第7話 リーダーの指名

 俺の眼前には豊かに実った稲穂が並ぶ。


 ここは俺の前世だった日本ではない。

 ジパングという国。つまり、異世界。

 だから、なのか?


「なぁキリエナ。ジパングって1日で米がなっちゃう国なのか? 人間もこんな感じで農業をしているのかな?」


「うーーん。人間はもっと時間をかけていると思うわ。きっと鬼ヶ島は特別だからよ」


 なるほど。

 鬼ヶ島の土壌の影響か。

 ここは、桃が年中なってたりして変わっている場所だからな。

 とにかく、この米の処理が必要か。


「みんなで刈り入れをしようか」


「ハイだ♡ オラ、男衆を集めてくるだよ!」


 と、いうわけで、彼女が集めた千人の鬼を使って米の刈り入れを行った。


 眼前には米俵の山。


「たはーー! オラたちが作った米がこっただ量になっただよぉお!!」


「あは! 人間を襲わなくても自分たちで米を作っちゃうなんて、流石はオニト君だわ!」


「オニト様の言う通りにしたら立派な米ができたなや!!」


 他の鬼たちも大喜び。


「見事な米だ……。俺たちが作ったんだな」

「鬼でも米が作れるんだな」

「初めて農業なんかやったのに、もう米を作っちまったぞ」


 その感慨は俺への賞賛へと変わった。


「これも全てオニト様のおかげだな」

「うんうん。オニト様はやっぱり凄いぞ……」

「おお! オニト様はすごすぎる!」


 いやいや、俺が凄いんじゃないだって。

 鬼ヶ島の環境が凄いんだってば。

 農業に割く鬼たちの労力といい、すぐに育つ土壌といい。全ては最高の環境なんだよな。


 たった1日でこの米の量か。

 これなら、瞬く間に1万人の食い扶持が作れるな。

 それに、


「米が1日でできるなら……」


 と、米用に開墾した田んぼを、急遽、野菜を育てる畑へと変えることにした。


 3時間もすれば、トマトや、キャベツ、茄子などの野菜が艶やかに実った。


「野菜早ッ!!」


 マイは飛び跳ねて喜んだ。


「んきゃーー♡ こっただ立派な野菜が鬼ヶ島で作れるなんて夢みてぇだぁ!!」


 すかさず収穫。

 米と野菜が、たった1日で作れてしまった。


「凄いぞ、オニト様!」

「もう、本土に探索に行かなくていいんだ!」

「毎日、米と野菜が食べれるだよ♡ オニト様は規格外の凄さですだ」

「探索をしていた時より、贅沢ができるわね! 流石はオニト君だわ!!」


 いやいや。

 俺が凄いんじゃないだって、鬼ヶ島が凄いんだって……。


「とにかく、みんなで作った物を食べよう」


「ハイだ♡ 作るのも楽しいんだけんど、やっぱり食べる時が一番嬉しいだ♡」


 夕食は試食会である。

 米は炊いた後におにぎりにする。

 鬼は箸を使えないので手づかみで食べやすいおにぎりがいい。

 

 野菜は切って並べた。

 まずはトマトを口に入れてみる。


「美味い!! 水々しくて甘いぞ!! まるでフルーツみたいだ」


「たはーー♡ うめぇえええだぁああ!!」


 胡瓜はどうだろう?


 カリ……。


「うは!! こっちも最高!!」


「いくらでも食べれるだよ♡」


 鼻に抜ける胡瓜の香り。

 茄子もキャベツもほうれん草も。

 旨味と甘さがぎゅっと詰まっている。

 どの野菜も最高に美味い。


 村長はふっくらと炊き上がった米のおにぎりを食べて唸る。


「見事じゃオニトよ。こんな美味い握り飯は初めてじゃ! 人間が作る米より美味いのじゃろう!」


「いや。みんなががんばってくれたおかげです」


「謙遜するな。全てはお主の功績じゃ。これは、それ相応の褒美を考えねばならんな」


「ははは。別にいいですよ。みんなで楽しく暮らせれば」


「そうはいかん。まぁ、報酬のことは後で考えるとして、まずは酒でも飲むのじゃ」


 と、長老は巨大な手で小さなおちょこに酒を汲んでくれた。


 あれ? そういえばこの酒って、


「どうやって作ったんです?」


「うむ。探索隊が人間と遭遇した時にな。逃げた人間が置いて行った物なのじゃ。わしらはこういった物を拝借して暮らしておったんじゃよ」


 なるほど。探索隊はこういった食糧もあるのか。つまり、この酒は人間から奪ったことになる……。

 これだけじゃない。夕食に出て来る肉類も、まだ人間から奪った食糧なんだ。


 これはなんとかしないとな。

 米と野菜ができるなら、肉や酒も鬼ヶ島で作れるかもしれないぞ。


 そうなると、俺に時間が必要か。農業関連を任せるリーダーが欲しいな。


「たはーー♡ 握り飯が美味いだぁあ!」


 ふむ。適任者発見。


「長老。農業関連は俺に任されていましたが、リーダーとかも勝手に指名してもいいんでしょうか?」


「うむ。そういったことも全てお主に任せておる。自由にやってくれ」


 よし。じゃあそうさせてもらおう。


「ねぇ、マイ。ちょっといいかい?」


「どうしただ?」


「君に農業チームのリーダーをしてもらいたいんだけどいいかな?」


「ええ? オ、オラにですか!?」


「うん。君が最適だと思うんだ」


「で、でもぉ。オラは人に指示を出したり、田んぼをこさえる知識はねぇだよ」


「でも情熱はあるだろ?」


「た、確かに……。米と野菜作りは楽しいだ……」


「だったら大丈夫さ。君がわからないところは俺がフォローするからさ」


「そ、それなら……」


「じゃあ、やってくれるかい?」


「で、でも、いいんだべか? こったら楽しいことを仕事にしても??」


「楽しいから良いんじゃないか! 美味しい米と野菜をたくさん作ってくれ」


「あは♡ オラァ、こっただ幸せなことはねぇだよぉ!!」


 彼女は俺を抱きしめた。

 その大きな胸の谷間に俺の顔が埋もれる。


「むぐぅ……」


「オニト様! ありがとうだべ!! オラ、天にも昇る気持ちだぁ!」


「ちょ、ちょっと、マイちゃん! オニト君から離れなさい!!」


 よ、よし。

 とりあえず、農業はマイに任せれば俺の時間が作れるぞ。


 明日は肉のことを考えてみるか。

 鬼ヶ島でする自給自足の生活は夢じゃないな。

 ふふふ。みんなで楽しくスローライフだ。

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