第24話 新たな誓い

「ロイド・・・どうしてきたの?」

か細い声で楓が話を切り出す。

「当たり前だ!楓、頼むからここにいてくれ」

楓の肩を掴み、ロイドは懇願する。

楓は大粒の涙をボロボロ流しながら、ロイドを見つめる。

「だって、だってロイドは・・・」

「言っただろう?後継者は既に決めている。必ずしも俺の子でなければならないなんて事はないんだ。弟だって血は繋がっているのだから、王族の血は絶えない。もし、俺の意思を継いで民を敬ってくれるなら別の者でも良いと・・・。血を繋げる事が国の繁栄ではない。民を思い、良い国を目指す者達が繁栄させるのだ」

「でも・・・」

「楓、お前は愛されるべき人間だ。そして幸せになる権利もある。例え誰からも愛されなくても俺がいる。俺が楓を誰より愛してやれる。頼む、俺に楓を愛させてくれ。楓を愛する事が俺の喜びで、幸せなんだ」

「ロイド・・・」

間を開けず、懇願するようにロイドは話続けた。

「楓の言うようにもしかしたら、あのベールの向こうで愛してくれる人に出会えるかも知れない。努力したら家族とも分かち合えるかも知れない。だが、楓を一番に愛するのは俺でありたい。俺でなければ嫌なんだ」

とめどなく溢れる涙がロイドの切実さを語っていた。

楓はやっとロイドの体に手を伸ばし、強く抱きしめ、嗚咽交じりに言葉を繋ぐ。

「僕・・・幸せになってもいいの?僕のせいでロイドが不幸になったりしない?僕はお母さんを不幸にした。お父さんの家族も・・僕が愛されないのは、僕が不幸の元だからなんだ。だから、ロイドが不幸になるのが怖い。不幸になって僕の前からいなくなるのが怖いんだ」

「不幸になんてなるものか!俺は楓に出会えてからずっと幸せだった。こんなに満ち足りる気持ちは楓がいるから感じられるんだ」

「僕がまた迷惑かけても?心配ばかりさせても嫌にならない?」

「楓がいつ俺に迷惑かけたと言うのだ。心配は楓を想っているからこそ、どうしてもしてしまう。だが、それが嫌だと思った事は一度もない」

「・・・・」

「ただ、俺は守ると約束したのに、また楓を守れなかった。守れないどころか、不安な楓に気づきもしなかった。それが申し訳なくてたまらない。楓をあんなにも守りたいと、触れる事ができるのなら命に変えても守ると誓ったのに・・・」

楓は項垂れるロイドの頬に手を当てて、楓の方に顔を向ける。そしてニコッと笑う。

「そんな事ないよ。ロイドはいつも僕を守ってくれてる。言葉でも態度でもずっと昔から僕を守ってくれてたよ」

「楓・・・俺にもう一度機会を与えてくれないか?楓を愛し、守る機会を・・お願いだ、帰らないでくれ」

言葉を遮るかのようにベールが光る。ロイドは楓を強く抱きしめた。

「楓・・・行かないでくれ」

「ロイド・・・僕、本当にここにいていいの?」

「当たり前だ!」

「僕、本当はロイドといたい。側にいたらダメだと部屋を出てきたけど、ここに来たら胸が苦しくて・・・ロイドには二度と会えないと思ったらすごく悲しくて・・・」

「俺も楓を二度と失いたくない。楓、頼むから残ると言ってくれ」

「・・・うん・・僕、やっぱりロイドといたい。ここに残りたい・・・」

楓の言葉にロイドは目を開く。その言葉が聞き間違えではない事を確かめたくて、体を離し楓を見つめる。

「僕・・残ってもいいんだよね?側に・・・側にいてもいいんだよね?」

「あぁ!ここで、俺の側にずっといてくれ」

楓の言葉が嬉しくて、聞き間違えなどではないと確信して、ロイドはまた楓を強く抱きしめる。

「僕はまた努力するのを忘れるところこだった。不安がってないでロイドとの約束通りロイドを頼って一緒に進むべきだった。ロイドは絶対寄り添ってくれるのに・・・ロイドが居場所をくれて、愛をくれて、温もりも優しさもくれたのに、僕はロイドに何も返せてない」

「そんなもの何もいらない。ただ、側にいてくれるだけでいい」

「ううん。僕も愛される努力をするべきだった。ただ、今まで愛されたことがないから、どうやったらいいのかわからないんだ・・・家族の形も、どうやって作るのかもわからない・・でも、ここで何も努力できてないのに、ベールを渡って元の世界に戻ってもきっと変わらず1人のままだ。ねえ、ロイド。僕、愛し方もきっと気持ちを表現することも下手だと思う。なのに、ロイドからはもっと愛されたいと欲張りになっちゃった。そんな僕でもいいかな?」

ロイドを見上げる楓の目は不安に満ちていていたが、どこか決意をしたような、それを後押しして欲しそうな眼差しだった。

ロイドは楓の頬に手を添え、おでこを重ね合わす。

「ああ。もちろんだ。俺が沢山楓を愛して、愛し方を教えてやる。もっと欲張りになって俺の愛を欲しがれ。俺はそれが何より嬉しい」

「うん・・うん・・。ロイド、帰ろう。僕らの場所へ」

「ああ・・帰ろう」

いつの間にかベールの輝きは消え、当たりは楓が持ってきたランプの灯りだけとなっていた。互いに手を握り締め洞窟を出ていく。

城の入り口では、メイドやマッシュ達が灯りを灯し待っていた。

「楓、ここに集まった者たちは楓を心から心配している。それだけ楓を愛しているんだ」

「うん・・そうだね。ありがたいね」

一度は引っ込んだ涙がまた溢れてくる。

ロイドはそんな楓を愛おしく見つめ、涙を拭い、目元にキスをする。

僕にはこんなにも愛してくれる人達がいる・・・ロイドが言っていた幸せに満ち足りる気持ちはこう言う事なんだと楓は笑う。

まだ不安は拭えないけど、この愛をしっかり受け止めていかなきゃ・・そして、それぞれの家族の形を作っていこう。

(ただいま・・僕の愛すべき人達・・・)

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