第21話 暗闇の中で

「あんたが私を不幸にする!あんたさえいなければ!」

「あの女に似て、人に擦り寄る事が上手いのね」

「お前を引き取ったのは、1人でも多く財をなす奴が欲しかったからだ」

「お前とお前の母親が、俺らの家族を壊したんだ!」

走馬灯の様に暗闇の中、罵声が浴びせられる。

楓は小さな体でうずくまり何度もごめんなさいと許しを乞う。

そして、静まった暗闇に灯りが差し、ロイドの姿が見えた。

ロイド・・・ロイド・・楓は手を差し伸べるが、ロイドは悲しそうな顔で楓を見つめ、その手を振り払う。

そして、ゆっくりと背を向け去っていく・・・・。

待って!ロイド!僕を1人にしないで!

泣き叫ぶ楓の声も届かないのか、ロイドは振り向きもせず去っていく・・・。



「ロイド・・・」

涙を流しながら目を覚ますと、いつもの見慣れた天井が見える。

ふと右手が温かい事に気づき、顔を傾けるとロイドが手を握りながら椅子に座り、ベットに顔を伏せていた。

「ロイド・・」

か細い声にロイドが目を開け、慌てて楓の顔を覗き込む。

今にも泣きそうな顔で、楓の顔を撫で、髪を撫でる。

「楓!目が覚めたか!あぁ・・良かった。楓、すまなかった。あれほど守ると言ったのに、こんな目に遭わせてしまって・・・」

声を震わせ、ロイドが楓に声をかける。楓は力なく首を横に振ると、ニコッと笑う。

「僕は大丈夫だよ。僕が悪いの。1人で出かけるなって言われてたのに出かけちゃったから・・・」

「楓・・・楓は悪くない!」

「本当に大丈夫だよ。ロイドが助けてくれたんでしょ?忙しいのに迷惑かけちゃたね。結婚式はどうなったの?」

「迷惑なんて思ってない!結婚式は・・・とりあえず延期という形を取った。楓は三日間も眠っていたんだ。そんな心配はいらない。ゆっくり体を休めるんだ」

顔を歪めながら、ロイドは優しく楓の髪を撫でる。

そんなロイドに、楓はまた笑みを浮かべる。

「泣いたらダメだよ。ここは僕達だけじゃないんだから。ロイドはかっこいい王様なんだよ。僕は大丈夫だから」

楓の言葉にロイドは喉を詰まらす。そして、握っていた手を両手でしっかりと握り、必死で笑顔を作る。

「あぁ、わかった。わかったから、早く元気になってくれ。そうだ、元気になったら気晴らしに街へ行こう。ここにきて、城内しか見てないからな」

「うん。それは楽しみだね。・・・ロイド、僕、まだ眠たいや」

「あぁ。もう少し寝ろ。後で医者が来る。その時に楓の好きな葡萄を用意しよう」

「わぁ・・ありがとう。ロイド・・大好きだよ・・」

楓は微笑みながら目を閉じた。ロイドはそっとおでこにキスをして寝息が聞こえるのを確認すると、椅子に深く腰を下ろす。

まただ・・・側にいたのに守ってやれなかった・・・今度は触れれる距離にいるのに、楓を傷つけてしまった・・・自分への腹ただしさと傷付けた者への怒りで体が震える。

そして何より楓がまたあの言葉を使っている事に、とてつもなく不安を感じた。


それから数時間して目が覚めると、相変わらずロイドが側により沿っていた。

安堵からか体に力が入らない。

体は異様に熱く、頭もぼーっとしている。

「楓、喉は乾いてないか?」

ロイドはそう言ってベットに腰を下ろし、そっと楓の体を起こす。

もう片方のロイドの手に持っていたグラスには水が注がれていた。

ロイドの名を呼びたいが、喉が痛く声が出ない。

その様子を悟ってか、ロイドは楓にグラスを持たせると、優しく頭を撫でた。

「無理をするな。少し熱が出たんだ。回復するにはもう少し時間がかかる。薬を飲まなくてはいけないが、少し何か口にするか?葡萄はどうだ?」

優しく声をかけながら楓を見つめる。楓が小さく頷くと、楓の背に枕を当て葡萄を取りに向かう。

(あぁ。ロイドの背中は大きくてかっこいいなぁ)

ぼんやりとロイドの背中を見つめる。ふっと〈男に溺れた王〉〈世継ぎの産めない王妃〉そんな言葉達が脳裏をかける。

ロイドは人に蔑まされる様な男ではない。

強くて優しくて、誰よりも国と民を想っている。

僕はこのままここにいていいのだろうか・・。

身体が弱っているせいか、心まで深い闇に堕ちていく。

夢の中に出てきた言葉は、僕が今まで聞いてきた言葉。

(僕が周りの人を不幸にする・・・ロイドの側にいたい・・でも・・・)

やるせない思いが胸を締めるける。

「どうした!?楓、どこか痛いのか?」

戻ってきたロイドは慌てて楓の元に近寄り、葡萄の入った皿をベットの片隅に置く。いつの間にか楓の頬には涙がこぼれていた。

体を抱き寄せ、優しく包んでくれるロイドの胸に顔を埋め、ロイドの腕にしがみつく。

(僕はわがままで欲張りだ・・)

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