第56話 これから先も・・

「本日より成人を迎えたグレイス・ウェイルを、正式な皇太子として迎え入れる」

王宮の会場で、ロイドを前にグレイスは片膝を付き、頭を垂れる。

会場の片側には今日、成人の儀を迎えた貴族の子供達が並んでおり、もう片側には王宮の最高幹部達が並んでいた。

ロイドは剣を抜き、グレイスの肩に置く。

「これまでは後継者として王子と呼ばれてきたが、本日からは皇太子として政務に関わる。国と民に忠義を尽くし、より良い国を作る為に尽力してくれ」

「はい、陛下。グレイス・ウェイルはこの名に恥じぬ様、これからも精進し、国の為、民の為、そして陛下と王妃の為、この身を捧げる事を誓います」

力強い声にロイドは頷き、剣を収める。

グレイスはゆっくりと立ち上がり、後ろを振り向くと歓声が上がる。

ロイドの後ろに立っていた楓も涙目でグレイスを見つめ、拍手する。

そんな楓に気付いたのか、ロイドが側により肩を抱く。

楓は目尻を指で拭いながらロイドを見上げ、微笑む。

「無事に迎えられて良かった。王位まではまだまだだけど、ひと段落ついた感じだね」

「あぁ。グレイスにとってはこれからが大変だが、あいつも大人として認められたんだ。子育てという意味では今日で終わりだな」

「そんな寂しい事言わないの!僕は日本式で行くよ。誰が何と言おうと、20歳までは甘やかすんだからね!」

口を尖らせ、頬を膨らます楓を愛おしそうに見ながら、ロイドが笑う。

「よし!今日は早速、成人の儀を迎えたグレイスと湯浴みしよう!」

「・・・ん?」

「20歳までは可愛い子供として甘やかすけど、ここでは立派な大人だ!これからは大人の男として裸の付き合いをしなくちゃね!」

「いや、待て、楓・・・」

「グレイス!」

楓は、マッシュと会話していたグレイスに手を振り、駆け寄る。

グレイスも楓の姿を見つけ、手を振る。まだ16歳だと言うのにすでに楓の背を越し、目線が高くなっていたグレイスを楓は見上げた。

「おめでとう!グレイス」

「母上!ありがとうございます」

グレイスは楓の両手を取り、満面の笑みで楓を見つめ返した。

そんな2人の側にロイドがヅカヅカと歩み寄り口を開く。

「楓、さっきの話だが、グレイスは成人を迎えたのだ。湯浴みの会は無くすべきだ。これからは2人ですればいい」

「どうして?言ったでしょ?僕はまだまだ可愛い息子を甘やかしたいし、大人になった息子とも語り合いたい」

「語り合うなら、何も湯浴みの場でなくても良いだろ?」

「お言葉ですが、父上。以前、母上が仰ってた様に、裸の付き合いが絆を深めるんです。俺もこれからもお供します」

突然割って入るグレイスに、ロイドは顔を顰める。

「ほら、グレイスも良いって言ってるでしょ?グレイスが恥ずかしいなら辞めるけど、まだ僕と入ってもいいって」

ニコリと微笑みながら、楓はロイドを見る。

「いや、しかしだな・・」

「ふむ、思い返せばそれがあったから、お前達は不思議な絆で結ばれているのかも知れんな」

側で三人のやり取りを見ていたマッシュが間に入る。

「マッシュさん、凄い!本当にそうかも知れないですね!」

マッシュの言葉に目をキラキラさせて楓が答える。

「いや、しかしだな・・」

楓の喜び様にロイドはオドオドし始める。

そんなロイドを見て、グレイスはニヤリと笑い、楓の手を自分の腕に回した。

「母上、晩餐の前に早速、湯浴みに行きましょう」

「いいね!行こう!」

グレイスに手を引かれ、楓は歩き始める。

「おい、エスコートは俺の特権だ」

2人の後ろからロイドが恨めしそうに声をかける。2人はロイドをチラッと横目で見ながら顔を見合わせ微笑み合い、また歩き始めた。

「おい、ロイド。その絆と言う物に、そろそろ私も参加させてくれないか?」

マッシュの突拍子もないセリフにロイドは声を荒げる。

「それは断じて認めん!この先もずっと無いと思え」

睨むロイドにマッシュは肩をすくめ、楓達の元へと歩き始める。

「いいさ。楓殿に許可取るまでだ」

「おい!それは絶対にダメだ!楓!待ってくれ。こいつの話に耳を傾けるんじゃない」

笑い合う三人の元へロイドは慌てて駆け寄り、楓のもう一つの手を取り、自分の腕に回す。ロイドの必死な説得に三人は笑いながら、会場を後にする。

楓の両サイドにいる2人の男の腕には、それぞれの瞳の色とオレンジが混ざったカフスボタンが光っていた。

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ベールの向こう側 颯風 こゆき @koyuichi

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