第41話 サプライズならず・・
「わぁ!母上、とても素敵です!」
貰った腕輪を手に着け、光にかざすグレイス。ロイドも腕輪を摩りながら目を細める。
「家族になった記念に、何か形になる物が欲しいなぁと思って、メイドさん達に相談に乗ってもらって注文してたんだ。石の色は違うけど、お揃いとか嫌かな?」
「そんな事ないです!」
「嫌なもんか!」
声を揃えて2人が返事する。楓はニコッと笑って良かったと安堵を溢す。
「ありがとう、楓」
「母上、大事にします」
また声を揃えて楓に抱きつく。楓はもう諦めるしかないなと思いながら、2人のされるがままになる。
お揃いの腕輪を何度も褒めながら、談笑しているとメイドが部屋に入ってきて楓を呼ぶ。不思議に思いながら近寄ると、こっそり楓の手に小さな箱を渡す。
「これが落ちておりました」
そう言われて手の中の物を確認すると、ロイドへの誕生日プレゼントだった。
慌てて隠すも2人に見つかり、何なのかと問い詰められる。
楓は観念して、ロイドへと箱を差し出す。
ロイドはその箱を受け取り、蓋を開くと綺麗な色のカフスボタンに息を呑む。
「もう!ロイドの誕生日に驚かせるつもりだったのに!」
頬を膨らませ、拗ねる楓をロイドは抱き寄せる。
「ありがとう、楓。これは俺と楓の色だな。2人の色が混ざり合ってて、とても綺麗だ・・・」
「ロイドの付けてるカフスボタンには見劣りしちゃうけど・・・」
「そんな事ない。凄く気に入った」
「良かった。カフスボタンを恋人や大切な家族にプレゼントすると幸運が訪れるんだって。グレイスの誕生日の時はあまり良い物買ってあげられなかったけど、成人を迎える日にはプレゼントするね」
「母上・・・俺、来年でもいいです!」
「ふふっ。グレイスはまだカフスボタンを着けるような服持ってないでしょ?」
「そうですが・・・じゃあ、来年は母上が選んだ、俺だけの特別な物を下さい!」
「わかった。約束する」
グレイスの髪を撫でながら、楓は目を細める。そして、引っ付き虫となった2人は夜が更けるまで離れなかった。
翌日、楓の所には感謝の言葉を伝える為に代わる代わる人が詰めかけた。
ロイドの所にも人は詰めかけたが、その度に腕輪とカフスボタンを自慢するので、早々と人並みは引いていった。
マッシュは呆れ顔でロイドを見つめながら、書類を手渡し、仕事をしろと葉っぱをかける。そんなマッシュの机にも、楓からの羽ペンは飾られていた。
穏やかな日常が過ぎていく中、冬を迎えようとしていた。
冬になると、ロイドの誕生日がある。もうすぐ、また城内が騒がしくなるのかと楓は本を閉じ、窓の外を見つめる。少しひんやりとした部屋に差す光が暖かかった。
(ここは雪は降るのだろうか?)
窓から空を見上げる。冬はあまり好きではない。寒さが人恋しさを募らせる。
幼少時代は暖を取る物がなく、小さくなった服の袖を引っ張りながら寒さを堪えた。祖母が生きていた頃は、ストーブもあったし、服も買ってもらえたが、母と2人になってからは一度も買ってもらった事はなく、楓の部屋にストーブをあてがわれることもなかった。
幸い楓は体が小さかったから、服も数年は着れたが、袖が短くなるにつれて冬は寒かった。よく祖母の服を引っ張り出して暖を取っていのを思い出す。
それでも、ロイドと会えている期間は平気だった。
一度だけ、ロイドが服の趣味が変わっているといった事があるけど、服がなく祖母の物を着てると言うと、それからは何も聞かれなかった。
女物を着ている恥ずかしさはなかった。楓には必要な物で、それが当たり前かのような日常だったからだ。
ロイドは揶揄うこともなく、いつも何かを察してくれて、ただただ、
楓の話を聞いてくれて側に寄り添ってくれた。
ロイドがいるだけで寒い冬も平気だった。
だから、会えない期間は辛かった。父の家では暖房が部屋に付いていたし、服も充てがわれていたが心はいつも寒かった。
「楓、今夜から更に冷えていくようだ。部屋に薪を運ぶように伝えた」
いつの間にか、ロイドが部屋を訪れていた。楓に声を掛けながら隣に腰を下ろす。
「ロイド、仕事は?」
「休憩だ。楓に話したい事もあったしな」
ロイドは楓の手をとり、摩りながら答える。
優しく見つめるロイドの眼差しに、楓は微笑み返す。
「どうしたの?」
「しばらく城を留守にすることになったから、先に伝えておこうと思ってな」
「どこかいくの?しばらくってどの位?」
ロイドの言葉に少し寂しそうな表情で見つめると、ロイドは楓の頭を撫でながら優しく答える。
「国境で問題が起きて視察に行くんだ。そうだな・・2週間はかかるかもしれん」
「問題?危険な事?」
「いや、大したことではないが、念のため、兵士を何人か連れて行くことになった」
「兵って・・・」
護衛ではなく兵士・・・その言葉に胸騒ぎを覚える。
「楓・・そんな心配そうな顔をしないでくれ。大丈夫、危険な事はないはずだ。ただ、念の為だ」
楓の頬を撫でながら、ロイドは宥めるように話す。
「本当は楓も連れて行きたかったんだが、2週間とは言え、楓には長旅になるし、途中野宿をする場合もある。俺達は慣れているが楓には負担だろうし、万が一、盗賊にでもあったら楓が怖い思いするだろう?」
「盗賊って・・・」
「あ、いや、大丈夫だ。俺の兵士達は皆、敏腕揃いだ。心配はいらいない。俺も強いしな」
心配のあまり青ざめる楓に、ロイドはにこりと微笑み、楓を強く抱きしめる。
「ここに来て初めて長い事離れるが、今までの事を思えば2週間なんてあっという間だ。ただ、楓は暖かいこの部屋で俺の帰りを待っててくれ。楓はいつも冬は寒そうにしてたからな。今年の冬は・・・いや、これからの冬は暖かく過ごしてくれ。それに俺がこうして温めてやりたい」
「ロイド・・・」
楓はロイドの背中に手を回し、温もりを確かめる。
昔は心を暖めてくれたロイド・・今はこうして心も体も暖めてくれる・・
不安が拭えずにいたが、ロイドがくれる温もりに楓は幸せを噛み締めていた。
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