第23話 ベールの向こう側
「陛下!」
慌ただしく執務室にメイドが駆け入る。
夜も更けているが、政務が終わらずロイドは書類に目を通していた。
「どうした?」
「それが・・・楓様のお姿が見えません!」
メイドの言葉に胸がドクンと跳ねる。
街から帰宅して、夕食を済ませた後、楓が疲れたからと早めにベットに入るのを見届け、仕事を片付けに執務室へきた。
「どう言うことだ!?」
「それが、物音がした気がして部屋に入ったんですが、楓様の姿が見えず、テーブルの上に手紙が・・」
そう言って差し出した手紙には楓の字があり、ロイドへと書かれていた。
震える手で手紙を開くと、楓の心中を綴った文字が並んでいた。
読み終えたロイドは執務室を飛び出し、裏の丘へと走った。
ロイドへ
いつも僕に優しくしてくれて、愛してくれてありがとう。
僕はロイドのおかげで、人の温もりも、愛情も初めて感じ取ることができました。
それと同時に、こんな僕が幸せになっていいのかと不安にもなりました。
あの日、あの男の人が言った言葉がずっと忘れられなくて、僕がいる事でやっぱりロイドに迷惑かけているのじゃないかと心配でたまりません。
今日、街に出かけてみんなに愛されてるロイドを見て、ロイドが立派な王になるためにはちゃんとしたお嫁さんをもらって、国を繁栄させていく事が大事なんだと実感しました。
僕はいつの間にか欲張りになったみたいです。
ここに来る前は、ただロイドの側に入れるだけでいいと、側に入れなくてもロイドの国で過ごし、ロイドを感じられればいいと思っていたのに、ロイドを深く愛し過ぎたみたいです。
頭ではわかっているけど、このまま側にいてロイドが違う人を選んで家庭を持っていく姿を見るのが辛いです。
それから、僕は僕の世界に未練があったみたいです。
たくさんの優しさを知って、どうして僕の世界は僕を愛してくれなかったのか、僕の努力が足りなかったのか、努力すれば愛されたかも知れない、そんな考えが浮かぶ様になりました。
誰も僕を待っていないベールの向こう側。
だけど、ロイドからもらった愛がきっと僕を支えてくれると思います。
幸せになって。僕のかっこいい大好きな王様。
月はもうすぐ真上に来る。今日は満月だ。いつから離れる事を考えていたのだろう。どうして不安な楓に気付いてあげられなかったのだろう。
何故、ただひたすらに愛を与えればわかってくれるなどと思い上がった考えをしていたのだろうか。
ただ寄り添って楓の話を沢山聞いてやって、不安と向き合ってやれば良かった。
守るなどと言っておいて、楓を傷つけた。
楓がじっと耐える事が平気な子だとわかっていたのに、ここに来てからずっと笑顔でいたからもう大丈夫だと高を括っていた。
後悔ばかりがロイドの胸に押し寄せる。丘の先に灯りが見える。
楓だ!やはり洞窟にいたのか!焦る気持ちを抑えながら岩場を登りきると、そこには膝を抱え泣いている楓の姿があった。
「楓・・・」
ロイドの声に楓はゆっくりと顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃだ。
苦しそうに、切なそうにロイドを見上げている。
ロイドは楓に駆け寄り強く抱きしめた。
「間に合って良かった」
声を震わせ楓に呟く。だが、抱きしめ返してくれない楓に胸が苦しくなる。
嗚咽を漏らしながら力なく抱きしめられている楓。
こんなに泣いているのは、あの別れ以来だ。
その事が余計にロイドの不安を駆り立てる。
会えなくなった辛い日々が思い返され、身体が自然と震え出す。
楓の温もりを知ってしまったのに、今更、失うのは耐えられない。
ロイドは何も言わずただ、ただ強く楓を抱きしめた。
そして、いつの間にかロイドからも涙が溢れていた。
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