第19話 救出作戦

「鬼と何を話した? 正直に言わねばこの者らの命はない!」


 そう言って、爺ちゃんと婆ちゃんを槍の石突で突く。


「やめてくれ! 正直に言うから!!」


「ふふん。さぁ言え!」


「待ってくれ……。その前に確認だ。2人にはちゃんとした食事を与えてくれているのか?」


「ふん! そんなもん与えるわけがなかろう。飢えて死ねばそれまでよ」


「やはり……。握り飯を作って来た。どうか、与えてやってくれ。話しはそれからだ」


「やれやれ。老い先短い老人に与える米など、一粒でも勿体ないわ」


「飯くらい良いだろう! 頼む」


「ふん。おい牢番。調べろ」


「はっ!」


 それは笹で包んだ物だった。

 牢番は笹を開く。そこには白い米で作られた握り飯が2つ。


「普通の握り飯です」


「よし。いいだろう」


 握り飯は牢内へと放り込まれた。


 これはオニトからの気遣いだ。

 爺ちゃんと婆ちゃんの体を心配したオニトが握り飯を作ってくれた。

 直ぐに助けるからな。もう少しの辛抱だぞ。


「貴様の望みは叶えてやったぞ? さぁ言え。鬼と話したことを」


「人間と仲良くなる方法を話した。彼らは平和協定を結びたいんだ」


 これは事実だ。

 オニトは人間と鬼が平和に暮らせるように模索している。


「ふん。鬼の癖に気味の悪い」


「彼らは平和を愛している」


「腑抜けどもが。生を受ければ戦うのが本性よ」


 こいつの方がよほど鬼だな……。


「では、なぜ負けた? 鬼はどうしてお前に勝てたのだ?」


 ここからはオニトの指示どおりの答え方をする。

 

「油断したんだ」


「ほぉ……。監視の言葉では鬼の凄まじい力で貴様を倒したと聞くが?」


「鬼は人間より強い。でも、あたしには勝てないさ。酒を交わした仲だからな。つい油断してしまった」


「ふん。まぁ良い。こうして戻って来たということは俺の指示に従うということだな?」


「そうだ」


「では、兵力を増やそう。鬼ヶ島の制圧には必須だろう。貴様は本気で戦うんだ。次の失敗はないと思え」


「少し待ってくれ。実は鬼が本土に来ているんだ」


「何ぃ!?」


「将軍と平和条約について話しがしたいそうだ」


「ふん! くだらん!」


「長老、自ら、将軍に話があるそうだ」


「長老……だと?」


 これがオニトの計画だ。

 将軍が長老と話している隙にオニトが超桃を食べる。

 その力を使って爺ちゃんと婆ちゃんを牢屋から助けるんだ。

 しかし、疑問が残る。

 オニトは地下牢の場所を把握しているのだろうか?

 将軍が違和感を感じれば人質の命が危ない。

 オニトはそのことわかっているのだろうか?


 将軍は長老と会うことになった。

 3メートルを超える鬼である。


「ふん! 化け物が。わざわざ死にに来たのか」


 え? 

 あれ?

 ちょっとおかしいぞ?

 長老の横にいるのは……オニトじゃないか!

 どうしてオニトがここにいるんだ!?

 作戦では別行動のはず!

 オニトは爺ちゃんたちを助けているはずだ!

 どうしてこんな所にいるんだ!?


 あたしがアイコンタクトを送ると、彼はそれを無視した。


 おいいいいいい!

 ふざけるな!

 どういうつもりだオニトォオオ!?


 ま、まさか、地下牢の場所がわからなかったのか!?

 そうなのか? そうなんだろ!

 答えろオニト!


 しかし、オニトは長老と将軍の会話に集中しているだけだった。


 ……もしかして、計画の変わったのか?

 長老と組んで、新しい計画になったのかもしれない。


 そんな思いをよそに将軍は悪態をついた。


「化け物の言い分はなんだ? 俺は優しいからな。殺す前に聞いておいてやろう。くくく」


 この余裕はあたしがいるからだ。

 事前に念を押された。

 

『俺に何かあってみろ。少しでも違和感を感じればジジイとババアの命はないぞ』


 つまり、この状況での奇襲は不可能。

 将軍への攻撃はあたしが止めなければならない。

 いくら超桃があっても、それだけは絶対にできないんだ。

 だから今は、純粋に話し合いをする時間となる……。


「わしら、鬼は……。人間と仲良くしたいだけなのじゃ」


「ククク。化け物が戯言を」


「どうして鬼を憎む?」


「ふん! そんなのは決まっている。角が生えているからだよ! 人間と違う生き物だからだよぉおお!!」


「古来からそうじゃった。人間はわしらを忌み嫌う」


「当然だろう。化け物なのだからなぁ!」


「生き物という観点では同じではないか」


「同列に語るな。貴様らは化け物だ! 尊いのは人間なんだよぉお!!」


「……では、平和協定は結べぬか?」


「当然だろう。貴様ら鬼はここで死ぬ」


 長老は暫く考えた後に、1枚の紙を取り出して見せた。


「この条件ではどうじゃ?」


「なんだそれは?」


「鬼の契約書じゃ。約束を破れば雷が落ちる。ここには──」


 長老の言葉に、みんなが目を見張る。




「鬼が人間の奴隷になることが書かれてある」



 

 こんな話聞いてないぞ?

 長老の独断なのか?


 みんなもあたし同様、知らないようだ。

 オニトは直ぐに問いただす。


「どういうことですか、長老!?」


「この道しかないのじゃよ。もう人間との争いに疲れた。こういう平和も良かろうて」


 将軍は勝利を確信したように笑う。


「ふははは! 鬼が人間の奴隷になるだとぉおお!? 本気か!?」


「……この条文にサインをすればのぅ。わしら鬼は人間の奴隷になる」


「……待てよ? 約束を破れば雷が落ちると言ったか? まさか、俺を騙そうとしているのではないだろうな?」


「そんなことはせんて」


「信じられるか! 貸せ! その条文を読ませろ!!」


 将軍はマジマジと目を通す。


「言葉の細工があるやもしれん! 低野! 貴様も読んでチェックしろ!」


「はい。ただいま!」


 20分後。

 ようやく、彼らは納得した。


「ふぅむ。条文に怪しい所はない。良かろう。貴様ら鬼を、我々の奴隷にしてやる」


 そ、そんな!


「待て! オニト、正気か!?」


「ああ。長老が決めたことだからな……」


「そんなぁ。それじゃあ平和な鬼ヶ島にならないぞ!?」


「しかたないさ。人間と争うよりマシだ」


「で、でもぉ……」


 将軍は邪悪な人間だ。

 そんなことをすれば鬼の自由はない。

 きっと、農作物を強制的に作らされて搾取されるんだ。


 将軍がサインを書くために筆を持った。

 その時である。


 突然、城の下の階が騒がしい。


「殿! 地下牢が大変でございます!」


「なんだ騒がしい!?」


「老夫婦が逃げました!」


「何ィイイイ!?」


 ど、どういうことだ!?

 オニトとは違う別働隊がいたのか?

 いや、そんなはずはない。

 ここにいる鬼のメンバー以外、本土に来ていないのだからな。

 では、誰が一体!?


「老夫婦が、自ら牢を蹴破って逃げたのです!」


「み、自らだと!? そんなバカな!?」


 あ、あたしだってわからないぞ。


「オニト!? これは?」


「ふふふ。冷や冷やしたよ」


 え?


「お爺さんとお婆さんは、ようやく握り飯を食べてくれたようだ」


 握り飯?


「あ、あれに何か細工をしたのか?」


 オニトはニヤリと笑うのだった。

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