第43話 ロイドの帰還

ロイド達が出発して10日が過ぎた。

楓は広く空いたベットの片側を撫でながら起床する。

ロイドのおかげで朝晩と暖かく部屋で過ごす事ができているが、未だに拭えない不安が、楓を寒くさせる。

「王妃様、殿下より手紙が届いています」

メイドの言葉にベットから飛び起き、手紙を受け取る。

楓は毎日の様に手紙を書いていたが、忙しいのかロイドからの返事はなかった。

返事が無いことが楓をより一層不安にさせていた。だから、この手紙が届いた事が心底嬉しい。

ロイドの字を手でなぞりながら、楓は安堵のため息をつく。

そして封筒を開けると、ほのかなミントの香りが漂う。

ロイドがいつも付けている香水だ。


楓、毎日手紙をありがとう。返事が遅くなってすまない。

少しバタついていたが、ようやく一息つけた。隣国との話し合いも順調だ。

楓の近況は他の者からも聞いている。あまり心配しすぎるな。俺は無事だ。

楓達のお守りも側にあるからな。安心してくれ。

それから、予定していた日数より早めに戻れそうだ。

早く戻って、楓を安心させたい。抱きしめて、キスをして、楓の温もりを感じたい。もう少しだけ、待っててくれ。楓、愛してる


手紙を読み終えた楓は手紙を抱きしめる。

短い文面だが、楓を安堵させるには十分だった。

手紙mを抱き締めると薫るロイドの匂い、そして文面から滲み出る愛情、全てがロイドの温もりを思い出させる。

(早く会いたい・・僕も愛してるよ・・)



それから2日後、ロイドが帰還する為に国境を出発したと連絡が入った。

このまま順調に進めば、明日の昼頃には到着する。

その知らせに満面の笑みになる楓を見て、グレイスは安堵のため息をこぼす。

久しく楓の笑顔を見ていなかったからだ。

「グレイス、今日は一緒に寝よう。それで、朝、一緒に起きてロイドを出迎える準備をしよう」

「はい!」

楓の嬉しそうな声に、グレイスも明るく応える。

夕食後、お互い早めに湯浴みし、いつもなら楓達の部屋で寝る時間まで談笑するが、今日は早めにベットに入る事にした。

ベットの中で、楽しみだねっと何度も嬉しそうに話す楓を見ながら、グレイスも顔を綻ばせ何度も頷いた。

そして、手を握りながら2人は眠りにつく。明日を待ち侘びて・・・


コンコンコン・・・

強めのノック音に楓は目を覚ます。

辺りはまだ薄暗く、時計を見ると早朝の5時前だった。

目を擦りながら、声かけに返事をすると、勢いよくドアが開かれ青ざめた顔のメイドが飛び込んできた。

「どうしたの?何か騒がしいね」

ドアの音にグレイスも目覚め、何事かとメイドに視線を向ける。

「そ、それが、王妃様。陛下が帰路の途中襲撃にあって、その、陛下が、部下を庇って怪我をされたとの事です」

「え・・・?」

一瞬メイドが何を言ったのか理解ができず、楓は言葉を詰まらせる。

「道中に陛下を休ませる場所もなく、城内が安全だと判断し、急いでこちらに向かってるそうです」

「・・・・」

頭の中で、メイドの言葉がこだまする。

「母上!しっかりして下さい!」

グレイスの声に楓は我に変えると、今度はメイドの言葉1つ1つがストンと頭に降り落ちて来て、体がガタガタと震え出す。

「それで、父上の戻りはいつ頃だ?怪我の具合はどうなんだ?」

楓とは逆に冷静に言い返すグレイス。楓は俯いたまま、体を震わせる。

「はい。馬車を急がせ、一時間ほどで着くそうです。怪我は・・・」

怪我の状態について言葉を濁らせるメイドの態度に2人は察したのか、2人の顔も青ざめる。

グレイスは布団を跳ね除け、コートを羽織る。

「医者の準備はできているのか?」

「はい!先ほど到着しました」

「母上・・・母上!」

グレイスの叱咤に楓が顔を上げる。

「父上をここで診てもらいます。メイド達にここを清潔な状態にしてもらう必要があるので、母上も準備してください」

グレイスに言われるがまま頷き、身支度を始める。その間にメイドたちがベットを整え始める。

部屋にはいろいろな道具が運び込まれ、ロイドを迎える準備が着々と進んでいた。

楓はなす術もなく、長椅子に座り、準備を見守っていた。グレイスは楓のそばに腰を下ろし、楓の震える手を握りしめる。

「きっと大丈夫です」

グレイスの声かけに目を潤ませながら、頷く。ふと見ると、グレイスの足が震えているのがわかった。楓はグレイスを強く抱きしめる。

「ごめん・・・ごめんね、グレイス。グレイスも怖いよね。ごめん。グレイスの言う通りだ。きっとロイドは大丈夫。僕達がそう信じないとダメだよね」

「母上・・・」

互いに震える体を抱き寄せ、背中を摩る。

「えぇ。きっと大丈夫です」

「うん・・うん・・ありがとう。グレイス・・」

周りが騒がしく動いている中、2人は互いを励まし合い。ロイドの到着を待った。

たった一時間が、一日の様に長く感じていた。

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