第38話 互いを想う気持ち

グレイスから手紙を受け取った2人は、気まずそうにダイニングに現れた。

(2人が喧嘩して一緒に食事ができないのは寂しいです)

たった一言の手紙ではあったが、ロイドと楓には効果的面だった。

食事が始まるとすぐにドアが開きマッシュが現れる。

マッシュの登場に楓とロイドは驚く。

「久しぶりに友人達と食事をしようと思ってな。食後のワインも持ってきた」

笑顔でテーブルに着くと、グレイスにウインクして大丈夫と知らせる。

淡々と食事を終えると、応接間へと移動してワインをグラスに注ぐ。

グレイスにはフルーツジュースが用意され、4人で乾杯をする。

「楓殿はお酒は飲めないのか?」

「飲んだ事がないの。僕の世界では20歳が成人だから、飲んじゃいけないと思って・・・でも、ここでは16歳が成人だよね。うん、今日は飲んでみよう」

グラスをクルクル回していた楓は徐にグラスを口に付けた。

心配そうに見つめるロイドは、声をかけようか悩み始める。

「わぁ、これ、美味しい」

「気に入ってくれたか?楓殿がどのお酒が好きなのか、分からなかったから、口当たりのいい果実ワインを持ってきた」

甘めの口当たりに歓喜し、ロイドの心配をよそにぐびぐびと飲む楓。

それを見たロイドは、我慢できず声をかける。

「楓、初めて飲むんだ。そうグビグビと飲むんじゃない」

「大丈夫だよ。これくらい」

顔を赤らめながら、ロイドの手を振り解く。そんな2人の様子を見ながらマッシュが口を開く。

「そろそろ、本題に入るか。私がここに来ている意味は察しているな?」

マッシュの口切りに、楓はグラスを置いて頷く。ロイドもバツが悪そうな顔で話を聞く。


「このままでは、政務にも支障をきたすし、何よりグレイス様の立場が固まりつつあるのに、2人の仲の悪さが露呈するとこれまでの努力が水の泡だ。グレイス様も心配するだろう?」

「ごめんさなさい」

「俺もすまなかった」

「上部だけの謝罪はいらない。まず根本的な問題を解決しないとな」

マッシュはワインを一口飲み、話を続けた。

「まず、楓殿。こいつがこんなにも心配性な理由はわかっているよな?」

「はい・・・」

「まぁ、半分以上が楓殿を溺愛しているのが原因だが、楓殿の話は昔から聞いていて、楓殿が怪我をしてこいつの前に現れる度に、守ってやれない事が悔しいと嘆いていた。それこそ、あの大怪我があった日は酷い有様で、洞窟に立てこもっては食事も取らず、寝ずの毎日で、周りの者が見ていても痛ましかった。あの時の反動が今になって現れてるんだ。だから、余計に過保護になる」

「・・・・」

「そして、ロイド。お前の今までの苦悩は知っているから気持ちはわかる。だが、楓殿の守りたい、強くなりたいと言う気持ちは、お前がよく知っているんじゃないのか?大切な人が、愛する人がいるからこそ身を守る術を学んで役に立ちたい、守りたいと思う気持ちは自然な事だ。守るだけが愛ではない。互いに支え合って行く為には強くなる力も必要なんだ」

「わかっている・・・だが、心配なんだ」

俯きながらボソボソとロイドは言い返す。楓はじっと黙ったまま話を聞いている。

「グレイス様の誕生会の時、何があったかは聞いている」

「やはり、何かあったのか!?」

マッシュの言葉に。ロイドは勢いよく顔を上げる。

「あの時は楓殿は毅然とした態度を取られていたが、こう言うことは一度や二度ではなかったはずだ。その度、口を閉ざすしかなかった楓殿が、グレイス様の為に言葉を返した。それは、楓殿にとって大きな進歩だ。その時から、楓殿は強くなりたいと思ったのだろう?」

静かに頷く楓。そして口を開く。

「本当はあの時、怖かったんだ」

「母上・・・」

「初めて誰かに強く言い返した。でも、僕が黙っている事は、みんなが言っている事を肯定している事だって気付いた。グレイスを悲しませたくなかったし、ロイドにも迷惑かけるのも嫌だったから、あんな風に言い返したけど、足が震えちゃって・・・でも、こんな事で怖がっている自分が情けなくて・・」

「そんな事はないです!母上。俺は嬉しかったです。母上言い返してくれて、その後抱きしめてくれて守られてる事が嬉しかった。でも、泣いてる母上を見て、何もできなかった自分が悔しかった」

ズボンをぎゅっと握り締めてグレイスは苦しそうに呟く。

楓はグレイスの側に寄り添い、背中を摩る。

「僕ね、子供は守らなきゃいけない存在だと思うの。僕は守って欲しかった。周りの大人に手を差し伸べてもらいたかった。ロイドと出会って、ロイドにはずっと支えてもらったけど、あの頃に比べて僕は大きくなった。グレイスを守ってあげれる立場になったんだ。だから、君を守りたいし大事にしたいんだ。そして、何より僕をずっと支えてくれたロイドに、今度は僕が支える力が欲しい」

「楓・・・」

「危険な事はしない。僕の強さはどう頑張ってもたかが知れてる。だから、ダメな時はしっかり守られる。無茶はしない。約束する」

強い眼差しでロイドを見つめる。

「わかった・・すまなかった、楓。楓の思いも知らずに頭ごなしに反対して・・」

「ううん。僕もロイドの気持ちを汲み取ってあげられなかった。ごめんなさい」

しんみりした雰囲気の中、マッシュはグラスを持ち上げ明るく声を上げる。

「これで問題解決だな。仲直りの祝杯をあげよう」

マッシュの声に、三人ははにかみながらグラスをあげる。

「あんなにべったりなのに、肝心の話をしないとは・・お前達に必要なのは心からの会話だ。互いを想い過ぎて本音を話そうとしないのがそもそもの原因だ。そうだ、三人の湯浴み会に私も入れてもらおうかな」

「それは断じて許可しない!」

慌てて怒り交じりの声を荒げるロイドを見て、グレイスと楓は声を出して笑う。

そんな2人を微笑ましく見つめるロイド。そして、マッシュに耳打ちをする。

「今日の事は感謝する。それで、楓達をいじめた者達というのは・・」

「それはすでに処理した」

ロイドの耳打ちにニヤリと笑い返す。

その不敵な笑みに、有能な部下を持ったと感心する反面、敵に回したら恐ろしいと感じるロイドだった。

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