第44話 ロイドの帰還
部屋に担ぎ込まれたロイドの表情は青白く、胸に巻かれていた包帯には血が滲んでいた。
医者がロイドの手当てをしながら、メイド達に指示をする。
入れ替わり部屋を出入りするメイド達、その様子を見ながら、楓とグレイスは不安から涙をし、ベットの側で立ち尽くしていた。
そこへマッシュが現れ、楓達の側へ寄り、膝をつく。
「楓殿、すまない。こんな形で帰還するとは・・・」
辛そうな声で事の成り行きを、マッシュは話し始めた。
そもそも今回の視察には危険が伴っていた。
隣国から、奪還の際に逃げた貴族が兵を集め、復讐を企んでいると情報が入ったからだ。
隣国へ逃げた者の消息が掴めず、隣国の王に協力を依頼し、捜査をしていた。
そして怪しい動きをする者たちがいると、1ヶ月前に連絡が入り調べていると、その者達の中心に逃げた貴族がいる事がわかり、近々国境を越えて王都へ侵入してくるとの連絡もあった。
今回は、国境の警備を固めると共に、隣国の王と極秘に会い、今後の対策を練っていたそうだ。
隣国も敵対心はない事を明確に表し、集めた兵とは言え、自国の者が隣国の王の暗殺に加担したとなれば大ごとになると判断し、協力を惜しまないという結果になった。
その間は何事もなく、連れていた兵士の半数をハービィと共に残し、帰還する手筈になっていたが、王都に近づいた最後の森の近くで待ち構えた敵兵に襲撃されたとの事だった。
「すでに国境を越えていた事に気づかず、こんな事態になってしまった。すぐに制圧はできたんだが、茂みに隠れていた者に気づかず、その者が私に向かって矢を放ったのだが、それに気付いたロイドが私を庇って、矢を受けてしまったのだ。本当になんとお詫びをすれば・・・楓殿、本当に申し訳ない・・」
膝をついたまま、床に着くほど頭を下げるマッシュに、楓は手を差し伸べる。
「マッシュさん、頭を上げてください」
「しかし・・・私が矢を受けていれば、こんな事には・・」
「そんな事言わないでください。ロイドもマッシュさんが怪我する事は望んで無いはずです」
「・・・・」
「ロイドはいつもマッシュさんを大切な仲間で、親友で、家族だと話してました。そんなマッシュさんが、怪我をしたら、きっとロイドは悲しみます」
マッシュのそばで膝をつき、マッシュの背中を撫でる。
「大丈夫です。ロイドはきっと助かります。僕とグレイスはそう信じてます。だから、マッシュさんも信じてあげてください。ロイドは強い男です。何たって、僕が惚れ込んでる男ですからね」
楓は涙でぐしゃぐしゃになった顔に笑顔を浮かべ、マッシュにおどけて見せる。
「あぁ。ロイドは強い男だ」
楓の笑顔に励まされ、マッシュも微笑み返した。
長い時間をかけ、手当が終わると部屋の長椅子に、楓とグレイス、マッシュと医者が顔を揃えて座っていた。
「幸い出血もひどくなく、一命は取り留めましたが、矢に薬が盛られていたようで、その薬が傷口を悪化させています」
医者の言葉に三人は息を呑む。
「毒では無いようなんですが、その薬が悪化を進行させ、その為に王の体から熱が引かないのです。持ってきた矢先の薬の成分を調べているのですが・・・」
言葉を詰まらせる医者に、事態が思わしく無いことを悟る。
「王様の体もこの薬に打ち勝とうと戦っておられるのですが、この高熱が続くと命が危ういかもしれません。とにかく、熱を下げない事にはおそらく意識も戻らないのでは無いかと・・・」
「そんな・・」
重々しい雰囲気に耐えきれなくなったのか、グレイスが言葉を漏らす。
「薬剤を使って熱を下げる事を優先して、傷口はこまめに消毒をします。その間に薬の分析を急ぎましょう」
医者の言葉に、マッシュがすかさず返事を返す。
「承知した。分析の方は私の方で率先して手配する。そなたは治療に専念してくれ」
「かしこまりました」
話が進んでいく中、楓が口を開く。
「僕に看病させてください」
「楓殿・・」
「母上・・」
ずっと黙り込んでいた楓の言葉に、マッシュとグレイスは楓を見つめる。
「それから、マッシュさん。次の満月を調べてください」
「楓殿!」
楓の思いもよらない言葉にマッシュが声を荒げる。
「もし、このまま熱が下がらなかったら、僕に考えがあります」
「母上!」
「楓殿!何を考えているのだ!」
「もしも、の時の為です。それからマッシュさん、ロイドが見つけたという神話の本も探してきてください」
「楓殿!それは賛成しかねる!」
「そうです!母上!」
「ロイドを信じてる。だけど、もしもの時の事も考えなくてはいけない。僕にはこれが一番の打開策に思えるんだ」
冷静な声で淡々と話す楓に圧倒され、マッシュ達は言葉を詰まらせる。
「僕は大丈夫だよ。きっとロイドもわかってくれる。僕はロイドがこの国を、みんなを愛してるように、僕も愛しているんだ。だから、ここでロイドを失うわけには行かない。グレイスの為にも、国の為にもロイドはいなくてはならない存在なんだ」
「楓殿・・・」
「母上・・」
心配する2人に楓は笑みを浮かべ、また言葉を重ねる。
「大丈夫。きっとうまくいく」
楓の言葉に不安を募らせながら頷くと、2人は部屋を後にする。残った医者は楓に看病の指示を伝えると深々と頭を下げ出ていった。
楓はベットの側に行き、ロイドの髪を撫でおでこにキスをする。
火傷しそうな程熱を持ったその体を、水を切った布で丁寧に拭いていく。
「ロイド・・頑張って。僕が側にいるよ。僕が助けてあげるからね」
優しく語りかけながら、必死に涙を堪える。
そして大丈夫と何度もロイドに囁きながら、自分へもそう言い聞かせる。
(大丈夫。きっとロイドは大丈夫・・・)
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