第22話 初めての城下町
あれから一週間が過ぎ、心労のせいか熱が出た楓もすっかり良くなり散歩するまでに回復した。
散歩には必ずロイドが付き添い、順調に元の生活を取り戻してるかの様に見えていた。
今日は、約束していた街に出る日。ロイドは騎士の服装で、楓は動きやすい長めのシャツにスボン姿だ。
街へは馬車を使い、寄り添う様に座る。
途中まで楽しみだとはしゃいでいた楓がふっと静かになる。
そんな楓を見ると窓の外をぼんやりと見ていた。
まただ・・・ロイドは胸の中でそう呟く。
回復につれて、楓はよく窓の外を見ながら何かを考えている。
声をかけると笑顔で答えてくれるが、その顔には元気がない。
そして、あの言葉を使う。
ここに来て使わなくなった言葉・・・あの事件以来、頻繁に使う様になった。
先日、捕まえた貴族やその一味を牢獄して、順に処罰を下す事を伝えたが、その時も顔に覇気はなく、俯いたまま黙って聞いていた。
気になっていただろうから話したが、かえって怖がらせてしまっただろうか。
楓の国は盗賊はおろか、多少犯罪はあるものの戦争もない平和な国と聞いていた。
だから、死刑になるとまでは伝えなかったが、楓も察しているのかも知れない。
あの事件で何かを見聞きしたのか、あまり触れようとせず、心中も話してくれない。話してくれれば、少しは不安を取り除けるかも知れないが、無理に聞くことはできない。
俺を心配させまいと無理に明るく努め、あの言葉を使い笑顔を見せる。
そんな楓が痛ましくてたまらない。
楓の中で、何かが変わってしまったのか・・・いや、もしかしたら何かが壊れてしまったのかも知れない・・そんな不安が、ロイドの胸を苦しめていた。
「ねえ、ロイド!あれは、何?」
街に着くなり、キョロキョロと忙しくなく首を動かす。
「あれ!あれ食べてみたい」
楓はロイドの手を引っ張り屋台の方へ連れていく。そんな楓の顔を見ながら笑みが溢れる。
今日で少しは気が晴れてくれるといいのだが・・・そんな心配をよそに楓は早くとロイドを急かす。
串に刺さったお肉を頬張り、美味しそうに笑顔を浮かべる。
「楓、ゆっくり食べないと」
口元についたタレを拭いながら、ロイドは楓に微笑む。
楓は嬉しそうにされるがままに頬を突き出す。
「僕、こんなお祭りみたいな所、初めて!楽しいね!それに、町の人たちも幸せそうだ」
「そうだな。俺もたまに視察しにくるが、この笑顔が出るまでは苦労した」
ロイドは街の民を愛おしそうに見つめる。
「ロイドはいい王様だ」
ふふっと笑う楓が、ロイドには眩しかった。愛おしくて肩を抱き寄せる。
髪にキスをすると楓が慌てて振り向く。
「もう!人前じゃダメって言ったでしょ!」
顔を赤く染め、ぷくっと頬を膨らませる楓が本当に愛おしい。
ふとその側でじっと見つめる視線を感じ、目を向けると、小さな男の子がこちらを見ていた。そして、そっと駆け寄り小声で話しかける。
「王様ですか?」
「バレたか」
ロイドの返事に子供は目を輝かせ、満面の笑みでロイドを見つめる。
ロイドも笑顔で返し、背を屈めて子供の頭をくしゃくしゃと撫でる。
子供がちらっと楓を見ると、ロイドは立ち上がり楓の腰に手を回す。
「俺のお嫁さんだ」
「ロイド!」
慌てる楓をよそに、ロイドは自慢気に楓を紹介する。
子供は楓に向かい頭を下げ、ほんのりと頬を染める。
「王様のお嫁さんは可愛いですね」
「そうだろう?」
そんなやりとりを微笑ましくみていた楓も背を屈め、子供の頭を撫でながらニコッと微笑む。
「ありがとう。君は可愛くてかっこいいね」
楓の言葉に、子供は余計に顔を赤らめる。
その姿を見たロイドはすかさず楓の手を引き、楓を軽く睨む。
「誰にでも微笑むんじゃないと言っただろう。坊主、俺のお嫁さんだからな」
子供相手に何を競り合っているのかと楓は呆れるが、段々おかしくなって声を出して笑う。
「ロイドが一番好きだよ」
「・・・わかっている」
楓の言葉にロイドも顔を赤らめ、フイッと横を向く。
そんなロイドが可笑しくてしばらくの間、楓は笑っていた。
その後も街を探索したが、何度も呼び止められ、ロイドは街の人たちと会話する。
楓の周りには何故か子供たちが寄ってきて、笑顔で挨拶をしていた。
子供達の頭を撫でながら横目にロイドの笑顔を見る。
民に愛される王・・そんなロイドが誇りに思えた。そしてふと笑みに影を落とす。
ロイドは先ほど声を出して笑っていた楓に安堵していたからか、楓の顔色が変わった事に気づかず、そのまま城へと帰宅した。
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