第13話 桃太郎、鬼ヶ島で食事をする

〜〜オニト視点〜〜


 キリエナに黄金のことを話してみた。


「そんな物、鬼ヶ島にはないわよ?」


 うーーん、やっぱりか。

 鬼が興味があるのは食料だけだからな。


「そんなはずはない。将軍は胸を張って言っていたぞ」


 と、桃太郎は訝しがる。


 言葉だけじゃ納得はしないみたいだな。


 俺と桃太郎は、キリエナの案内の元、鬼ヶ島の宝物庫へと到着した。


 そこは、鬼が人間と遭遇した際、置き忘れた物を保管している場所。

 

 鬼といえば、前世の童話では人間から奪った宝なんだけどさ……。


「これが宝?」


 そこにあるのは古びた刀、かんざしに反物といった日用品ばかり。


「黄金なんて無さそうだな」


「でしょ。私たちは置き忘れた物を持って帰ってただけだもん。だから、宝飾品は少ないわね」


「そういえば、鬼の生活ってのんびりしてるよな。貧富の差が少ないというか」


「人間から奪った資源は平等分配だったからね。1人だけ金持ち、とかはいないわよ」


「へぇ」


 俺の態度に、桃太郎は小首を傾げた。


「……お前、鬼の癖に人ごとみたいに言うんだな?」


 そういえば、桃太郎には俺が鬼の記憶を失って前世の記憶持ちであることは伝えていない。

 だから、鬼ヶ島のことなんてあんまり知らないんだよな。

 今後の交渉のことを考えたら黙っているのが得策か。

 何か理由が必要だな。


「俺、馬小屋の掃除当番だったからさ。人間の忘れ物を持ち帰ってくるのは探索隊っていうチームだったんだ」


「なるほど。では、オニトは人の物は奪ってないんだな?」


「当たり前だろ」


「ふふふ。益々、好きになっ……ゲフンゲフン!! な、なんでもない!!」


「?」


 とにかく、


「宝を返せってんなら返すけどさ。こんなの返して将軍が満足するかな? 鬼が人間から取っていた物はほとんどが食料だったみたいだしな」


「ふむ。返せというなら返すしかなかろう。無い袖は振れん。これで納得させるさ」


 うーーん。

 黄金と日用品とじゃあ天と地だな。これじゃあ将軍は納得しないだろう。


「例えばさ。取った物を返すってのはどうかな?」


「それは食料だろう? 食べてしまった物は返せんだろう?」


「ふふふ。まぁ、見てくれよ」


 俺は桃太郎を農地へと案内した。


「こ、これは!?」


 彼女は目を見張る。

 眼前には風に揺れる稲穂が広がっていた。


「みんなで米を作ったんだ。こっちは畑」


「え!? トマトに胡瓜だと!?」


「まだまだ、あるぞ。じゃがいも、南京、西瓜にごぼう。野菜はほぼ作れている」


「す、凄い……」


「昼飯は食べたか?」


「え? いや、まだだが……」


「丁度いい。俺の家で飯でも食おう」


 再び、桃太郎は驚く。


「こ、これは!?」


 そこには、おにぎり、焼き魚、野菜の煮物、酒が並んでいた。


「酒と魚は人間から奪った物なんだろう?」


「いーーや。全部、この島で作ったんだ」


「な、なんだと……?」


「桃太郎さん。オニト君が言っていることは本当です。彼の指示で鬼たちが働いて作ったんです」


「魚は?」


「漁業チームを作って捕獲している」


「酒は?」


「酒造チームがある。桃から酒を作っているんだ」


「す……凄い」


「まぁ、まずは食べようよ」


 桃太郎は握り飯を噛んだ。


「う、美味い!! なんだこの米は!? ふっくらとして、人間が作ってる米より美味いぞ!!」


「ははは。みんながんばって作ってくれてるからさ。努力の成果だな」


「ガツガツ、美味い美味い!! 野菜も美味い! 握り飯と合う!!」


「ははは。たくさんあるから腹一杯食ってくれよ」


「ゴクゴク。ぷはーー! この桃の酒は格別だな! 初めて飲む酒だ! めちゃくちゃ美味い!!」


「気に入ってくれて良かったよ」


「焼き魚も最高だ! 新鮮で美味い!!」


「漁業チームが毎朝海に出てさ。投網漁で捕ってくるんだ」

 

 桃太郎は食事を堪能した。


「ふぅ。最高だ」


「食後はデザートだろ?」


 俺たちは綺麗に切った桃を食べた。


「なぁ、桃太郎。黄金の代わりにこの食料を持って帰るのはどうだろう?」


「……なるほど。これなら将軍も納得するかもしれんな」


「それに……」


 人間と仲良くするには、それなりに譲歩する必要があるかもしれない。


「定期的に食料を人間に提供するというのはどうだろうか?」


「ほぉ」


 一応、鬼は何もしてないが、怖がらせていたのは事実なわけで。


「鬼側が、今更、平和条約を持ちかけても納得は難しいと思うんだ。仲良くなるのは難しいかもしれないけど、お互いに争わない条件として、鬼側が食料を提供する。これなら随分と条件のいい条約だと思うんだ」


「ふむ」


 幸い、鬼ヶ島は農作物も酒も大量に生産できるからな。

 1万人の鬼が何不自由なく楽しく暮らせて、尚且つ、人間に食料を提供してもなんら問題はない。


「流石はオニトだな」


「え?」


あたしの頭ではとても考えられん」


「それほどでもないよ」


「いーーや。大したもんだ。隙のない考え方だよ」


「じゃあ?」


「ああ。この条件で将軍と交渉してみるよ」


「ありがとう!」


 そう言うと、彼女は顔を赤くした。

 ボソッと「笑顔が超可愛いんですけど……」と聞こえて来たが意味がわからない。

 桃太郎は気を持ち直したように、


「……お、おう」


 どうやら酒に酔ったのだろう。


 彼女の船には大量の米俵が積まれた。


「それじゃあ、将軍によろしく」


「うむ」


「是非、また来てくれよな」


「え?」


 彼女には人間と鬼の架け橋になってもらわなければならない。

 この島のいい所をアピールして、将軍に伝えてもらおう。

 人間との平和条約が結べた時。初めて、鬼たちに永遠の平和が訪れるんだ。


「あ、あたしがこの島に来てもいいのか?」


「勿論だ。なんなら俺の家に泊まってくれ」


「と、泊まりだと?」


「ああ」


「か、か、か、考えておく……」


 彼女は再び顔を赤らめた。

 やはり、まだ酒が残っているのだろう。

 こちらをチラチラと見ながら、


「きょ、今日はありがと」


「え?」


「お、美味しい飯とかさ」


「ああ。ふふふ。いつでも食いに来てくれよ」


「……う、うん」


「気をつけて帰ってくれ」


「う、うん」


 桃太郎は帰って行った。








 本土に向かう桃太郎は、船の上でもがいていた。


「聞いた? ねぇ、ちょっと聞いたぁ?」


 と、象よりも大きな犬に語りかける。


「家に泊まりに来いだってぇええええ!! ちょ、もう、どうするぅ? どうしたらいい?? あたしはどうしたらいいのぉおおお♡」


『くぅううん……』


 犬は困るだけだった。




ーー手利てしかが城ーー



 将軍、鷹氏は目を見張る。


「黄金が無かっただとぉおお!?」


「ああ。この目で見てきたからな」


「うう。にわかには信じられん」


「まぁ、その代わりに米と酒をたんまり貰ってきたからさ。それで納得しろよ」


「うーーむ。これは人間から奪った物ではないのか?」


「いや、違うな。鬼たちは立派な畑を作っていてな。そこから米や野菜を量産している。また、桃からは美味い酒を作るんだ。つまり、人間の資源がなくても、彼らは自分たちだけで暮らせるんだよ」


「ほぉ……。鬼の癖に自給自足とは生意気だな」


「代表者はオニトという好青年でな。彼が言うには、平和条約の条件として、食料の提供を挙げているぞ」


「鬼から食料の提供か……。ふぅむ」


「とにかく口にしてみろよ。ほっぺたが落ちるほど美味いんだから」


 訝しげな表情を見せる鷹氏であった。

 鬼ヶ島からの米を炊いて握り飯を作る。


「鬼が作った米と酒か……。こんな物が本当に美味いのか?」


「まぁ、いいから食ってみろよ。びっくりするからさ」


「ふん。低野。お主が先に食え」


 彼は家老に食すように言う。

 低野は汗を流した。


「わ、私が?」


「そうだ。お主が食え」


「うう……」


 躊躇する姿に桃太郎は頭をかく。


「ったく。根性のねぇ奴らだな。オニトの爪の垢でも飲ませてやりたいよ」


 そう言って目の前の握り飯を一個掴み、口の中に放り込んだ。


「ハグ……。もぐもぐ。ぷはーー! やっぱりうめぇええ!! 最高ーー♡」


「……で、では。私も……一つ。もぐもぐ………………。ん? んん?? こ、これは!? 美味いです!! 鷹氏様! これは相当に美味でございますよ!」


「ほぉ」


 安全を確認した鷹氏は握り飯を食った。


「美味い!! これは最高だ!! こんな美味い米は初めて食うた!!」


「鷹氏様! この酒も美味しゅうございますよ!!」


「こ、これは、桃の酒か!? 美味い! 美味すぎる!!」


 桃太郎は自分の手柄のように鼻を高くするのだった。

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