第5話 平和条約
桃太郎と俺たちは鬼ヶ島に上陸した。
鬼たちに緊張が走る。
なにせ、象よりも大きい3匹のお供が一緒なのだから。
ーー長老の家ーー
俺は経緯を話した。
桃太郎は人間と桃の為に戦っていた。
よって、人間に危害を加えないこと。
そして、桃を大切に扱うこと。
主にこの2点が桃太郎の求めていることだ。
始めは強張っていた長老の顔も、全容が見えてくると落ちつきを取り戻す。
「桃はオニトがその価値を教えてくれたのじゃ。よって鬼ヶ島では桃を大切に扱うようになるじゃろう。そして、人間に危害は加えないことを約束しよう」
よし。
長老の言葉で鬼の未来が確定したぞ。
「鬼の契約書を作ろうかの。それにサインをすれば互いの約束を守らずにはいられないはずじゃ。約束を破れば雷が落ちる」
おお。
そんな怖い契約書があるんだな。流石は鬼だ。
桃太郎は眉を寄せた。
「まだ契約はできない」
何?
「なぜだ? 約束したじゃないか」
「今日は島の状況把握で上陸しただけにすぎん。
人間側?
「君の上には誰か偉い人がいるのかい?」
「
てしかが?
聞いたことのない武将だな。
俺は歴史には疎いが、そんな名前の偉人は聞いたことがないぞ。
てしかが……。
手……。
足利ならあるが……。
そもそもここって日本だよな??
よくよく考えると何かが微妙におかしいんだ。
桃の当てっこゲームのことをピーチボールと呼んだり、さっきだって契約書にサイン、と言っていた。
平気で英語が飛び交っているんだよな。
桃太郎の幟には『日本一の』と表示されているし、日本だとは思うけど……。
一応、聞いておこうか。
「あのさ。ここって
「にほん、だと? どこだそこは?」
「え? 違うのか? だって……」
と幟を指差した。
「これは『
ジパングぅ?
なんか昔の呼び名でそんな名称があったな。
しかし、それが国名として根付いているということは……。
ここは俺の知っている日本じゃないってことか。
別の世界線を辿った日本。
だから鬼と桃太郎が存在し、知らない武将がいる。
つまり、異世界。
俺は異世界の鬼に生まれていたんだ。
「
長老に聞くと、将軍は、度々鬼ヶ島に攻撃をしかける厄介な存在だった。
鬼ヶ島を囲む7つの防衛セクターを作ったのは将軍の影響なのだそう。
つまり、鬼の敵はジパングの将軍。
桃太郎はそっぽを向いた。
「フン! 仕方ないから
おお!
案外良い奴なのかも。
彼女が将軍に手引きしてくれれば話は早いぞ。
桃太郎は一旦帰ることになった。
このことをお爺さんとお婆さんのいる村に伝えに行くとのこと。
俺は彼女を見送りに港まで一緒に行った。
「お前……。オニトとか言ったな?」
と、彼女は立ち止まる。
「
「だな。君は強いよ」
「どうして逃げなかった?」
「そんな選択肢はなかったな。俺が逃げれば鬼たちは全滅なんだからさ」
「……お前、勇気あるな」
と、彼女は顔を赤らめる。
はい?
「別にそんなのはないぞ?」
事実、心臓はドキドキいって汗だくだったんだからな。
ただ命が助かりたい一心だった。
「
まぁ、彼女の強さならそうなるか。
3匹もお供もデカいしな。普通なら怖くて近寄らないか。
彼女は俺と目を合わさずに船に乗る。
全身を真っ赤にして、
「ま、またな」
うん? なんか怒ってる?
なんか嫌われたのかな?
なんで目線を合わせないのだろう?
まぁいいか。
彼女とは平和条約で関係を築ければいいんだからな。
桃太郎には村を通じて将軍と交渉をしてもらう。
平和条約は将軍の許可が降りてからだ。
「じゃあ、良い知らせを期待してるよ!」
俺は出向する船に手を振った。
桃太郎はチラリと俺を一瞥するだけだった。
なんだか随分と嫌われてしまったな……。
俺が振り返ると、鬼ヶ島中の鬼たちが俺を見つめていた。
「な、なんだ? どうしたのみんな??」
みんなは満面の笑み。
「「「 ありがとう、オニト!! 」」」
え?
「お前のおかげで鬼ヶ島が助かったぜ!!」
「あなたは英雄よ、オニト!」
「勇敢なオニトに敬意を示します!!」
あ、そういえば、俺が鬼ヶ島を救ったんだったな。
「「「 オニトを胴上げだ!! 」」」
ええーー!?
またこのパターン?
「「「 ワーーッショイ! ワーーッショイ!! 」」」
俺は鬼たちに散々、絶賛された。
おいおい。
まだ平和条約は結べていないんだ。
喜ぶのは早いんだけどなぁ……。
その日の夜は宴である。
俺はみんなに持て成されたのだった。
次の日。
俺は長老の家へと行った。
「探索隊は解散です!」
それが俺の第一声だった。
人間を脅かすチームなんかもういらないからな。
これからは平和に生きる鬼になるんだ。
長老は俺の指示通りに探索隊を解散させた。
「これからどうすれば良いのじゃオニトよ?」
「ふふふ」
笑いが止まらんよ。
なにせ、これから平和な鬼ヶ島ライフが始まるんだからな。
「農業を始めましょう!」
「おお、農業とな?」
イーラさんは眉を寄せた。
「我々は田んぼなんか耕したことがないんだ。どうすればいいんだ?」
「鬼ヶ島の全体地図をください」
「う、うむ」
イーラさんは地図を持ってくる。
俺はそれをテーブルに広げた。
随分と広い島だ……。
島の中には川や池まである。
「島には何人くらいの鬼がいるんですか?」
「そうだな。桃太郎に半数はやられてしまったからな。今は1万人はくらいだろうか」
なるほど。
「仕事ができそうな大人はどれくらいでしょう?」
「3千人くらいだな」
うん。
それだけいれば上等だ。
「居住区と触れない土地はどんな感じですか?」
「ここと、ここ……それから──」
ふむ。
随分と土地が余っている。
島のほとんどが森だな。
広さの数字がないから島全体の大きさは不明だが、そこはあとでなんとかしよう。
それより農地の話が先だ。
「居住区と水辺の近くに田んぼを作りましょう」
「どうしてそんな所に? もっと離れた所に作った方が広い土地を有効に使えるのでは?」
「まずは利便性を優先するんです。広い土地を耕すのは大変ですからね。家の近くなら労力が少なくて田んぼが作れますよ」
「なるほど。慣れてから大きな土地を耕すのだな」
「そういうことです」
「しかし、田んぼを耕すには労力が必要だな。その人材をどう工面するか……」
「探索隊だった鬼を回せばいいんですよ」
「なるほど!!」
長老は目を見張る。
「うむ。見事な采配だ!! 今後、この計画の全てをオニトに任せる!!」
俺は農業開拓と平和条約に関わるリーダーになったのだった。
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