第34話 新たな家族の形

「俺が兄様達と養子縁組ですか・・?」

戸惑いの表情で、グレイスはロイド達を見つめる。

その様子を察してか、ロイドの隣に座っていた楓はグレイスの隣へと移動する。

そしてグレイスの背中に手を当て、楓は優しく声をかける。

「もちろん、グレイスが嫌ならこの話は無かったことになる。僕はそれでも構わない」

優しい声に誘われて、グレイスは楓に顔を向ける。

「グレイスはもうすぐ7歳だけど、まだまだ子供だ。僕達が少しでも力になればと思っているんだ。その・・・僕は男だから、僕が母親になるのは抵抗があると思うけど・・・」

「それは・・・」

楓の言葉にグレイスは俯き、小さな声で呟く。

「それは・・あまり気になりません・・・」

「僕ね、僕がロイドのお嫁さんになった事で、グレイスに重荷を乗せてしまったのではないかと、ずっと心配していたんだ」

「重荷・・ですか?」

「そう。僕が世継ぎを産めないから、まだ小さいグレイスに責任を押し付けてしまったんじゃないかって・・・」

「楓・・・」

「楓兄様・・」

グレイスの手を優しく摩りながら、楓は微笑む。

「元々王子としての教育とかを受けてきたんだろうけど、次期王となれば教育の内容も周りの目も変わる。王としての重圧とかもロイドを見てればわかる。それを全てグレイスに乗せてしまったのは事実だ。それなのに、今度はグレイスよりも勉強ができてない男の僕が、戸籍上とはいえ母親になる。それは大なり小なり好奇の目に晒される事になる」

「そんな事・・・」

言葉に詰まりながらも、グレイスは楓を見つめる。

「グレイスの事は本当の弟みたいで大好きだ。だから、この事でグレイスとの関係が崩れるのは嫌なんだ。でも、ロイドからグレイスと親子関係になることで、グレイスを守ってやれるって聞いて、僕が乗せてしまった重荷を少しでも軽くできるなら、力になりたいと思っているんだ。僕は頼りにならないかも知れないけど、グレイスの事守ってあげたいと心から思っているんだ」

楓の切なる思いを告げられ、グレイスは目頭が熱くなる。

そして、ゆっくりとロイドへと顔を向ける。

「兄様は、本当に俺でいいのですか?僕は・・前王の・・兄様が嫌っていた前王の妾の子です。そんな俺を養子に迎えて、本当に世継ぎにされるつもりですか?」

「俺はお前が物心ついた時から、世継ぎにと考えていた。もし、楓がこちらの世界に来なくても、他の人と結婚するつもりはなかったからな。それに、俺も前王の息子だ。それはどう足掻いても変わらない。子は親を選べない。ただそこに生まれ落ち、その者を親として育つ。俺たちの父親は愚弄であったが、お前の母親は違うはずだ。前王の命令で妾になり、お前を身籠ったが、腹にいたお前を慈しんでいたと聞いている」

ロイドの言葉にグレイスの目からポタポタと涙が落ちる。

楓はそっとグレイスを抱きしめ、言葉をかける。

「グレイス、僕はね、向こうの世界で親に愛されずに育った。愛どころか悲しい言葉と暴力を受けて育ったんだ」

「楓兄様が!?そんな、酷い・・・・」

「僕はね、ずっとそれが当たり前で、僕が悪いからそうされるんだって思ってた。でもね、ここの世界にきてそれが違う事だってわかったんだ。運なんて言葉は軽いけど、僕がそこに生まれ落ちたのは運が悪かっただけだって思うようになって、こんな僕でも愛されることが当たり前なんだって思えたんだ。生まれ落ちた僕達は何も悪くない。たまたま落ちた場所が悪かっただけ。だから、何も気にすることはないし、恥じることでもない」

楓の言葉が、より一層グレイスの涙を誘う。

「楓兄様は、元の世界に戻りたいとは思わないんですか?時々、あの丘で寂しそうに何処かを見てる姿が忘れられなくて・・・それを見てる兄様の悲しそうな顔も・・・」

グレイスの言葉に楓は慌てて体を離す。気づけばロイドも悲しそうに俯いていた。

「違うよ!えっ?そんなに悲しそうだった?」

2人の様子にあたふたしながら答える。そんな楓を2人はじっと見つめる。

子犬が二匹いるみたいだ・・・楓はふふっと笑い、ロイドを手招く。

隣に腰を下ろすロイドの腰に手を回し、片方でグレイスを抱き寄せる。

「そりゃあ、懐かしむことはあるよ。でもね、僕はここに残ってロイドのお嫁さんになった事を一度も後悔したことはないよ。洞窟を見てしまうのは、あそこは僕とロイドが出会った場所だからだよ。色んな事があったけど、ここに来れてこんなにも僕を愛してくれる人達がいる事が未だに不思議で、時々夢じゃないかと思うんだ。そんな時に、洞窟を見てると今までの事が思い出されて、夢じゃないんだなぁって実感するの。悲しい事もあったけど、僕の居場所はここだと思わせてくれるんだ。だから、後悔してないし、僕はここにいたい。帰れって言われても帰らないからね!」

「帰れなんて誰がいうんだ。そんな奴がいたら、俺が懲らしめてやる」

「そうです!楓兄様をいじめる奴は俺も許しません!」

「ふふっ。ありがとう。僕は体にも心にも傷は残ってしまったけど、そんな僕だからロイドに出会えたんだと思う。もちろん、グレイスにもね。ねぇ、グレイス。僕ね、君と出会って君を知るたびに、君の笑顔を見る度に思うことがあるんだ」

「何ですか?」

不思議そうな顔で、グレイスは楓を見上げる。楓はニコッと笑って言葉を繋げた。

「グレイスは本当にロイドにそっくりなんだ。だから、グレイスを見るたび、あぁ、ロイドに子供がいたらこんな感じなのかなぁって。僕がロイドの子供産めたらグレイスにも重荷を乗せることはなかったし、ロイドはきっといい父親になれただろうなぁって」

「楓・・・」

「だからね、ロイドから話された時、不安の方が大きかったけど、グレイスが僕の子供になってくれたら、僕はすっごく嬉しいし、グレイスの事沢山愛してやれる。それに、ロイドは父親になれる。僕はそれが嬉しいんだ。グレイス・・・少しだけ考えてくれるかな?僕は愛するロイドとグレイスと幸せな家族を作りたい」

「楓兄様・・俺も楓兄様が大好きです。兄様も大好きだし、尊敬しています。僕はずっと兄様に疎まれているんじゃないかと思ってました。でも、楓兄様が来てから兄様と距離が近くなって、少しは大事に思ってくれてるんだと思える様になりました」

「グレイス、俺はずっとお前の事を大事に思ってきたつもりだ。この先も変わらない」

「はい・・・今日、兄様や楓兄様の気持ちが聞けて嬉しかったです。俺、兄様達の子供になります。子供になって、2人の名に恥じない立派な人間になります」

グレイスが、決意した面持ちで2人を見上げると、楓は嬉しそうに涙する。

グレイスを両手で抱きしめ、ありがとうと呟く。

「僕も強くなってグレイスを守るからね。グレイス、本当にありがとう。僕の夢を、ロイドを父親にしてくれてありがとう」

「楓・・・じゃあ、俺は2人分もっと強くならないとな」

ロイドは大きく手を伸ばし2人を抱きしめる。腕の中の2人は苦しいよと言いながら笑い合う。ロイドも2人に釣られて満面の笑みを浮かべた。

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