第17話 ロイドの心配事

「ロイド・・・そろそろ真面目に仕事をしてくれないか」

1枚の紙を目の前に広げ、ニヤニヤと笑うロイドにマッシュが冷たく言い放つ。

「わかっているが、この手紙が可愛くて、ついな・・」

昨夜、楓と食事を終えてから部屋に戻ると、楓が顔を赤らめながら一枚の封筒をロイドに差し出した。

文字を勉強中の楓が、覚えたての文字でロイドに手紙を書いたのだ。

内容は大したものではなく、辿々しい文字が並べてあったのだがロイドにとっては、それが嬉しかった。

そして極めつけは出だしの言葉と、終わりの言葉がロイドを歓喜させたのだ。


(僕の初めては何でもロイドにあげたいから、初めての手紙をロイドに書きます。

いつもお仕事ご苦労様です。忙しいのに、僕との時間を作ってくれてありがとう。僕も一生懸命勉強頑張ります。ロイド、大好きです)


可愛すぎる・・・何度も読み返しては身悶える。

そんなロイドを冷ややかな目で見るマッシュは、はぁとわざとらしくため息をつく。

「ロイド、幸せに浸るのはいいが、婚約式についてやはり反対の者がいて少し準備がもたついてるんだが・・・」

「またか・・・」

マッシュの言葉にロイドもため息をつく。

一部の年寄り官僚が婚約式に反対していた。理由はもちろん「世継ぎ」のこと。

譲渡しても楓を側室に、王妃は女性が良いと言い張る。

もちろん、ロイドにはそんな気はさらさら無い。

「陛下、その者の中に1人あやしい人物がいまして、それが前王と関係していた者ではないかと思われます」

「何?」

ハービィの言葉にロイド達の表情が固まる。

「まだ詳しくはわからないのですが、前王の取り巻きだった貴族と付き合いがあったらしく、私腹の肥やし方が尋常ではないとの噂があります。そして、反対している者たちの中心にその者がおり、薦める王妃候補の中に、娘がいるとか・・・」

「ほう。娘を皇族に引き入れ、更に私腹を肥やすつもりか」

「ロイド、俺もそいつについては良くない噂を耳にしている。念の為、楓殿の護衛を強化した方が良いかもしれん」

「そうだな。ハービィ、この件頼めるか?」

「かしこまりました。では、すぐに手配の準備いたします」

深々とお辞儀を済ませ、ハービィは部屋を出る。

残された2人は同時にため息をついた。

「マッシュ、型式をすっ飛ばして結婚式ではダメか?」

「まぁ、できない事はないが・・・」

「俺はすぐにでも式をあげたい」

「俺としても辛い思いをしていたお前の年月を知っているから、すぐに挙げても構わないんだが・・・まずは楓殿の了承をとってこい。勉学も一生懸命頑張っている途中なんだ。準備している段階で、明日明後日に王妃になれと言われても困憊するだろうから・・・。ちゃんと了承を得れば、お前は王だ。王命で何とでもなる。覚悟が決まればすぐにでも準備しよう」

「恩にきる」

マッシュはロイドの肩をポンと叩き、書類を掴むと部屋を出ていった。


「ロイド、何かあったの?」

夕食後、長椅子に座り今日あった事を楓が話していたが、ロイドは上の空だった。

そんなロイドに気付いてか、楓が心配そうにロイドを見つめた。

楓には嘘がつけないなと楓の肩を引き寄せ、髪に頬を寄せる。

「楓、婚約式をやめようかと思う」

「え・・・?」

「いや、違う。勘違いするな」

不安そうな顔をする楓を見て、ロイドは慌てて言葉を繋げる。

「俺としては1日でも早く結婚式を挙げたいと思ってる。ただ、形式とかめんどくさいのがあったし、急に結婚となるとせっかく楓が王妃になるために努力してくれてるのに、困らせるのではないかと思ってな」

「そんな事ないけど・・・それだけが理由?」

「いや、他にもちょっとした理由があるにはあるんだが、俺からしたら大した理由ではない。ただ、夢に見ていた分、1日でも早く楓を俺の嫁にしたいんだ。ダメか?」

「ううん。ロイドの気持ちは嬉しい。正直、不安はあるけどロイドが側にいてくれるなら頑張れる」

「もちろんだ。俺がそばでいつも見守ってやる」

「わかった。じゃあ、よろしくお願いします」

いつもの笑顔でロイドを真っ直ぐに見つめる楓。そんな楓を強く抱きしめる。

楓も望んでくれた。これで心置きなく準備ができる。

結婚さえしてしまえば、他の者も何も言えまい。

ついでに一夫一妻制度に変えてしまおう。俺は楓がいればいい。

他の者などいらない・・・。

「そうだ!ロイド!今日ね、グレイスと庭園で散歩した時に、グレイスが花でリングを作ってくれたんだ」

ロイドの腕を振り解き、楓は机の引き出しから取り出す。

そして右手の指にそのリングを通すと、嬉しそうにロイドに見せる。

「可愛いでしょ?」

笑みを浮かべ、楓は手のひらをひらひらとさせる。

その手を見てロイドは急にむすっとした表情で楓を見る。

「楓の可愛い手には、俺からのリングがあるじゃないか。他の男からのリングをはめるんじゃない」

「他の男って・・・ロイドの弟でしょ?それに、まだ6歳の男の子だよ?」

「いくつでも男には変わらん」

すっかりふてくされて顔を背けるロイドに、楓は呆れ顔で言葉を返す。

「僕なんかに誰も好意を持たないよ。グレイスだって、ロイドのお嫁さんだからよくしてくれるの。僕もグレイスのお兄さんになるんだから、可愛がって当然でしょ?」

「僕なんかじゃない!楓は誰から見ても可愛いんだ。悪い虫が寄ってきたらどうする?」

「・・・・・」

「いいか?むやみに他のやつから贈り物をもらうんじゃない。特にリングとか装飾品だ。ここでは特別な人に装飾品やドレスを贈って愛を示すんだ。それから、他の人に可愛い笑顔を見せるのもダメだ。にこり程度の愛想笑いは許すが、心からの笑顔は俺だけにしろ。楓の笑顔は相手を虜にするんだ」

ブツブツと小言を言い始めたロイドに、王様が何言ってるんだろうと呆れながらも子供の様に拗ねる姿が面白くて、楓は声を出して笑った。

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