第13話 温もりを感じて

メイドの湯浴みを手伝うと言う申し出を必死に断り、心配して何度も覗きにくるロイドをたしなめ、やっと湯浴みから上がると長椅子の前テーブルに果物が乗ったお皿が並んでいた。

ロイドに手招きされて隣に座ると、ヒョイっとロイドの膝の上に乗せられる。

せっかく汗を流したのに、茹蛸みたいに真っ赤になる楓は変な汗をかき始めた。

「ロイド!僕、ちゃんと自分で座って食べれる!」

そんな楓を微笑ましく見つめ、後ろからぎゅっと抱きしめる。

「やっと触れられるんだ。今日は沢山楓に触れていたい」

ロイドの言葉に、楓はさらに顔を赤くししどろもどろになる。ローブから覗くうなじまで真っ赤だ。

ロイドは、手を伸ばし葡萄を一粒取ると楓の口へと運ぶ。

楓はおずおずと口を開け頬張ると、甘い果汁にうっとりする。

「僕、こんなに美味しい葡萄、初めて食べた!」

目をキラキラさせて喜ぶ楓を見て、一体今までどんな食事をしてきたのかと、ロイドは心配になってしまう。

「もっと食べたい!」

楓のおねだりに目尻が下がりっぱなしのロイドは、まるで雛鳥に餌を与える様に、せっせと楓の口に葡萄を運んだ。

4、5粒食べ終わる頃にお腹いっぱいとお腹をさする楓。

本当にどんな食事をしてきたのか、こんなに食が細くて大丈夫なのかとロイドは更に心配になる。

190センチを超えたロイドに対し、楓は恐らく160と少し・・・体重も平均より少し足りないだけと言っていたが、かなり低いはずだ。

楓の体付きを見ながら考え込むロイドに気付いたのか、楓はロイドの顔を覗き込み、いつもの言葉を発する。

「ロイド、僕は本当にお腹いっぱいだから・・・。僕は大丈夫だよ」

その言葉がロイドの胸を締め付ける。そして楓の髪に顔を埋めポツリと話し始める。

「楓、ひとつ約束してくれないか?」

「何?」

「楓のその口癖、僕は大丈夫と言う言葉、本当はあまり使って欲しくない」

「・・・・」

「今までは守ってやれないことが悔しくて何も言わなかったが、その言葉は俺を安心させるのと同時に自分に言い聞かせてた言葉じゃないのか?」

ロイドの言葉を俯きながら、黙って楓は聞いていた。

「守ってやれない分、楓がその言葉で勇気づけられるのならと思っていたが、今は守ってやれる。楓の悲しみも不安も痛みも、俺が救い取って傷付かないように守ってやるから、本当に辛い時は大丈夫という言葉じゃなくて、俺に頼って欲しい」

「・・・うん」

楓の返事が涙交じりに聞こえる。優しく、そして力強く楓を抱き寄せロイドは言葉を続ける。

「今まで1人でよく頑張ったな。これからは俺が楓の側にいる。楓を心から愛し、ずっと守ってやるからな」

楓は体を捻らせ、ロイドの胸に顔を埋め鼻をすする。

ロイドはそんな楓の背中を優しく摩り、静にただただ抱きしめた。


楓が落ち着いたのを見計らって、ロイドはまたヒョイっと楓を抱き上げる。

急に抱き締めたまま立ち上がるロイドに、楓はびっくりして慌ててしがみつく。

「今日はもう寝よう」

そう言って、寝室に向かうとゆっくりとベットに楓を寝かす。

ロイドもベットに入り、向き合ったまま楓を抱き締める。

「ロイド、あんなに似合ってた髪、切っちゃったんだね」

楓はロイドの髪を撫でながらぽそりと呟く。

ロイドはそんな楓を見ながら微笑み答えた。

「奪還の際に、王と決別の意味を込めて切ったんだ。ブロンドの長髪は皇族の象徴でもあったからな」

「そっか・・・でも、これはこれでロイドの顔が綺麗に見えて素敵だよ。ロイドの綺麗な青い目もちゃんと見える」

ロイドの前髪をかきあげながら楓は微笑む。ロイドも楓の頬に手を当て、撫でながら囁く。

「今日は・・・これからずっとだが、こうやって寝よう。お互いに感じられなかった温もりを確かめ合いながら寝よう」

「うん。ロイドは温かい。僕、こうやって人の温もりを感じるのは初めてだ。僕の初めては全部ロイドで嬉しい」

「・・・楓、俺を煽るな」

「えっ?何の事?」

「もういい。ぐっすり寝て、明日は時間を作るから一緒に城内を散歩しよう」

「わかった」

楓はロイドに抱きつき、嬉しそうにロイドの胸に顔を埋めてぐりぐりする。

(楓・・・煽るなと言っただろうが・・・我慢だ・・我慢・・)

無邪気な楓を横目に、落ち着かない長い夜になったロイドであった。

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