第8話 オニトの家
朝。
俺はボロ小屋で目を覚ます。
馬小屋の掃除当番だったオニトは、ここを持ち家にしているようだ。
家族はいないようで、ずっと一人暮らしをしているらしい。
昨日は米と野菜が収穫できて大賑わいだった。
今日は酒と肉をなんとかしたい。
「オニト君、起きてる?」
早速、秘書のキリエナが迎えに来てくれた。
に、してはやけに早いな。
「何かあったの?」
「鬼のみんながね。とにかく来て」
みんな?
俺はキリエナに連れられてその場所へと向かった。
そこは立派な武家屋敷のようで、鬼たちがその前に集まっていた。
「へぇ。こんな立派な屋敷で暮らしている鬼がいるんだな……」
鬼たちはほとんどが質素な暮らしだ。
その日が楽しければそれで良いらしい。
「で、俺になんの用だい?」
みんなは笑顔で声を揃えた。
「「「 オニト様、いつもありがとうございます! どうぞ、この家を使ってください!! 」」」
はい?
どういう意味だ??
「長老が、農作物の報酬の件を話していたでしょ? その件もあってね。有志で家を作っていたのよ」
マジかよ。
「1日で作ったのか?」
「オニト君が鬼ヶ島を救ってから数日して作り始めたみたい。全部、長老の指示よ」
「こ、こんな大きな屋敷……。報酬にしては貰い過ぎている気がするが……」
「あなたはみんなの命を救ってくれた英雄なんだもん。貰う権利はあるわ」
え、英雄って……。
「そんなにすごくはないが……」
「すごいわよ。あなたは鬼ヶ島の歴史を大きく変えたんだもん」
……まぁ、確かに、童話のストーリーとは違う未来を歩んでいるよな。
「それに、農作物はとっても美味しいわ。みんな大喜びよ。この家を作るのだって、長老の指示だから作ったんじゃないわ。みんな有志でやってくれたのよ」
さっきの感謝の言葉はそういう意味だったのか。
じゃあ、
「今日からこの家が……」
「ええ。オニト君の家よ」
「お、俺の家……」
3階はあるな。
庭付きで広い。
武家屋敷を更に拡張したような。凄まじい豪邸だ。
「こりゃあ、掃除が大変そうだ……。俺一人じゃ持て余すぞ」
「そのことなんだけどね。長老が農作物の報酬だって」
キリエナはメイド服を来た女の子たちを手差した。
「彼女たちが、メイドとして君の側で働くことになったのよ」
えええ?
「「「 ご主人様、よろしくお願いいたします 」」」
ご、ご主人様……。
なんだかくすぐったい呼ばれ方だな。
「あ……。そ、それでね。オニト君」
「まだ、何かあるのか?」
「わ、私は秘書でしょ?」
「うん。それが?」
「一緒に暮らした方が便利だと思うのよ」
「ははは。そりゃそうだ。って」
ええええええ!?
「まさか!?」
彼女は頬を赤く染めて、コクンと頷く。
「いやいやいや。若い男女が一つ屋根の下はまずいだろ!?」
「でも、これだけ家が広ければ問題ないわよ」
「……確かに。部屋を分ければいいのか……」
「一緒の部屋がいい?」
と、彼女の顔は更に赤くなる。
俺は全力で首を横に振った。
「じょ、上司の命令なら……。べ、別にいいのよ。秘書だし」
いやいや。上司だからってそんな権限はないって。
まぁ、こんだけ広い屋敷なら、集合マンションの中に住んでいるみたいなもんか。
前世では安い賃貸マンションに暮らしていたっけな。他人の女性もそこに住んでいたからその感覚か。
「じゃあ、今日は引っ越しだな」
そう言うと、男の鬼たちが声を上げた。
「オニト様のお荷物は全て屋敷に移させていただきました」
話が早ええ……。
「じゃあ、オニト君。部屋を案内するわね」
「お願いします」
俺の家には様々な部屋があった。
寝室は勿論のこと。仕事部屋は別に用意されており、他に会議室や、食堂、客室とある。
風呂は大浴場で、外には露天風呂まで完備されていた。
「せ、背中を流して欲しい時は言ってね。ひ、秘書だし」
「……1人で入るよ」
どれだけ従順なんだよ。
断ることを知ってくれ。
それにしてもこの広さは凄い。
長老の屋敷に匹敵する大きさだ。
男の夢。一国一城の主になってしまったな。
まさか鬼の姿で叶うなんて思いもしなかったが。
俺とキリエナは食堂で朝食を食べた。
メイドたちが作ってくれた豪華な朝飯である。
と、いってもリンゴや野菜がズタ切りにされたのを並べただけであるが。
鬼ヶ島は料理の情報が乏しい。
この辺もおいおい普及させていこうか。
「じゃあオニト君。今日は何をするの?」
「米と野菜の収穫。それと他の物を作りたい」
「今日のシフトでも千人の鬼が動くから収穫は問題なくできそうよ。それで、他の物って何を作るの?」
それは俺も知りたかったんだよな。
探索隊は人間が忘れて行った物を持って来ていた。
「人間の置き忘れで嬉しい物ってなんだろう?」
「米、酒、肉。これが鬼ヶ島で最も喜ばれるものね」
「全部、食べ物なんだな」
「だって鬼は食べるのが生き甲斐なんだもん。それ以外に楽しいことってあるかしら?」
童話の鬼たちは宝を奪ったりしていたな。
村から女をさらうなんて物騒な話もあったっけ。
それらを聞いたところ、全て拒否された。
「興味ないわね。金銀財宝なんて食べれないもの。それに、鬼が人間の女をさらうなんてありえないわよ。鬼は人間に興味ないもん」
人間の女を襲ったりしないのは良かった。
食べることが好きなのか。
食べる……。
「あの、最後の質問いいかな?」
「なに?」
「に、肉って……。その……。まさか……。人間じゃないよな?」
「そんなの食べるわけないでしょ! 気持ち悪いわよ。肉といえば牛、鳥、魚のことよ」
良かったぁあああああ!
人肉じゃなかったぁああ!
鬼だからもしやと思ったがセーーフ。
「みんな平和に暮らしたいだけだもん」
その価値観は徹底してるな。
「これからはそうなるさ」
「あは! 平和条約を結ぶんだったわね」
よし。とにかく、これでかなり的が絞れたぞ。
米と野菜が作れたから、次は肉と酒だな。
「備蓄はどれくらいある? 在庫が無くなればみんな困るよね?」
「肉は燻製にしたものがたくさんあるから1ヶ月は持ちそうよ。お酒は1週間で無くなりそうね」
「決まりだな」
「え?」
「次は酒を作る」
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