継ぐことになる。


 俺と桃太郎は城に訪問して交渉を続けた。


 それから数ヶ月後。

 ようやく理解を経て、人間との平和条約を結ぶことができたのだった。


 これで、晴れて鬼ヶ島は自由だ。


 本当の意味でスローライフが始まる。


「オニト様! 今日も豊作ですだ」

「ご主人様! 今日も大量っすよ! 活きの良い鯛が捕れたっす!」

「オニト。新しい酒を作ってみたんだ。みんなで飲もう」


 そして、桃太郎は女性用の着物を着ていた。その笑顔は、本当に可愛い。

 彼女の横にはお爺さんとお婆さんがいる。


「オニトさん! わしは貴方になら、桃を嫁にしても良いと思っとるんじゃ!」


「え!?」


「ちょ! 爺ちゃん、何言ってんだよぉ!! オニト、勘違いすんなよ!」


 何をだ?


「べ、べ、別にあたしはお前のことはす、す、す、」


「お前、酔ってるのか? 顔が真っ赤だぞ?」


「か、か、勘違いすんなよなーーーー!!」


 桃太郎の声は晴天に響いた。


 色々なことがあったけど、鬼ヶ島は今日も平和です。



おしまい。


────


最後までお読みいただきありがとうございます。

新作はラブコメとなっております。


伯爵令嬢に婚約破棄された最強の魔法剣士は教育係になる〜「あなたとよりを戻しても良くってよ」と言われても、優しい教え子がいるので、こちらから願い下げだ〜https://kakuyomu.jp/works/16817330651616924295


よければよろしくお願いします。


☆の評価など、していただけると創作意欲が増しますので、どうぞよろしくお願いします。

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俺、鬼に転生してました〜桃太郎の殺戮バッドエンドを回避してスローライフを目指します〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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