第46話 決断の時

あれから2日たったが、ロイドの意識は戻らず、熱も下がらないままだった。

医者からは今日、明日が峠かも知れないと伝えられていた。

楓は意を決して、マッシュとグレイスを部屋へ呼び出す。

そして、楓の決意を告げる。

「2人とも、これから話す事を黙って聞いていてね」

これから何を話すのか予測できている2人は俯きながら、耳を傾ける。

「僕は今日、洞窟へ向かう。もう、それしか方法がない」

楓の言葉に、2人は唇を噛み締める。

「僕ね、ここに来る前に、満月が来るまで、ロイドに会えるまであの洞窟で過ごすつもりだったんだ。その時に、万が一、風邪や怪我をした時にって薬を買って置いたんだ。でも、ベールが光った時、本当に嬉しくて、鞄に入れて置けば良かった袋を置いたままここに来たんだ。思い出した時は、もうここへ来ちゃってたし、ロイドも側にいるからって安心して、その存在を忘れていた」

楓の話に少しずつ顔を上げる2人。

「ここの世界は、僕がいた世界より医療が発達していない。本当はロイドを連れて向こうへ戻れば、きっとすぐに治してもらえる。でも、あのベールは僕達にしか見えないし、渡る事もできないはず。意識がないロイドを背負って、僕1人で病院に行けない。かといって医者を連れて来る事もできない。救急車・・・あ、病人を運ぶ馬車みたいなのね。それを呼ぶことも出来るけど、僕の世界の出口の洞穴は、林の中の奥にあって多分、大人のロイドを運ぶのは難しい。何より連絡手段がない。それで、あの洞窟に行ってきっと残っているだろう薬を取りたいんだ。ここに来てまだ一年も経っていないから、きっと薬の状態も大丈夫なはず。」

「では、ベールを抜けなくても大丈夫なのですか?」

希望に満ちた顔でグレイスが訪ねる。

「それは、行ってみないとわからない。ベールの側にあれば手が届くけど、日が経ち過ぎてどの位置に置いてあったのか、覚えていないんだ」

「そんな・・・」

「薬がロイドに効くか解らないけど、その袋の中に解熱剤が入っているんだ。解熱と同時に抗生物質って薬も入ってて、体の悪い菌をやっつけてくれる。だから、きっと化膿した傷口にも効くと思う」

「そんな万能な薬があるのか」

黙って聞いていたマッシュも口を開く。

「不思議だけど、僕はこの方法がきっと解決策になるって自信があるんだ。だから、僕を行かせて欲しい」

「しかし・・・」

「2日も待った。他に方法がないんだ。言ったでしょ?ロイドはいなくてはならない存在だと。このまま手をこまねいてロイドが亡くなったりしたら、僕は生きていけない」

言葉を詰まらせるマッシュ。いつの間にか涙を流しているグレイスが楓に抱きつく。

「母上・・いなくなったりしないですよね?この国で、父上と俺の側で暮らして行けるんですよね?」

「グレイス・・ごめんね。行ってみないことにはわからないんだ。だから、約束ができない」

「そんな・・だめです。行っちゃダメです。父上が目を覚まして、母上がいなくなったのを知ったらどんなに悲しむか・・・それに、来年の誕生日は俺に母上の特別なプレセントをくれるって約束しましたよね?」

「グレイス・・僕もできることなら、ここでみんなと、グレイスとロイドと一緒に暮らしていきたい。この国が、みんなやグレイス、そしてロイドがくれた愛情が僕は本当に嬉しかったんだ。僕が、僕の世界で感じた事ない温もりと幸せを教えてくれた」

「じゃあ、尚更ここにいてください」

楓を抱きしめる腕に力が入る。楓はグレイスの頭を包み込むように抱きしめ、頭を撫でる。

「僕はこの国の全てに感謝しているし、心から愛している。でも、それは、ロイドが全て努力してきた結果だ。ロイドのこの国への愛情を、僕は誰より知っている。より良い国にするために、辛い思いもしてきた。そして、その為に沢山の努力をしてきたはずだ。そのロイドの頑張りが実を結んで、いい国になった事で僕の居場所ができた。全てロイドのおかげなんだ。僕はそんなロイドに感謝してるし、尊敬もしてる。何より心から愛している。だから、誰よりもロイドの力になりたい。もっと王としてのロイドの夢を叶えてあげたいんだ」

「母上・・・」

「とにかく行って見ない事には、この方法も遂行できるのかわからない。たとえ危険があっても可能性があるのなら、成し遂げないといけないんだ」

「・・・俺、洞窟までお供します!それは譲りません!」

顔をあげ、しっかりと楓を見つめる。

「楓殿、私もお供する。私には見届ける義務がある」

マッシュの言葉に、困った顔をしながらわかったと楓は返事をした。


もうすぐ日が落ちる。楓はしばらくロイドと2人になりたいと伝え、2人を外に出す。

ベットにそっと歩み寄り、ロイドの手を握り、優しく摩りながらロイドへ言葉をかける。

「ねぇ、ロイド。きっと君は目が覚めた時、勝手に行ってしまった僕を怒るだろうね。そして、悲しむだろうね。でもね、僕達はきっと運命に導かれて出会ったんだ。あの神話の様に・・。きっと神様も僕らを憐れんでくれる。こんなに愛し合っているんだもん。大丈夫、きっとまた会える。ほんの少し、僕は旅行に行ったと思ってくれる?僕は絶対諦めない。だから、ロイドも諦めずに待っててくれる?」

楓の頬を涙が伝う。ロイドの温もりを確かめるように、髪を撫で、頬を撫で、手を撫でる。そして、そっと手に口づけをする。

(きっと、僕らは大丈夫だ・・・)

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