第15話 出会いと告白

「マッシュ・ハルウェンです。この国の宰相を務めています」

ブラウンの短髪にスラっとした体形でロイドより少し背の低い男性が、胸に手を当て頭を下げる。

「青木楓です。よろしくお願いします」

緊張の面持ちで楓もお辞儀する。

「マッシュは幼少時代からの友人で、信頼のおける者だ」

「君の話は昔から聞いている。そう固くならずに、友人として接してくれ」

「ありがとうございます」

気さくな態度に安堵し、笑顔が出る。その後も執事長やメイド長と順に紹介が続く。

「そして彼がハービィ・モラリス騎士団長だ。楓専用の使用人や護衛はゆくゆく決めていくが、決まるまでは、俺の使用人と副団長が護衛につく」

「よろしくお願いします」

辿々しく頭を下げる楓の腰に手を回すロイド。また人前で腰に手を回して・・・!と慌てふためく楓に、にこりと微笑む。

「楓、ここにいる者達は俺がこの地位に就くために尽力を尽くしてくれた者達だ。だから、俺は心から信頼しているし、今となっては家族だと思っている。だから、楓も彼らを家族だと思って受け入れてくれ」

ロイドの言葉に目頭が熱くなる。家族に恵まれず、ずっと1人だった楓にロイドは居場所も家族も作ってくれた。こんなに幸せなことがあるだろうか。

「ありがとう・・・」

必死に涙を堪えて言葉にする。ロイドは優しく楓の頭を撫で、楓の両手を包むように取り、甲にキスをする。その様子に涙は一気に引っ込み、顔が熱っていく。

どうしてロイドは、人前でもこんなに平然と恥ずかしいことができるんだろう。

恨めしそうに楓はロイドを見つめる。

ロイドはそんな楓の視線に気づかないふりをして、手を握る。

「紹介も終わったし、城を案内しよう」

楓の手を引き、足早にドアへと向かう。もう!と楓はぶつぶつ呟くが、ロイドはそんな楓が可愛くて目尻が下がりっぱなしだ。

手を引かれながら楓は振り向き、皆にお辞儀をして小走りにロイドについて行く。

するとロイドが入り口で立ち止まり、マッシュへ言葉をかける。

「マッシュ、悪いが例の案件を早急に進めてくれ」

「承知した」

ロイドの声かけににこりと返し、忙しくなるなと部屋の奥へ消えていった。


「楓、疲れただろう?」

一通り城内を案内され、庭園にあるガゼホに腰をおろす。

「大丈夫だよ。でも、本当に不思議!本や外国の写真とかでしかみた事ないお城のまんまだし、こんな感じの庭園も写真で見たことある!」

「写真とは・・・?」

「あ・・んーっと、持ち運びできる小さな絵見たいな物かな・・・」

うまく説明ができず、楓はついモジモジとしてしまう。

そうしているうちに、いつの間にかメイド達が飲み物を運んでくる。

カップに紅茶を注ぐと、メイド達はそっとその場を離れた。

「本当に綺麗な世界だね」

楓はカップに手を伸ばし、庭園の花をうっとりと見つめる。

すると、ロイドがおもむろに楓の目の前で床に片膝をつく。

そして、楓の手にあったカップをテーブルに置き、楓の両手を取りじっと見つめた。

真剣な面持ちに、何故か楓の胸はドクンと跳ねる。

「楓、俺はこの日を待ち侘びて、ずっと前から用意していた」

そう言ってロイドは胸ポケットから小さな小箱を取り出す。

蓋を開けるとキラキラと光る青い石の付いたリングがあった。

ロイドの目の色に似た綺麗な深い青い色だ・・・。

「昔、楓が話してくれたろう?楓の世界では求婚の際にリングを渡すと・・」

「・・・ロイド」

「ロイド・ウェイル。この名と命にかけて、楓を守り抜き、心から愛を誓う。楓、ずっと俺の側にいてくれないか?俺と結婚してくれ」

「ロイド・・・でも、僕、男だよ?」

「承知している」

「子供だって産めないし、この世界の事は何もわからない。僕の身元とかを証明するものも何もない。ロイドは立派な王だ。誰か分からない僕なんかじゃ、きっとロイドのためにならない。僕は・・・僕はただロイドの側にいれたらいいんだ」

真っ直ぐに見つめるロイドの目が見れなくて、楓は俯きながら小さな声で話す。

そんな楓の頬を撫で、ロイドは楓の顔を覗き込む。

「楓、全部承知だ。だから、ずっと準備はしてきた。俺の代になってから同性婚も認めるようになった。実際、民の中にも同性婚をした者もいる。それに、俺について来た者たちの賛同は既に得ている。まぁ、少し面倒な者がいるのは事実だが、それも解決する。それから世継ぎの事だが、今日は会えなかったが俺には6歳になる弟がいる。謀反を起こした際に、前王に加担していた兄弟は一緒に処罰したが、生まれたばかりの弟だけは城で育てていたんだ。だから、ゆくゆくは弟に継承してもいいし、弟の子供に継がせてもいい。何なら俺の意思を汲み取ってくれてるマッシュでも良いと思っている」

優しい笑顔で楓をたしなめる様にロイドは言葉をつなぐ。

そして、両手で楓の頬を包む。

「楓、ここに来たばかりで急だと思うが、俺は何年もこの日を待ち侘びていた。何度でも言う。昔も今も、この先もずっと俺は楓しか愛せない。過酷な環境を恨まず、自分を傷つけた者にさえ慈悲を向ける。そんな優しい楓の心と笑顔に俺はどれだけ救われたかわからない。俺は王として民や臣下を守らねばならない立場だが、ロイド・ウェイルとして、1人の人間として楓のそばで楓を愛し、守ることが俺の幸せだと信じている」

「ロイド・・・本当にいいの?僕なんかでいいの?」

大粒の涙を流しながら、楓はロイドを見つめる。

ロイドは楓の涙を指で拭い、満面の笑みを浮かべた。

「僕なんかなんて言葉を使うな。俺は楓がいい。楓でなくてはだめなんだ」

ロイドの言葉に引かれるように楓は大きく腕を広げ、ロイドを抱き締める。

「僕もロイドがいい。ロイド、僕も愛してる」

「ありがとう・・・楓」

ロイドは楓を力強く抱きしめ、そっとキスをした。

(この世界に、ロイドの側にこれて本当に良かった・・・)


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