第14話 新しい始まり

「夢じゃなかった・・・」

いつに間にか眠ってしまったロイドは、腕の中で小くうずくまり寝ている楓を見つめる。

そして、そっと髪に触れ、頬に触れ、おでこにキスをする。

(幸せだ・・・こんなにも心が満ちたりる日はいつぶりだろうか・・・)

このまま抱きしめて、いつまでも隣で寝ていたい衝動に駆られるが、入ってきたメイドに現実へ引き戻される。

さっと手をかざし、そこで待てと合図をした後、ベットからゆっくりと抜け出る。

布団をかけ直そうと手をかけて、ピクっとロイドの手が止まる。

楓のはだけた胸が丸見えだ。耳が熱くなるのを感じながら手を動かし、楓に布団をかける。

楓には言わなかったが、用意したのは女性もので男には明らかに小さいはずだが、楓には大きかったようだ。早めに小さいローブを用意させよう。


幸い今日は会議もなく、重要な書類だけを片付け残りは宰相に任せる。

メイドに楓が起きたら服と食事を用意するように伝えてあったが、きっと心細いだろうと足速に部屋へ戻る。

「楓、起きてるか?」

勢いよくドアを開けると、食事の最中だったのか口をモグモグさせながら楓が振り返る。

その姿が可愛らしく、口の緩みが止まらない。

すぐさま楓の側に行き、隣に腰を下ろすと楓が満面の笑みで見つめ返す。

ロイドは楓のおでこにキスをし、楓をじっと見つめた。

「ロイド、ごめんね。ベットがあまりにも心地よくてつい、寝過ぎちゃった」

「かまわない。きっと疲れが出たんだ」

「それとね・・・」

顔を赤め俯きながら言葉を続ける。

「せっかく服を用意して貰ったんだけど、どれも僕には大きいみたい。だから、僕が持ってきた服を着ててもいい?これじゃ、目立つかな?」

(あぁ・・・可愛すぎる)

無意識に抱きしめてしまい、顔をさらに赤くしてジタバタと楓がもがく。

「ロイド、恥ずかしいよ!メイドさんもいるのに!」

「かまわん。楓も慣れてくれ。どうやら長い事会えなかった反動か、楓にいつでも触れたいし、愛でたい気持ちが収まらないのだ」

「ずるい・・そんな事言われたら何も言えない・・」

口を尖らし、腕の中で大人しくなる楓が本当に可愛い。

「服はすぐにでも商人を呼んで作らせよう」

「えっ!?大丈夫だよ。お金沢山かかっちゃう」

「前王が散財呆けていたから、代替わりした時は経済的に厳しかったが、今は余裕があるし、きちんと管理されてる。それに、普段の俺は質素なんだ。楓の服代なんぞ、問題ない。国費ではなく、俺が出すから誰からも文句は言わせない。そうだな・・・夜着も含めて取り敢えず30着ほどか?」

「そんなに!?ロイド、本当に僕、大丈夫だよ」

「また、その口癖か?俺は今、もの凄く楓を甘やかしたいんだ」

溺愛モードのロイドと服の数で揉め、楓の強い要望で10着という数で話は収まったが、ロイドはしばらくの間はぶつぶつと文句を垂れていた。


「楓、散歩の前に先に紹介して置かなければならない人達がいるから、一度執務室に寄るぞ。その前にここの使用人達も紹介する。部屋はここを使え」

寝室の側のドアを開けるともう一つ部屋があり、ロイドの部屋と同じ作りで白で統一されていた。

「すごく広い・・・」

部屋の広さに圧倒される。満足げに部屋を紹介するロイドだが、楓の顔が曇っている事に気づき、腰に手を回しながら顔を覗き込む。

「どうした?不満か?」

「ううん!違うよ!ただ・・・」

「ただ?」

「ロイド・・・僕、こんな広い部屋を1人で使った事がないんだ。だから、慣れるまではロイドと同じ部屋じゃダメかな?」

「はぁぁ・・」

顔に手を当てロイドは盛大にため息をつく。

「ごめん!わがままだよね。ロイドは仕事で大変なのに1人の時間も大事だよね」

慌てて謝る楓をぎゅっと抱きしめる。

「違う。楓が可愛くて・・・」

「えっっ!?」

「そうだな。楓が構わないなら俺は大歓迎だ。同じ部屋で一緒に過ごそう」

「本当!?ロイド、ありがとう」

満面の笑みで抱きつく楓が可愛くて仕方ない。

(我慢だ・・我慢だ、俺・・)

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