第25話 ロイドの過去

結婚式も明日と迫った昼下がり、ロイドが散歩に出ようと迎えに来た。

片手に小さな花束を持ち、もう片手で楓に手を差し伸べる。

楓はロイドの手を取り、引かれるままに付いてく。


あれから部屋に戻った2人は朝方近くまで語り合った。

楓が今まで家族に言われてきた言葉、周りの人の目、孤独だった日々。

心の重荷を一つ一つ下ろすように楓は語る。

ロイドは黙って耳を傾け、楓の不安を取り除くようかの様に優しく肩を抱き、時折、楓の髪にキスをする。

そして、互いを抱きしめ合い、眠りについた。

翌日の楓は体が軽くなった感覚を感じた。

思えば、今までこうして楓の話をじっと聞いてくれる人などいなかった。

ロイドと会ってる時は、暗い話なんかに時間を取られたくなくて敢えて話をしなかった。

こんなにも心が軽くなるなら、ロイドを信じてもっと早くに話をしていれば良かった。

自分の弱さに胸が痛くなるが、前みたいな深く暗い気持ちにはならない。

これも、ロイドのおかげだ。


「ロイド、どこにいくの?」

「もう少しだ」

城の裏にある丘から洞窟の方ではなく、横にそれた少し細い道を行くと広がった草原に着く。

草原の中を進んで、沢山ある木々の中でも一際大きな木の側に行く。

そこには小さなお墓があった。

「俺の母親の墓だ」

そう言うと、背を屈め墓石についた葉をどけ、持ってきた花束を添えると、ロイドはそっと瞼を閉じた。

楓もつられてしゃがみ、日本式で手を合わせ、墓石を拝む。

しばらく沈黙が続いた後、ロイドが口を開く。

「俺の母親の話は昔聞いただろう。覚えているか?」

「うん。とてもロイドを愛してくれたって」

「あぁ。冷遇に耐えながらも俺を産んで、体を壊してしまったが、床に伏せても俺を慈しんでくれた」

懐かしむ様に、愛おしむ様にロイドは墓石を見つめる。

楓はロイドの手を取り、じっと耳を傾けた。

「前王は王妃と別に母と、また別の側妃もいたし、妾も何人かいた。それが権力の表れと言わんばかりにな。当然、たくさんのお抱えがいれば、王妃や側妃などへも目がいかなくなる。女を欲望の吐口か子供を作る道具にしか思っていないんだ」

静かに語るロイドの声に怒りが混じる。

「母は弱い立場だった。体も弱く子供も俺1人しか作れなかったからだ。どんどん後宮に人が入ってきて母の立場は名ばかりの人となった」

ロイドはすくっと立ち上がり楓を立たせる。

楓の髪を撫でながら軽くおでこにキスをして話を続ける。

「王は最後の最後まで母を見舞う事はなかった。そして、本当はちゃんとした所に埋葬されるべきなのに、こんな寂しい所に追いやられてしまった」

悲しそうに墓石を見つめるロイドに、楓は言葉が見つからず、ただぎゅっとロイドの手を強く握る。

ロイドは楓に優しく微笑みながら、少し歩こうと楓の手を引き歩き始めた。


元の丘へ戻り、道沿いにある大きな木の下にハンカチを引き、楓を座らせ、腰を下ろす。

洞窟ほどではないが、ここからも街が見渡せる。その風景を眺めながら、またロイドは話始めた。

「ずっと何もできない自分が腹ただしかった。王を始め、それを取り巻く傲慢な貴族達、王に期待しなくなった側妃達の贅沢三昧、それを見て真似する兄弟達。何もかもが嫌だった。それを当たり前かの様に傍観する雰囲気も・・・」

真っ直ぐ前を見たまま語るロイド。そんなロイドを見つめる楓。

ふと楓に顔向け、ロイドは微笑んだ。

「そんな時に楓に出会ったんだ」

ロイドは楓の頬に触れ、指で撫でる。

「何もかもがうんざりするような環境で、楓との時間だけが俺の癒しだった。楓と会っていない時間は苦痛ばかりなのに、楓と会うと不思議と痛みが取れたんだ。このまま時間が止まればいいと何度も思った」

ロイドは満面の笑みで楓を見つめる。

「楓の痛ましい姿に何度も歯痒い思いをしながら、ずっと楓に触れれる事を願っていた。離れていた間も楓の無事を願いながら、辛い時は楓の笑顔を思い出して、いつかまた必ず会えると信じて、その思いを糧にいくつもの年月を過ごした」

ロイドの真っ直ぐな思いに楓は涙が溢れる。

「僕は沢山ロイドに救ってもらったのに、ロイドの辛い時に側にいてやれないどころか悲しませてしまったんだね。ごめんね、長い事寂しい思いをさせて・・・」

「いや、そんなことはない。確かに不安な時もあったし、会いたくてたまらない時もあった。だが、楓が会いにくると約束してくれたし、王になるとの約束があったから頑張れたんだ」

楓の涙を拭いながら、ロイドは微笑む。

「別れて2年ほどたってから事態が急変したんだ。王がまた無意味な戦争を仕掛けようとしてな。その時はすでにマッシュとハービィが俺についていて、元々不穏な動きがあったから、こちらも密かに周りに味方をつけていき、機会を伺いながら作戦を練った。そして、今が奪還するだと悟った・・」

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