第11話 魚捕り
朝。
フカフカの布団で寝ていると、
「ご主人様、朝でございます」
と、メイドの鬼が起こしてくれた。
額に角はあるが、若く可愛い女の子だ。
メイドの仕事は当番制で、毎日違う子が来てくれる。まぁ、どの子も美少女だ。
毎朝、当たり前のように起こしてくれて、綺麗に洗濯をした服を用意してくれる。
初めは服まで着させようとしたのだけれど、流石にそれは断った。そこまでさせるのは気がひけるからな。
しかし、
「あーー、なんか肩凝ったかも」
と、肩をポンポン叩くと、
「マッサージいたします」
あ、しまった……。
「そんなつもりで言ったんじゃないって!」
「遠慮なさらずにさせてください。さぁ、布団に横になって」
「え? あ、ちょっと、強引だな」
俺は言われるがままに布団に寝かされた。彼女は「失礼します」と言った後に俺の体を揉みほぐすのだった。
ああ、気持ちが良い。
良いのかなぁ? こんな恵まれた生活をして……。
マッサージが終わると朝食の時間だ。
今日もメイドたちが作ってくれた朝ご飯を食べる。秘書のキリエナも一緒だ。
ぶつ切りに切った野菜と果物が並ぶ。
その横には、ふっくらと炊き上がった米のおにぎりが置かれていた。
うう。
おにぎりが美味い……。
朝から米が食える幸せよ。
しかし、少々味気がないな。
朝食を食べ終えた俺は力強く頷いた。
「うん。肉が欲しい」
牛、豚、鶏、魚。
なんでもいいから肉が食いたい。
秘書のキリエナは眉を上げる。
「だったら狩りになるわね。他は、人間が置き忘れた家畜を精肉にすることかしら」
「鬼ヶ島の肉事情は主にその2点?」
「そうね。他は人間が置き忘れた干し肉かしら。メイドに頼めば出してもらえるわよ?」
今更、人間の食糧を食べるってのも気が引ける。
なんとか自分の力だけで肉を調達したいんだよな。
鬼ヶ島は綺麗な海に囲まれた豊かた場所。
島内には川や池もあって水には困らない。
「魚はどうやって調達するの?」
「やっぱり人間が置き忘れたのがほとんどね」
うーーむ。
人間とはこれから平和条約を結ぶんだ。
今後はそんなことはないからな。
「後は狩りかしら?」
「狩り?」
「そう、槍で魚を突くのよ」
どんな感じなんだろう?
「その狩りを見てみたいな」
「メイドの中に狩りが趣味の子がいるから頼んでみるわね」
現れたのは小柄な女の子だった。
翡翠のように輝く髪。大きく丸い瞳は愛嬌がある。
中々の美少女だ。
「自分はチレッテっす。ご主人様に魚を獲ってあげたいっす」
おおよそ、狩りなんて想像もできないほどの華奢な体だけど、
「よろしく頼むよチレッテ」
「えへへ。任せて欲しいっす」
「彼女は鬼ヶ島1の狩りの名人なのよ」
「名人だなんて。えへへ。照れるっす」
よし。
早速、魚を捕ってもらおう。
俺たちは近くの川へと移動した。
チレッテは立派な槍を構える。
どうやら彼女の手作りらしい。
「槍までお手製とは器用なんだな」
「えへへ。狩りは心が踊るっす」
ふむ。
これは期待できるぞ。
「えいッ!」
チレッテはズボッと凄まじい勢いで槍を突いた。
おおよそ、女の子とは思えない力だ。
流石は鬼。人間の倍以上の力がある。
しかし、
「えへへ。もう一度」
突いたのは水面だけ。
魚は散り散りに逃げていた。
「ほいッ!」
ズボッ!
しかし、またも魚に逃げられる。
「……名人じゃないのか?」
「魚は早いもの。狩りってこんなものよ」
「えいっ! やぁ! とりゃぁあああっすッ!」
チレッテは何度も槍を突くのだった。
30分後。
「やった! 捕れましたっす、ご主人様!」
槍に刺さっていたのは小魚が1匹だけ。
こ、効率が悪すぎる……。
「あは! 凄いわ! こんなに早く魚が捕れるなんて! 流石は名人ね!」
いやいや。
喜んでいる場合じゃない。
「1匹捕るのに時間がかかり過ぎるな。これじゃあ、とても島にいるみんなの分を捕れないよ」
「狩りは趣味だもん。こんなもんでしょ? 彼女の腕は相当よ」
ふぅむ。肉の供給は人間からの強奪で行っていたわけだからな。
「ちょっと俺にもやらせてくれ」
と、やってみるが、魚に擦りもしなかった。
やはり相当難しい。
「あ、良いことを思いついたわ! 農業で働いている鬼を何人か狩りに回せば解決じゃない?」
「……いや。やはり効率が悪すぎるな」
1人辺りの捕れ高が少ないと魚捕りだけに労力を割くことになる。
もっと簡単に魚を捕れる方がいい。
そうなると、
「漁しかないな」
「人間がやってる魚を網で捕る方法かしら?」
「うん。それが効率がいいと思う」
「じゃあ、網が必要ね」
「あ、それなら自分が持ってるっす」
「なぜ、君が持ってるんだ?」
「えへへ。人間の漁に興味があったんす。それで内緒で作ってみたんすよ」
なるほど。
俺たちは彼女の家に行き網を見せてもらうことにした。
「うむ。精巧な網だな。これなら魚が楽に捕れそうだぞ」
「それがそうもいかないんす。網を水面に投げても魚が逃げてしまうんすよ」
「ふむ。一度やってみてくれ」
「了解っす」
俺たちは再び川へ行き、投網漁を行った。
「とりゃああっす!」
と、チレッテが網を勢いよく水面に投げる。
すると網はゆっくりと沈んだ。
驚いた魚たちは即座に散っていく。
「ね? 魚が逃げるでしょ? だから、槍で突いて捕ることにしたんすよ」
「沈下速度の問題だな。要は早く沈めば良いわけだ」
「重くするんすか? じゃあ鉄で網を作るんすかね? 重くなりそうな気がするっす」
「そこまで大層じゃないよ。網の端に石を括りつけてさ、その重さで沈むようにすればいいんだ」
「ああ! なるほどっす!!」
早速、石を括り付けた網を作ってみる。
チレッテは器用なので、直ぐに作ってしまった。
「できたっす!」
「うん。いいできだ」
「えへへ! なんかワクワクするっす!」
早速、川に行き網を投げる。
魚の群れに向かって、
「とりゃああっす!!」
すると、
バシャバシャバシャ!
網の中で大量の魚が跳ねる。
「わはぁああッ!! 大量に捕れたっす!! すごいっすよぉおお!!」
うむ。
「投網漁、成功だな」
「うはぁ! 流石はご主人様っす!! 自分ができなかったことが直ぐにできちゃったっす!!」
「君の網がよくできていたからだよ。俺は少しアイデアを足しただけさ」
「照れるっす。でも、やっぱりご主人様がいないとこんなに上手くいかなかったっす」
よし。
あとはこれを……。
「よぉおし! この網で川の魚を捕りまくるっすよぉ!」
「ちょい待ち」
「どうしたんすか?」
「川でやるのは禁止だ」
「え!? なんでっすか?」
「こんな調子で一瞬にして川魚を捕ってみろよ。たちまち絶滅してしまうよ」
「絶滅? 川の魚がいなくなるんすか??」
鬼には環境問題なんてわからないよな。
前世では投網漁は免許が必要だった。一部の河川では禁止されているくらいだ。
それは生態系の保護が一番の目的だった。
「趣味の範囲なら良いけどさ。仕事としては禁止する」
「じゃあ、どこで魚を捕ればいいんすか?」
「魚を大量に捕ってもいなくならない場所があるんだよ」
「池っすか?」
「もっと大きな水溜まり」
「ああ! 海っすね!!」
「正解」
「あは! やったっす♡」
「鬼ヶ島には殺人隊で使っていた船が何艇もあるからな。あれを使えば投網漁ができるだろう」
俺たちは海に出た。
網を投げて魚を捕る。
「うはぁ! 大量っす!! すごいっすよぉおお!!」
チレッテは大はしゃぎ。
彼女なら漁業を楽しんでやってくれそうだ。
「なぁ、毎日、こんな仕事をしたくないかい?」
「でも、これは遊びっす。自分はご主人様に使えるメイドの仕事があるっすよ」
「楽しくてもみんなの役に立てばそれが仕事になるんだよ」
「で、でもぉ……」
「ふふふ。鬼ヶ島で漁業チームを立ち上げよう。そのチームリーダーは君だ。チレッテ」
「ええええ!? じ、自分っすかぁああ!?」
「ああ。その投網の技術でみんなを引っ張ってくれ」
「ま、毎日、魚を捕ってもいいんすか?」
「うん」
「ゆ、夢のようっす!」
「楽しんで過ごそうよ」
「あは! ありがとうございますっす♡」
彼女は俺に抱きつく。
「おいおい」
「あはは! 嬉しいっす♡ ご主人様のために大量の魚を捕るっす!」
こうして、魚の供給が始まった。
朝の食卓は激変する。
「輝く米の握り飯、それと、焼き魚!」
チレッテが今朝の漁で上げた鯛だ。
それをメイドが炭火で焼いた。
美味い!
最高!
捕れたて新鮮な鯛!
身がほろり柔らかく、しっかりと脂が乗ってる! そこに海水の塩分が加わって飯が進む!!
こうなってくると味噌汁が飲みたくなるな。
味噌は大豆で作るから、畑に植えてみようか。
あとはお漬物も食べたい。
糠は米を精米する際にできるから、それを使って作ろう。
それと、肉だよなぁ。
牛、豚、鶏。
この辺の供給も充実させたい。
畜産チームを作って稼働すればもっと生活が豊かになるぞ。
ああ、楽しい!
これぞスローライフ!!
最高の鬼ヶ島生活だ!!
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