第18話 鬼と桃太郎
俺に起こった不思議な現象は、しばらくすると無くなってしまった。
超桃の効果は10分程度らしい。
桃太郎は目を覚ました。
「……こ、ここは?」
「俺の屋敷さ」
「オ、オニト……。無事だったのか……。良かった……」
「おかしな奴だな。俺を殺そうとしたのに、俺の心配か?」
「うう……ううう……」
彼女は再び泣き始めた。
「落ち着けよ。もう誰もいないからさ。この部屋には俺とお前だけだ」
みんな怖がってこの部屋には近づかないようになっている。
彼女は顔を覆った。
「ああ、どうしよう!? 爺ちゃんと婆ちゃんがぁああああ!」
号泣。
老夫婦は、彼女の育ての親だな。
どうかしたんだろうか?
「何があった?」
彼女は俺に抱きついた。
「どうしようオニト!? 爺ちゃんと婆ちゃんが殺されちゃう!! ああああ!!」
「どういうことだ?」
「将軍が……。手利 鷹氏が爺ちゃんと婆ちゃんを人質に取ったんだ……。うう……。言うことを聞かないと殺すって……ううう」
俺は彼女の涙を拭いた。
「じゃあ、君が鬼を殺しに来たのも、将軍の命令か?」
「……うん。ゴメン」
彼女の弱さに漬け込んだのか、卑劣な奴。
「……ああ、どうしよう。ううう……」
「どうして俺に相談しなかった?」
「監視がいたんだ。それでできなかった」
なるほど。
そういえば、桃太郎の船の後ろに黒い船がいたな。
この騒ぎで去って行ったが、あれが監視役だったのだろう。
「今頃は将軍に、
だったら、
「直ぐに帰らなきゃな」
「……」
「君が生き残っているのなら、老夫婦には手を出さないさ」
「……戻ったところで、また鬼を殺せと命令されるんだ。
さっきは俺に殺してくれとまで言っていたからな。
嫌でもその気持ちは伝わるよ。
でも、
「どうして、将軍は鬼を殺そうとするんだ? 俺たちは人に危害を加えていないのにさ」
「鬼ヶ島が欲しいんだ。この1日で米ができてしまう恵まれた島がな」
なるほど。
鬼と仲良くなるより、島を手に入れた方が早いってことか。
そのためには俺たちが邪魔。
桃太郎を使って皆殺しにしようとしたわけだな。
「とにかく君は戻れ。お爺さんとお婆さんが心配だ」
「うう……」
「心配するな。俺も行くから」
「え?」
「人間と仲良くするって言っただろ? そのためには将軍に考えを改めてもらわなくてはならないんだ」
「し、しかし……。あいつは鬼のことを理解できるような真面な人間じゃないんだ」
「大丈夫。無理やりにも納得させるさ」
「……」
彼女は不安気な顔で俺を見つめた。
「心配するな。俺には
「そういえば、不思議な現象だったな。そんな桃、どこで手に入れたんだ?」
「君がくれたんじゃないか」
「
「ほら、君と酒を飲んだ日さ。出生の秘密を教えてくれただろ?」
彼女は思い出す。
『
桃太郎が俺に
「ああ、あの時のか!」
「その桃を取っておいたんだよ」
「……なるほど。桃神の力を吸収して、あんなに強くなったのか……」
「あれは賭けだったけどな。君のお供みたいに巨大化して戻れなかったらどうしようって思ってたさ。おかげさまで桃の効果は10分程度。伸びた角は元に戻ったよ」
「そうか……。オニトはすごいな」
「いや、この桃がすごいだけさ」
「……お前なら。爺ちゃんと婆ちゃんを助けてくれるかもしれないな」
「おう。まかせろ」
「えへへ……。ありがとう」
ふふ。
「やっぱり笑ってる方が君らしいよ」
そう言うと、彼女は真っ赤な顔になった。
酒を飲んでいないのに、おかしな奴だな。
スッと、障子が開く。
「話は聞かせてもらいました」
キリエナ!
それにみんなも、いつの間に??
「私たちもオニト君にお供します!」
えええ?
「君たちは避難してたんじゃないのか?」
「私は秘書だもん。オニト君のことが心配なんだから、横にいるのは当然でしょ!」
「自分だって、ご主人様のことが心配っす!」
「オラだってオニト様のことが心配だべ!」
「ははは……」
その傍らにはイーラさんがいた。
「この件は既に長老に報告済みだ。人間と鬼との争いを終わらせなければならないと言っている。そのためには長老、自らが将軍に会うことも辞さないと」
なるほど。
長老が将軍に訴えれば何か変わるかもしれない。
しかし、
「本土は危険だぞ? 将軍の配下が俺たちの命を狙うだろう」
「大丈夫よ。オニト君がいるんだもん!」
「そうっす! ご主人様がいれば安心っす!」
「オラたちはオニト様のサポートに徹するだよ」
「長老の命は私が守る」
うむ。
頼もしい。
「よし、みんなで本土に行こう!」
俺たちは船を出した。
長老も同船する。
「オニトや。すまない」
「どうしたんです?」
「鬼ヶ島の命運は全てお前に掛かっておる。わしは長老じゃというのに、なんの役にも立っておらん」
「そんなことありませんよ。鬼たちが一致団結しているのは長老の存在が大きいのですから」
「優しいのう」
「ははは。そんなことないですよ」
「うむ。オニトがいれば安心じゃ。きっと上手くいくじゃろう。明るい未来しか見えんわい」
そう言ってもらえると嬉しいな。
みんなでハッピーエンドを迎えるぞ。
「必ず成功させます」
向かうは将軍の城である。
俺たちは綿密な作戦を立てた。
「桃太郎。
「うん。わかった」
彼女は桃に力を注ぐ。
桃は眩く輝いた。
よし。
これでいざという時は大丈夫。
俺が桃神の力を使えばなんとかなるぞ。
まずは、桃太郎が生き残っていることを向こうに知らせる必要があるな。
本土に着くと、俺たちは別行動をすることにした。
桃太郎は1人で手利城へ戻った。
☆
〜〜桃太郎視点〜〜
「ほぉ。生きていたとは意外だったな。監視の話では鬼の力に成す術がなかったと聞いたが?」
「少し、油断をしただけだ」
「油断したぁ? 監視のいない場所で、何かを相談したのではあるまいな?」
「…………爺ちゃんと婆ちゃんは無事か?」
「まぁいい。貴様が鬼と話したとしても人質がいればどうすることもできまい」
「どこにいる?」
「ふん。合わせてやろう」
「おお桃ぉ! 無事か!?」
爺ちゃんは
自分が牢屋に閉じ込められているというのに、
これが
「桃太郎や。無事で良かった。うう」
婆ちゃんは
本当に優しい人たちだ。
鷹氏は牢屋番から槍を取り上げた。
その切っ先を爺ちゃんの頬に突き立てる。
「やめろ!」
「黙れ。貴様が言うこと聞かねば、ジジイとババアの命はないと思え」
そう言って、槍を逆さまに持ち返すと、石突の部分で爺ちゃんと婆ちゃんを突いた。
「ぎゃはは! 老い先短いお前らの使い道があって良かったなぁああッ!!」
「「 ひぃいいッ! 」」
「やめてくれ! 言うことを聞くからぁ!」
「ふふふ。それでいいんだ。正直に言え。鬼どもと何を話した?」
必ず……。
必ず爺ちゃんと婆ちゃんを助け出す。
オニトは綿密な救出作戦を立ててくれた。
彼の計画なら絶対だ。
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