第15話 桃太郎、鬼ヶ島を知る

〜〜オニト視点〜〜


「土産があるんだ」


 と、桃太郎は大きな包みを開けた。

 そこには大量の黄色い団子と何かの種が入っていた。


「これは?」


「ふふふ。婆ちゃん特製の黍団子だ」


「おお!」


 これが噂の……。

 桃太郎といえば黍団子だよな。


「これを、お供の3匹にあげて仲間にしたんだよな」


「え? なんでそんなことを知っているんだ?」


「あ、いや……。なんとなくそう思っただけだ」


 危ない……。

 彼女には俺が前世の記憶持ちであることは秘密にしている。

 元、人間だったことがどれほどの影響があるかはわからないが、平和条約の切り札として残しておく方がいいと思う。


「おいしいわ♡ この団子、甘くておいしいよオニト君」


 秘書のキリエナは早速、黍団子を食べて喜んでいた。

 俺も1つ食べてみる。


「うん。美味い!」


「婆ちゃんは村で一番の団子作りの名人なんだ」


 随分と自慢げに言うな。

 よほど、お婆さんが好きなのだろう。


 そういえば、この紅色の種は何かな?


「これは?」


「黍の種さ。鬼ヶ島で見なかったから思って持って来たんだ」


 おお!

 こりゃ助かる。


「ありがとう!!」


 俺が笑顔を見せると、彼女は顔を赤らめた。


「お、おう……」


 酒でも飲んできたのかな?

 まぁいい。


「んじゃあ、早速、畑に行こう」


 俺たちは畑へと向かった。


「桃太郎さ。オラが農業チームのリーダーを務めさせていただいております、マイっていう者だ」


「ああ。よろしく」


 軽い自己紹介の後、桃太郎は黍の種を渡した。


「ほえーー。黍っていうんだべか!」


 マイは初めて見る穀物の種に興味津々である。


「早速、蒔いてみよう」


「あは! 楽しみだべな♡」


 桃太郎は腕を組んだ。


「だいたい100日くらいで収穫ができるぞ」


 俺とマイは目を見合わせて笑う。


「ふふふ。それじゃあ、水を撒いてから少し様子を見てみますか」


「なぜだ?」


「まぁいいから待てって」


 10分もすると土から芽が出て来た。


「え!? どうして!?」


「これが鬼ヶ島の土壌の性質なんだ。米は1日。野菜は半日でできてしまう」


「凄いッ! それで、あんなに大量の米と野菜を短時間で作れたのか!」


「オニト様は、この土壌の性質を利用して様々な野菜を作るように指示してくれただ。オラはその指示にしたがって野菜を育ててるだぁよ。おかげで色んな野菜が食べれることになっただ。鬼ヶ島の生活が見違えるように変わっちまった」


「うぅむ。流石はオニトだな……」


 いやいや。


「鬼ヶ島の土壌が凄いだけさ。次は酒作りを見に行こう」


 俺たちは酒蔵に移動した。


「私はイーラ。この酒蔵を指揮している酒造チームのリーダーだ」


 彼女は桃太郎を睨みつけていた。

 腰にはしっかりと武器である金棒を備えている。


 イーラさんは桃太郎の襲来を目の当たりにしたからな。そう簡単に仲良くはできないよな。


 桃太郎は、そんな彼女の殺気を察して距離を取りながらも酒造の説明を聞く。

 イーラさんは淡々と説明した。


「この酒樽に綺麗に洗った桃を入れる。そこに加熱殺菌して冷ました水を入れ、蓋をして1日放置すると、桃の酒が完成する」


「い、1日だと!?」


 ここは俺がフォローしようか。


「この現象も野菜作り同様、鬼ヶ島の不思議な所でな。桃は1年中、実をつけている。そしてどういうわけか、もいだ桃は直ぐに腐るんだ。果物でも、なぜか桃だけに起こる事象なんだ。そんなこともあって、鬼たちは桃を嫌っていたんだけどな」


「ふぅむ。ジパングの本土じゃ、そんなに直ぐには腐らないがな。真夏でも数日は保つ」


「逆にその性質を利用して、桃の酒を作ることができたんだよ」


「これはオニト君が発明したのよ。鬼のみんなも驚いていたわ」


「ふぅむ。並の発想力ではないな……」


「ははは。たまたま発見しただけさ」


 イーラさんは別の酒樽も見せてくれた。


「桃の1日発酵は他の果実にも影響があってな。一緒の樽に入れると同じように発酵するんだ。こちらは梅と桃。あっちはりんごと桃だ」


 これは最近になって発覚したことだ。

 桃の腐敗は他の果物にも影響が出るのは島内で有名だった。桃と果実は別々に保管する。これは島内の常識だ。

 俺はそのことに着目して、桃と一緒に酒を作ってみた。

 そしたら簡単に発酵ができてしまった。

 後は、イーラさんと協力して、大きな酒樽を作って、量産したというわけ。


 桃太郎は目を見張る。


「じゃあ、酒は桃の酒だけじゃないのか!?」


「ああ、今は10種類の果実酒が飲めるようになっているよ」


「じゅ、10種類!? そ、それをたった1日で作ってしまうのか!?」


「そうだな」


「す、すごすぎだろ……。本土でも、酒作りは3ヶ月もかかるのに……」


「ははは。鬼ヶ島は特別なんだ」


 イーラさんは俺も知らない酒を木のコップに入れた。

 それをみんなに配る。


「飲んでみてくれ」


 ふむ。

 甘さの中にもスーーっとした不思議な感覚があるな。

 これは……?


「果実以外の物を入れたのか?」


「薬草を少しな。口当たりのいい薬草を桃の酒に混ぜて新しい酒を考えているんだ」


「へぇ。イーラさん。やるなぁ。つまり薬膳酒だ」


「ふふふ。オニトだけに頼っていても進歩がないからな」


 ふふ。

 彼女を酒造チームのリーダーにして正解だったな。


「桃太郎はどうだ?」


 と、俺が見るやいなや、彼女は全種類の酒を試飲していた。


「どれも美味い!!」


「ははは。まぁ、大量にあるから帰る時は持って帰ってくれよ」


「うん!」


 昼飯をみんなで食べる。

 その後は漁業を見学することになった。


「今日も立派な鯛が捕れたっす!」


 そう自慢するのは漁業チームのリーダー、チレッテだ。


 鯛の大きさは50センチ以上はあるだろうか。

 他にも、投網にかかっている魚は大量だ。

 桃太郎は目を見張る。


「うーーむ。本土でもこんな立派な鯛はめったに捕れないがな……」


「鬼ヶ島はさ、周りの海域に魚が大量にいるんだ。それに、彼女は漁業の腕が良いからな。立派な魚を捕ってくれる」


「腕が良いなんて……。照れるっす。自分はただ、ご主人様が提案してくれた投網で魚を捕っているだけっすよ」


「ふふふ。謙遜するなよ。チレッテが捕ってくれるから、毎日、美味い魚が食べれるんじゃないか」


「たはぁ♡ 魚捕りは趣味みたいなもんすよ。遊んで褒められるんだからやめれないっす」


 桃太郎は喜ぶチレッテを見つめていた。


 夜は桃太郎を囲んで宴会である。


 彼女は綺麗な月を見つめていた。


 何かを思い詰めた顔だな……。


「どうした? もう飲まないのか?」


「良い島だな」


「え?」


「鬼たちが充実している」


「ああ。まだまだ、こんなもんじゃないぞ。もっと便利に快適に、美味い物を食べて楽しく暮らせる島にするんだ」


「全部、お前のお陰だな、オニト」


「いやぁ。俺なんか、アイデアを出しているだけで大したことはしてないさ。働いてるのは鬼のみんななんだからな」


「謙遜するな。鬼がこんなに変わったのはお前のお陰さ」


「……ははは、自覚はそんなにないけどね」


 なにせ、俺には鬼の記憶がないからな。


「鬼は人間の敵だった。邪悪で、畏怖の対象だ。桃の神、ピーチアダンデスは、あたしに滅ぼすように命じた」


 ピーチ……。


「アダンデス?」


「前にも言っただろう。私は桃から生まれた。桃の神の使者だと」


 彼女は自分の出生の秘密を話し始めた。

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