第17話 恐怖の再来


〜〜オニト視点〜〜


 俺は部下から報告を受けた。


「オニト様。桃太郎さんが来ます。今、第二セクターを通り過ぎました」


 早い!

 彼女が来たのは3日前だ。

 こんなに早くここに来るなんて……。

 つまり、平和条約が成立したんだ!


 俺はみんなを誘って彼女を出迎えることにした。

 島中の鬼たちが桃太郎を出迎える。

 千人以上は集まっただろうか。

 彼女が鬼ヶ島に着くと満面の笑みで出迎えた。


「よく来てくれた!!」


「…………」


 桃太郎は神妙な面持ちで船を降りた。


 あれ?


「どうした?」


「……」


「おい、どうしたんだよ?」


「……」


 彼女は黙り込む。

 明らかにいつもと違う。


 もしかして、


「……条約が上手くいかなったのか?」


 彼女はがっくりと項垂れて、体をわずかに振るわせる。


「おいおい。どうしたんだよ?」


「うう……」


「え?」


「うううう…………」


 顔を上げると、その目からは涙が流れていた。


「どうした!? 何があったんだ!?」


「オニト。……すまん」


「おい桃太郎! 訳を話せ!!」


 彼女は刀を抜く。

 その切っ先を俺に向けて、信じられないことを宣言した。






「滅んでくれ」






 何!?


 と、思うやいなや。

 彼女の素振りが衝撃波を起こした。




ズシャァアアアアアアアッ!!



 それは遠くの山の先端を切った。

 俺の頬はその風圧で切れた。

 辛うじて、その斬撃はみんなの頭上を通り抜けている。


「おい! どういうつもりだ!?」


「ううう……ううううう」


 彼女は号泣する。


 一体、何があったんだ!?


「おい、桃太郎!! 答えろ! 何があったんだよ!?」


 秘書のキリエナも驚愕である。


「桃太郎さん!」


 港に来ていたみんなは大混乱。


 桃太郎は更に涙を流す。

 再び、鬼たちを避けて、斬撃波動を発生させた。


 当てる気はないのか?

 しかし、島が破壊されてしまう。


 一振り、二振り。彼女が軽く振るだけで、島の大地が抉れるほどの波動が生じる。


「やめろ! やめてくれ! 島が壊れる!!」


「ううう……」


 イーラさんは金棒を構えた。


「やはり、桃太郎は鬼の敵だ! こんな奴、信用するんじゃなかった!!」


「イーラさん。待ってくれ! 戦っちゃダメだ!」


 それに、俺たちが戦ったところで敵う相手じゃない。


「ご主人様、怖いっす!」

「オニト様。オラどうしたらいいんだべか!?」


 みんなパニックだな。


「桃太郎! 頼むからやめてくれ! みんな怖がってる!!」


「ううう……」


 しかし、彼女の斬撃は止まらなかった。

 

 仕方がない。

 暴力なんて振るったことはないが……。

 俺がやるしかない。


「オニト君! 逃げようよ!」


 ダメだ。


「それはできない。俺が逃げればみんな殺される」


「じゃあ、みんなで島を出ればいいじゃない!」


「鬼ヶ島から出ても、鬼が住める場所なんてないだろう」


「で、でもぉ……。このままじゃ、みんな……」


 前世でも、殴り合いの喧嘩なんか一度だってしたことがなかったな……。

 今はそんなこと言ってられない。

 やるしかないんだ。

 

「桃太郎と戦うしかない」


「殺されちゃうわよ!」


 確かに。

 以前のオニトならそうだろう。

 俺の力なんか、鬼ヶ島の中では下の方なんだからな。


 でも、俺には、


「これがある」


 取り出したのは1個の桃だった。

 それは淡い光を放ち、凄まじい力を内包していた。


「オ、オニト君。それは?」


 これは、桃太郎と酒を飲んだ時に、彼女から貰った桃だ。

 桃神の力を注ぎ込んだ、光る桃。

 黍団子では超黍団子と呼んでいたからな。

 さしずめ、超桃スーパーピーチ、といったところか。


 桃太郎から渡されたこの桃は、腐ることなく光りを放ち続けている。

 何かに使えるかもと思って保管していたが、まさか、俺が食うことになるとはな。


 超黍団子を食べて、3匹のお供は巨大化してパワーアップした。

 なら、この桃を食べたらどうなる?


 


「桃太郎。俺が相手だ」




 ガブっと。

 俺は超桃スーパーピーチをかじった。


 その瞬間。

 身体中に凄まじい力が駆け巡る。


「うぉおおおおおおおおおお!!」


 爽快で、心地いい。


 湧き上がるパワー。


 なんだこの力は!?


 やはり、あのお供のように巨大化するのだろうか?


 そんなことを思っていると、額の角が2倍以上も伸びた。


 どうやら、背丈は変わらないようだ。

 でも、体から凄まじい力がオーラとなって噴き出ている。


 俺は桃の様なピンク色のオーラを身に纏った。

 おそらくこれは、桃神族の力。


「オニト君が変わったわ!?」

「どういうことっすか!? ご主人様が変わっちゃったっす!」

「オニト様が変身したべ!?」


 桃太郎は俺の変化など、気にも留めない。

 ただ涙を流し絶叫する。

 いや、絶望していると言った方がいいのかもしれない。


「うぁあああああああああああああッ!!」


 桃太郎。

 お前を止める!


 彼女が刀を振り下ろす。

 その瞬間、凄まじい斬撃波動が俺を襲う。


「避けてオニト君!」


 否!




 避けない!




 裏拳で、




 

 弾く!





 バジン! と俺の甲が波動に衝突。

 一瞬にして、その力は消滅した。


「え!? オニト君が斬撃波動を消した!?」

「すごいっす! ご主人様すごいっす!!」

「あんれまぁ! オニト様ったら桃太郎さの攻撃を防いだでよ!!」


 なんとかなりそうだぞ。


 桃太郎は再び刀を振り上げた。


 そうはいかない。


 振り下ろす瞬間。

 俺は1歩、前へと踏み出した。


ギュゥウン!


 え?

 

 自分の速さに驚く。

 10メートルの距離を縮めるのに1秒もかからない。

 なんて速さだ。


 この力なら、


 俺は桃太郎の刀をガシッと鷲掴みにしていた。

 その皮膚は硬く、斬れる様子すら窺えない。


「やめろ!」


 彼女は驚く様子もなく。

 ただ泣くだけ。


「うう……」


「落ち着け、桃太郎」


「ううう……」


「訳を話せ!」


 俺の要求に彼女は、とんでもない言葉を発した。


「殺してくれオニト」


「何言ってんだ!?」


あたしを殺してくれぇえええええええ!」


 その瞬間。

 彼女からも、桃のようなピンク色のオーラが噴き出した。

 桃神族の力というやつか。

 彼女を中心に台風のような豪風が吹き荒れる。


 みんなは更に大パニック。

 桃太郎の圧倒的な力に俺の安否を心配した。


「オニト様が殺されてしまう!」

「オニト様ぁああ!!」

「逃げてください!!」


 いや、彼女を止めなければならない。

 

 桃太郎は更に力を増して、俺の手を振り解こうとする。



「オニトォオ。あたしを殺してくれぇえええ!!」



 やれやれ。



「そんなこと、できるわけがないだろう」



 俺は彼女の腹部に拳を入れた。


 ボスン……。


 桃太郎はその衝撃で気を失う。


 この呆気ない結末にみんなは理解が追いつかなかった。


「へ? も、桃太郎が……?」

「倒れちゃっただよ……」

「オ、オニト君が……。か、勝っちゃったの……?」


 俺は桃太郎を抱っこする。

 すると、みんなは状況を把握した。


「すごいっす!! 桃太郎に勝っちゃったっす!!」

「流石はオニト様だべ!!」

「また、鬼ヶ島が救われたわね!!」


 出迎えに来ていた大勢の鬼たちも大喜び。

 みんなは俺の元へと駆け寄ると、口々に桃太郎を罵倒した。


「酷え野郎だな!」

「桃太郎は俺たちを裏切ったんですよ!」

「そんな奴、切り刻んで海に捨てちゃいましょうよ!」


 気絶してるだけなんて言いにくい雰囲気だな……。


「オニト君……。もしかして彼女まだ……?」


 俺はコクンと頷いた。


「俺の家に連れて行こう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る