第26話 約束を果たす時

「ロイド、作戦は成功した。城の兵は全員制圧した」

息を上がらせながら、マッシュがロイドへ駆け寄る。

視線の先で顔に付いた血を袖で拭いながら、ロイドが頷く。

「ロイド様、皇族も全て拘束致しました。逃げた貴族は別の兵が追っています」

ハービィが遅れながら2人の元へ駆け寄る。

「残りは逃げ隠れた王だけです。おそらく皇族専用の隠し部屋に立てこもっているかと思われます」

「わかった。怪我人の状況はどうだ?」

「思っていたより抵抗が酷かったので、半数は怪我を負いましたが、死人はいません」

「そうか。いいか、誰1人欠ける事なく奪還を成功させて、この国を取り戻すぞ」

「承知しました」

ハービィは深々とお辞儀をし、ロイドの後に並ぶ。

その隣にはマッシュが並び、三人は足速で隠し部屋へと向かう。

バタンッー

力任せにドアを開けると、怯えた表情でうずくまっている王を見つける。

「ロイド・・貴様・・」

「王よ。潔く降伏して牢獄へ入れ。抵抗するならこの場で切る」

ロイドの冷たい表情と淡々と話す声に、王は青ざめる。

そして、ゆっくりと這うようにロイドに近づき、足元にしがみ付く。

「望みの物は全て譲ろう。金か?女か?そうだ、お前の母親の墓を他へ移し、誰にも引けを取らない立派な墓を立ててやろう。どうだ?」

「・・・俺が欲しいのは王の座だ。母はあの場所で安眠している。俺が会いに行っているから、寂しい思いはしていないだろう」

「いくら憎くてもお前は私の息子だ。お前にも私の血が流れているんだ。王の座を奪って贅沢をしたいなら、こんな事をせずとも私が叶えてやる」

「・・・本当に反吐が出る」

しがみついている手を足で乱暴に払い、その場にしゃがみ込み、王を睨みながら耳元で話しかける。

「決してお前のようにはならない。これは因果応報だ」

ロイドの言葉に血の気が引き、ガクンと項垂れる。ロイドは立ち上がり、ハービィに指示を出す。

「かつては戦地の英雄と呼ばれた男も、長年の体たらくな暮らしで面影すらないな。ハービィ、連れて行き牢獄へ入れろ。少しでも妙な行動をすれば、その場で切って構わない。どうせ処刑となる身だ」

ロイドは冷たく言い放ち、マッシュと部屋を出る。

その足で、城の広場前のテラスへと向かう。

共に戦ってくれた者たちに勝利を教える為だ。

「マッシュ、昔から俺を友として力になってくれて感謝する。全てお前の力があったからだ」

「急に気持ち悪い事を言うなよ」

本気で鳥肌がたったのか、両腕をさすりながら嫌そうな顔をする。

「全くお前と言う奴は・・・」

マッシュの態度に笑みが溢れる。

「これから忙しくなるぞ」

「あぁ。新しい王、新しいガルシア国の誕生だ」

ロイドの笑みに、笑みを返しながらマッシュはロイドの肩を叩く。

そして、テラスを開けて今かと待ち侘びている兵に勝利を伝える。

その瞬間に歓喜の声が上がり、戦いが終わった事を周囲に知らしめる。

(楓、約束を果たせたぞ。あとはお前がここに来ても安心して暮らせるように準備して待っているからな)


風が楓とロイドの髪を撫でるように吹く。ロイドは少し俯き言葉を発する。

「俺はこの手で家族を殺した。側妃や兄弟は地下の牢に幽閉したが、結局はその者達も苦痛に耐え切れず死んでしまった。王への仕打ちは間違っていなかったと思っているが、時々、側妃や兄弟達の処罰は間違っていたのかも知れないと思うんだ。横暴な王に耐えきれず、また見向きもされず後宮中でただただ暮らす。彼女達やその息子達も道を踏み外してしまったが、王の犠牲者だったのではないかと思えてな」

ロイドは苦悩の入り混じった笑みをこぼす。

ずっと静かに聞いていた楓は、そっとロイドを抱きしめて口を開く。

「ロイドは本当に優しいね。大丈夫だよ。ロイドは間違っていない。その証拠にこの国の人達は心からロイドを慕い、敬っているでしょ?」

楓の言葉にロイドは顔をあげ、そうだなと呟く。

そして、片手で楓を抱き寄せ、楓の髪に顔を埋める。

「楓。楓は家族の形がわからないと言ったが、俺もそうだ。母の温もりは覚えているが、それも遠い過去になってしまった。楓、家族の形は様々だ。俺と臣下達もまた絆で結ばれた一つの家族だ。俺は楓と2人の新しい家族の形を作りたい。互いに想いあい、信頼し、慈しみ合う、楓と俺だけの家族の形を一緒に作ってくれるか?」

「うん・・・2人だけの幸せな家族の形を作ろう」

楓は顔を上げ、笑みを浮かべながらロイドを見つめる。

ロイドもまた楓を見つめ、笑みを返した。

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