第16話 桃太郎の秘密
桃太郎の話は童話でも有名な話だよな。
でも、彼女の話は細部が特殊だ。その裏設定とでもいうのだろうか。
「
「とうじんぞくってなんだ?」
「桃の神、ピーチアダンデスの力を授かった人のことさ。姿形は人間そっくりだが、成長速度は人の3倍。力は100倍だ」
なるほど。
桃太郎は普通の人間じゃなかったのか。
まぁ、普通は桃から生まれないからな。当然といえば当然か。
彼女は、一太刀で島の地形を変えてしまうほどの斬撃を放つ。
あれは桃神族の力だったんだな。
「
「なるほど……。そんなことが……って」
5年前だと?
「じゃあ、君は5歳なのか?」
「そうだ。人の3倍だから15歳だな」
15歳ですか……。
彼女の胸には大きな胸がたわわに揺れていた。
大きく育ってますな……。
「それじゃあ──」
と、俺は3匹のお供を見つめる。
そこには象より大きな、犬、猿、雉が大人しく待機していた。
「あの大きな獣はどうやって見つけたんだ? ジパングの獣ってみんなあんなに大きいのか?」
「まさか。本土の獣は人より小さいさ。あの犬なんか、出会った頃は
じゃあ……。
「巨大化させたのか?」
「そうだ。婆ちゃんの黍団子を食べてな」
「え!? あの団子にそんな成分があったのか!? 俺たち、食べちゃったぞ!?」
「ははは。婆ちゃんの黍団子は普通の団子さ。そんな成分はないよ」
「ほっ……。それは良かった」
「
彼女は近くに生っている桃をもいだ。
「ふっ!」と力を込めると、桃は光を放つ。
「こんな風にな。
俺は光る桃を手に取った。
随分と神々しい。
確かに、凄まじい力を感じるな。
「じゃあ特別な黍団子だったんだな」
「そうだな。名付けるなら超黍団子とでも言おうか」
「ははは……」
安直だな。
まぁ、分かりやすい名前か。
「その超黍団子を食べて、3匹のお供は桃神の力を得た。いわば桃神化だ。よって通常の100倍の力を得ている」
なるほど。
それであんなに強いんだな。
桃太郎は、宴を楽しんでいる鬼たちを見つめた。
「本当に良い島だ」
桃太郎はピーチアダンデスの使命を果たしたいのだろうか?
「……君は今でも鬼を滅ぼしたいと思うかい?」
「まさか。
「なら俺と同じ考えだな」
と、俺はニコリと笑う。
そんな顔を見て、彼女は頬を赤らめた。
酒の酔いが回ったのだろう。
「……そ、そうだな。お、同じだな」
「ふふふ。じゃあ、たくさん飲んでくれ。今夜は酔い潰れよう」
と、桃の酒を彼女についだ。
桃太郎は満面の笑みでそれを受ける。
俺たちは宴を十分に堪能した。
そんなこんなで、桃太郎は3日間滞在した。
見送りの時。
彼女の船には大量の酒と農作物が積まれていた。
俺は彼女に条文を渡す。
それは平和条約の内訳が書いてる契約書だった。
農作物と酒の提供、そして鬼と人間が争わないことの絶対条件が明記されている。
サインさえ貰えれば条約は成立だ。
これで晴れて平和な鬼ヶ島となる。
「くれぐれも将軍にはよろしく頼むな」
「ああ」
「任せた」
「あ、あのさ……」
と桃太郎は顔を赤らめる。
どうやら、まだ酒が抜けてないらしい。
二日酔いだろうか?
「どうかしたのか?」
「た、楽しかった……」
なんだ、そんなことか。
「ああ。俺もだ」
「……ま、また来てもいいか?」
「おう。その時には新しい酒ができてると思う。いつでも歓迎するよ」
「そ、そうか……。へへへ。た、楽しみだな」
「ああ」
「…………」
ん?
まだなんかあるのかな?
「……か、勘違いするなよな」
「なんのことだ??」
「べ、べ、別にお前に会いたいから、ここに来るんじゃないからな」
「え? あ、ああ。美味い酒が飲めるからな」
「そ、そうだぞ。だから来るんだからな」
「ああ」
「か、勘違いするなよな」
桃太郎はそう言い残して出港した。
何を勘違いするんだろう??
秘書のキリエナは遠ざかる船を見て呟いた。
「分かりやすい……」
一体なんのことだかさっぱりわからん。
☆
桃太郎は本土に帰る途中、船上でもがいていた。
「バカバカバカ!
象よりも大きなお供の3匹はその姿を見守る。
桃太郎は犬の体にしがみついた。
「嫌われちゃったかなぁ? ねぇ、どう思う?
犬は困って、
『クゥウウン……』
と、鳴くだけだった。
ーー手利城ーー
桃太郎は将軍に鬼ヶ島のことを伝えた。
「何!? 野菜は半日、米と酒は1日でできるだと!?」
「そう言ってるだろ。鬼ヶ島はそういう特別な環境なんだよ」
「では、鬼の術とかではないのか?」
「鬼たちも知らなかったからな。鬼ヶ島の環境さ」
「うーーむ。では、鬼は関係ないのか……」
将軍はいやらしい笑みを浮かべた。
「とにかく条文に名前を書いてくれよ。鬼たちは酒と農作物を提供するって言ってくれてんだからさ」
「フン! こんな紙切れ!」
ビリビリと破く。
「何をする!? 大事な契約書なんだぞ!!」
「もう鬼に用はない」
「何ぃ!?」
「欲しいのは鬼ヶ島だ」
「なんてことを言うんだ! あそこは鬼たちの住処だぞ!」
「知ったことか! 鬼ヶ島を占拠すれば、農作物を大量生産できる。本土の力が増せば、海外の領土に手を出せる! さすれば、我が領土は更に拡大しようぞ!」
「……どこまでも欲深い奴」
「フン! それが我が本懐! 我は将軍なのだ。ジパングの土地は俺の物だ。つまり、鬼ヶ島は俺の物なんだよ!!」
「あそこは鬼たちの島だ!」
「そんな理由が通じるか。気味が悪い鬼なんか殺してしまえばいいのだ」
「あ、あいつらは平和に暮らしたいだけだ!」
「鬼が平和だと? 笑わせるな! 奴らは人間の敵だ」
「違う! みんな良い奴だった!!」
「笑わせるな! 鬼は化け物なんだよ!! この世からいなくなればいいんだ!!」
「そんなことはさせない!」
「俺に逆らうのか?」
「そうだ。例え将軍でもな。
「ふん。桃から生まれたか……。所詮は貴様も化け物よのぉ」
「貴様ぁ。それ以上の侮辱は許さんぞ!」
桃太郎は刀に手をかけた。
彼女の怒号に城外で待機していた3匹のお供も身を構える。
将軍の部下たちは恐れおののく。
しかし、鷹氏は笑った。
「くくく。怖がると思うか?」
将軍はパチンと指を鳴らす。
すると、横の襖がスッと開いて、中から低野が現れた。
彼は桃太郎のお爺さんとお婆さんを縄で縛りあげていた。
「爺ちゃん! 婆ちゃん!!」
老夫婦は彼女の声に、ただ涙を流し、弱々しい声をあげる。
「「 桃太郎…… 」」
低野は短刀をお婆さんの喉仏に構えた。
「おっと、動くなよ。おかしな動きをすれば、この老婆の命はない」
「んぐぅ……」
鷹氏は笑った。
「貴様の高圧的な態度には以前から腹が立っていたのだ。将軍に楯突くなんて許されると思うか?」
「……んぐ。気に入らないことがあったなら謝る。だから、爺ちゃんと婆ちゃんを離してくれ!」
「ははは! だったら俺の言うことを聞くか?」
「……ああ。な、なんでも聞いてやるよ。だから、爺ちゃんと婆ちゃんには酷いことはすんな」
「くくく」
鷹氏は汗を流す桃太郎をじっくりと堪能した。
この瞬間こそが彼にとって最高の生き甲斐なのだ。
相手の力を無力化し、確実な勝利の余韻に浸る。
たっぷりと楽しんでからこう言った。
「鬼を殺してこい」
「え?」
「鬼ヶ島の鬼を全て殺してくるんだ」
「な、なんだと!?」
「くくく。鬼を皆殺しにすれば、ジジイとババアの命は助けてやる」
「そ、そんなこと、できるわけがないだろ!」
「ははは! だったらこの2人の命はないなぁあああ!!」
将軍は心得ていた。
桃太郎と、この老夫婦が仲が良いことを。
事前に村に聞き込みをして、桃太郎の身辺調査をしていたのだ。
彼女の弱みを握り、命令に従わせる。
戦略家としては申し分ない方法であろう。
しかし、邪悪な手法であることには変わりなかった。
桃太郎は下唇を噛む。
自分の無力さに怒りを感じ、吐き気を催す将軍の醜悪さに堪えた。
「明日の朝には鬼ヶ島へ行け! 貴様には監視を付ける。怪しい動きはするなよ。少しでも異変を感じたらジジイとババアの命はないぞ。ククク」
翌日。
桃太郎は鬼ヶ島へ向けて船を出した。
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