第32話 それぞれの想いと家族の形

「わぁ。本当に綺麗な所だね」

テラスからの景色に感嘆する楓。マッシュのおかげで早々と休暇が取れたロイドは、楓を連れて王都から半日程かかる別荘へと来ていた。

「今日はゆっくり休んで、明日は湖の側で昼食を取ろう」

「わぁ!ピクニックだね!僕、ピクニックも初めて!」

楓は嬉しそうにロイドを見つめる。その笑顔が愛くるしくて、ロイドは楓をぎゅっと抱きしめる。

「ふふっ。新婚旅行みたい」

「新婚旅行とは?」

「僕の世界ではね、結婚式を挙げた後に2人だけで旅行に行くんだ」

「なるほど・・・」

「いろんな説があるんだけど、新婚旅行はハネムーンとも言って、蜂蜜と月から来てるらしいんだ。蜂蜜は滋養強壮によくて子宝に恵まれるって言い伝えがあって、月は満ち欠けがあるように時には夫婦喧嘩して欠けても、仲直りしてまた満ちるって意味合いがあるだって。まぁ、夫婦円満の願掛け?秘訣?みたいなものかな?」

得意げに話す楓の頬を撫でながら、知識が豊富だなと誉めると少し俯きながら僕には本しかなかったからと寂しげに答えた。

そんな楓がまた愛おしくて、ロイドはそっと楓にキスをする。

「まぁ、月はともかく、僕には蜂蜜は必要ないけどね」

「楓・・・」

「あ、違うよ!もう僕は不安になったりしないよ」

慌てて言い返す楓の腰にロイドは手を回し、長椅子へと連れていく。

そして楓を座らせ、ロイドも隣に腰を下ろし、真剣な顔で楓を見つめた。


「どうしたの?」

楓は心配そうな顔でロイドを見つめ返す。

「楓、後で話そうと思っていたんだが・・・先日、マッシュからの提案があって、グレイスの事なんだが・・・」

「グレイスがどうしたの!?」

突然出た名前に何かあったのかと楓が驚く。

ロイドは楓の手を取り、安心させるのかの様に優しくその手を撫でた。

「そんなに心配するような話ではない。ただな、グレイスの親なんだが、あれの母親は元々は前王の妾の1人で、その妾に産ませた子なんだ。妊娠を期に後宮へ入る予定だったのだが、その頃から王都では不穏な動きがあって、そのせいで手続きが遅れてしまって、城内が奪還騒動で騒がしい中でグレイスは生まれたが、母親の方は出産時に亡くなってしまった」

「・・・・」

「前王はとにかく女癖がわるくて、グレイスの母親の存在も、グレイスの存在自体も奪還騒動が終わってしばらくした後に知ったんだ。グレイスの母親の墓もどこにあるのかすら未だにわからないでいる」

「そうだったんだ・・・」

「それで、このまま兄弟として血は繋がっているから、後継者にはなれるんだが、グレイスの後ろ盾を強くするためにも、俺たちの子として養子縁組をしてはどうかと言われたんだ」

「養子縁組・・・」

その言葉に複雑そうな表情を見せる楓。ロイドは楓の手を少し強めに握り話を続ける。

「もちろん、楓が嫌ならしないが、一度考えてみてくれるか?」

「・・・グレイスには話したの?」

「いや、まだだ。先に楓に話して、了承を得てから話すつもりだ」

しばらく黙ったままの楓がぽそりと呟く。

「男の母親なんて、きっとグレイスが嫌がるよ」

「楓・・・」

ロイドは楓を抱き寄せ、耳元で囁く。

「グレイスは楓の事を慕っている。心配ない」

「でも・・・」

「楓が心を決めてくれたら、グレイスには俺から話す。楓、難しくは考えないで欲しい。ただ、俺たち2人の家族という形にグレイスを入れて、俺たちの子として新しい家族の形を一緒に作ってくれないか?」

「・・・僕もグレイスが大好きだよ。グレイスが受け入れてくれるなら、僕も作ってみたい。だから、グレイスに話をする時は僕も一緒に話す」

「あぁ。わかった。楓、ありがとう」

「うん。ロイドも話してくれてありがとう」

2人は互いに抱き合い、しばらくの間、グレイスへと思いを馳せた。


しばらくすると、ロイドが急に体を引き離し、楓を見つめる。

「楓、夕食まで時間がある。少しベットで休もう」

「え?いきなりどうしたの?」

「話をしたら安堵したのか、少し横になりたくなった。楓も長い事馬車に乗るのは初めてで疲れただろう?」

「そんなことはないけど・・・」

「いや、休みたいはずだ」

ロイドは徐に楓を抱えると、ベットの方へ足早に運ぶ。

そして、ベットに楓を寝かせると、楓の靴を脱ぎ、自分の靴も脱ぎ捨てる。

「子宝はなくても蜂蜜は甘いだろう?そして月は時を表す。楓の言うように俺たちはハネムーンだ。甘い時を過ごそう」

ニヤリと笑うロイドの顔を見て、何かを察した楓は顔を赤らめる。

「ロイド・・まだ、外は明るいよ・・」

「せっかくの休暇だ。朝から晩まで楓と一緒にいられる。これほど幸せなことはない。俺はこの休暇中、楓から離れんぞ」

意気揚々と語るロイドに少し呆れながらも、一緒に入れることが嬉しくて楓も笑顔になる。

「そうだね。僕もこの休みの間、ロイドに沢山甘えるからね。覚悟してね」

笑いながら宣戦布告のような宣言をすると、望むところだと微笑みながらロイドが

キスをする。

宣言通り、休暇中の2人はずっと寄り添って過ごす事となり、特にロイドの溺愛ぶりに周りが度々赤面したことは言うまでもなかった。

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