第20話 カラクリ
爺ちゃんと婆ちゃんが目の前に現れた。
無事に牢屋から脱出したんだ。
「桃! 無事かの!?」
「桃太郎や、無事かえ!?」
「え!? どうやって出てきたの?」
「わしと婆さんがな、牢屋を蹴破ったんじゃよ」
2人は桃色のオーラを身に纏っていた。
まるで、超桃を食べて桃神の力を宿したオニトのように。
どうして2人が!?
「お前のくれた握り飯を食べたからじゃよ」
「え?」
「オニト。これは一体?」
「フフフ。君が作った握り飯に、少々細工をさせてもらった」
「な、なんの変哲もない握り飯だったぞ?」
「君と本土に向かっている船の上で、君の力を借りただろ? 桃を超桃へとパワーアップしてもらった」
……それは覚えている。
「それがどうかしたのか?」
「その桃を小さく切って、握り飯の中に忍ばせたのさ」
「何!? でも、桃は光っているからバレてしまうぞ!?」
「だから米で隠したんじゃないか」
「ああ! 梅干しみたいに入れたのか!?」
「そういうこと。外見は普通の握り飯と変わらないからな。光が見えなければ怪しくはない」
「でも、どうして、
「君は演技が下手そうだからな」
「う!」
「渡す直前でバレては元も子もない」
た、確かに。
「俺が別行動で救出に向かうことも考えたんだけどな。侵入したことがバレて、お爺さんとお婆さんに何かあっては大変だ。だから、もっとも安全な策を講じたのさ」
「うう……。そ、そんなことまで考えていたのか……」
「君の握り飯なら、お爺さんとお婆さんは光る桃が入っていても食べた、ということさ」
爺ちゃんと婆ちゃんの輝きは静まった。
「おお、光が消えたぞい。凄い力じゃったのに惜しいのぅ」
よ、良かった。
2人は助かったんだ!
「爺ちゃん、婆ちゃん!!」
「おお、桃や」「桃太郎」
ああ、良かったぁ。
ありがとうオニト…‥。
☆
〜〜オニト視点〜〜
俺は将軍の目の前にあった条文を取り上げた。
「人質はいなくなったからな」
その紙をビリビリと破く。
「こ、このぉおおお! さては時間稼ぎだったのか!?」
「その通り。爺さんと婆さんが握り飯を食べるまでの時間が欲しかったのさ」
この条文は事前に長老と打ち合わせをして時間稼ぎ用に作っていた物だったんだ。
予定ではもっと早くに握り飯を食べてくれると思ったんだけどな。予想より遅くて冷や冷やしたよ。
「あ、あの握り飯に細工があったとは、抜かったわ! 者ども、出会えいぃいいッ!!」
将軍の言葉に、部下たちが刀を持って俺たちを囲む。
こっちには桃太郎がいるしな。
そもそも、鬼の力は人間より上。
こんなのちっとも怖くないんだ。
「まぁ、そう焦んなって。こっちは戦う気はないんだからさ」
「何ぃ!?」
俺は一枚の紙を取り出した。
「これは平和条約が書かれた契約書だ。人間と鬼とが争わないことが明記してある」
「それがどうした?」
「これにサインしてくれれば俺たちは大人しく帰る」
「何ぃ?」
「俺たちは鬼ヶ島で平和に暮らす。人間には一切干渉しない。それに、鬼ヶ島でできた農作物を提供することも考えよう。人間にとっては最高の条件なはずだ」
そう。
これは将軍にとって最高の条件。
ただで農作物が貰えるんだからな。
しかし、
「……ククク。ハハハ。カーーハッハッハッ!! バカが! 鬼と人間が仲良く暮らすだと!? バカも休み休み言え!!」
「なんだと?」
「貴様らは化け物だ! この世で一番偉いのは人間なんだよぉおおお!!」
桃太郎はキレた。
「この野郎ぉ! もう我慢の限界だ!! 将軍だからっていい気になんな! 引っ叩いてやる!!」
彼女は凄まじい速さで将軍の眼前へと到達。
強烈なビンタが彼の頬へと向かう。
その時。
桃太郎の前に大きな男が現れて、そのビンタを止めた。
「な!?
男の顔は獅子そのもの。
鬼とは違う妖怪か?
「ギャハハハ! 牙丸ぅ! やれぇえええ!! 皆殺しだぁああああああ!!」
どちらにせよ、将軍が用意した切り札のようだな。
桃太郎のビンタを止めるなんて相当な力だ。
獅子は口を開く。
その声は低く、唸り声のよう。
「我が名は牙丸。獅子人の牙丸だ」
そう言って背中に背負っていた大剣を抜いた。
桃太郎は距離を取り、刀を抜いた。
「気をつけてオニト。こいつ強いよ」
凄まじい殺気だ。
皮膚がひりつく。
「ギャハハハ! 俺が貴様ら鬼を易々と城に入れると思うてか!? バカめが! 牙丸に殺されるがいい! やれ!!」
牙丸は長老に向かって突進した。
は、早い!
大剣は長老を襲う。
ガキィイイイインッ!!
桃太郎は牙丸の大剣を止めた。
「鬼は殺させない!」
「ふん! 桃神族の娘か」
「
「人間に加担する愚かな神の一族よ」
牙丸の力は強かった。
あの桃太郎が押される。
その時である。
刀を持った将軍が、老夫婦を襲った。
「ひゃっは! 俺から逃げれると思ったかあ! 死ねえぇええ!!」
しまった!
間に合わない!
そう思った瞬間。
誰よりも早く動いていたのは長老だった。
長老の胸に刀が突き刺さる。
「ぬぐぉッ!!」
「ヒャッハーーッ!! この化け物がぁあああ!! ジジババを庇ったかぁあ!! 丁度いいわ!! ギャハハハ!!」
なんてことを!?
俺たちは警戒を強める。
まずは老夫婦を守らないと。
鷹氏は距離を取った。
「長老!!」
俺たちは急いで長老に駆け寄った。
「しっかりしてください!! キリエナ、止血だ!!」
長老は大量の血を吐いた。
震える手で俺の手を掴む。
「ろ、老夫婦は無事か?」
「はい! あなたのおかげです!」
「……そうか」
と、口角をわずかに上げた。
「……わしはもう助からん」
「そんなこと言わないでください!」
「鬼ヶ島はお前のお陰で大きく変わった。これからは平和な鬼ヶ島になれるじゃろう」
「長老。喋らないでください」
「ゲフゥッ! こ、これからはお前が長老じゃよ」
「………」
長老が俺の手を握る力は弱かった。
命の灯火が消えるのを感じる。
「フフ……。あの馬小屋掃除のオニトがなぁ……」
長老は老夫婦を見て満足げに笑った。
「最後に……。人間を助けられて良かったよ。……オニト、あとは任した」
そう言って目を瞑る。
彼の手は冷たくなっていた。
みんなは泣いた。
「「「 長老ぉおおお!! 」」」
桃太郎は牙丸と交戦する。
どう見ても押されていた。
獅子丸は強い。
俺が長老の代わりになれるかはわからないけど……心から思うよ。
みんなで幸せに暮らしたいと。
俺は懐から桃を取り出した。
それは眩い光りを放つ、超桃である。
俺はその桃をかじった。
瞬間。
俺の体は桃色のオーラに包まれる。
角は2倍の長さに伸びていた。
「こんな戦い。俺が終わらせてやる」
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