第12話 満月の夜に

朝になると楓が起きるのを待ってから、行ってくると告げ、ロイドは城へと戻って行った。

楓はリュックから小さなパンを取り出し、手でちぎっては口に入れ、時折水で流し込みながら食事を終える。

身の回りの物を片付けながら、そわそわと落ち着かない自分に(大丈夫。ロイドは来てくれて、向こう側へ連れてってくれる)と言い聞かせ、夜が来るのを待った。

日が暮れ始め、辺りは暗くなってきた。

暗さと静けさが楓をより一層不安にさせる。

楓は懐中電灯を灯すと、ロイドが来るまで大丈夫と自分に言い聞かせ続けた。

夜も深まり静まり返った洞穴に、カタンと物音がして、音がする方へ顔を向けるとロイドの姿が見え、楓は安堵する。

「すまない。予定より遅くなってしまった」

「ううん。僕は大丈夫」

「・・・楓、不安か?」

「違うよ!ただ、昨日の事がまだ夢みたいで、ロイドが来てくれるまで実感が湧かなかっただけ」

「楓・・・もうすぐ月が一番高い所に行く。大丈夫だ、きっと上手くいく」

「うん・・・」

神話であって不確かな方法ではあるが、これしか記述がなく信じるしか他なかった。それに何度かこのベールが光るのをロイドは見ていた。

互いにベールの側に行き、いつものように手を重ね合わせる。

しばらくするとベールが光り始めた。

「楓!」

「うん!ロイド、僕の手を掴まえて。僕はロイドの側にいたい。連れてって・・・」

楓の差し伸べた手がベールを通り抜け、ロイドへと届く。

その手をしっかりと掴み、力強く楓を引っ張る。

すると、ゆっくりと光のベールの中を楓の体が通り抜ける。

ピリピリとした感覚に襲われるが、楓は決してロイドの手を離さない。

そして、体が全部通り抜けたと思ったら、そのまま力強くロイドの腕の中に引き寄せられた。

「あぁ・・・温かい。楓、ようやく触れられた」

「うん・・うん・・ロイドはこんなにも温かいんだね」

互いのぬくもりを抱きしめ合い、そのぬくもりに涙する。

そして見つめ合い、頬に触れ、キスをする。

(やっとベールの向こう側に来れた・・・)



ロイドに手を引かれ、洞窟の入り口に座り、ここが俺の国だと楓に言う。

目をキラキラさせて凄い!と何度も口にする楓を、微笑みながらロイドは見つめた。

そして、ロイドはひょいと楓を担ぎ、洞窟の外へ出る。

「僕、自分でも降りれたのに・・・重かったでしょ?」

頬を膨らまし、拗ねた様子を見せる楓が愛おしくて、そっと髪を撫でる。

「羽の様に軽かったぞ。ちゃんと食事は取っていたのか?こんなに腕も細くて、少しでも乱暴にしたら折れてしまいそうだ」

「ロイドと比べないでよ。これでも僕は標準だよ。ほんのちょっとだけ足りない所はあるけど・・・」

「ハハッ。これから俺がたらふく食べさせて太らせてやる」

「もぉ。太ってこれ以上不細工になったらどうするの?」

「楓はいつでもどんな顔でも可愛いぞ。不細工なんかじゃない」

そう言って楓を見つめるロイドに、顔を真っ赤にしながら小さな声で可愛くないといい返す。

お互いの手を握りながら歩いて行くと、城へと辿り着いた。

門番や護衛をものともせず、城の中を堂々と歩いていくロイドに手を引かれ、手を握ったままのロイドにあたふたしながら、俯き加減でメイド達の横を通り過ぎる。

手を見られているのか、ただ単に変わった服を着て歩く黒髪が珍しいのか、自然と視線は楓へと集まる。

大きなドアの前で、ロイドが護衛に向かって、こちらから呼ぶまでは誰も入れるなと伝え、楓と共に部屋に入る。

「わぁ!これがロイドの部屋?本に出てくるお城のまんまだ!」

「これでも質素な方だ」

キョロキョロと忙しく首や目を動かす楓を見て、ロイドはクスリと笑う。

そして長椅子に楓を座らせ、その隣にロイドも腰を下ろす。

互いに見つめ合い、手を取って、また温もりを確かめ合う。

しばらくの沈黙した後、ロイドが口を開く。

「楓、お腹は空いてないか?それとも疲れただろうから湯浴みをするか?」

「お腹は・・・少しだけ。でも、先に湯浴み?をしたい。ずっと洞穴にいたから埃だらけだし・・・」

「わかった。すぐに用意させる」

そう言うとベルを鳴らしメイドを呼ぶ。メイド達が忙しなく準備をしている間、ロイドはずっと楓の手を握り、髪に頬埋めていた。

人前でベタベタするなんて!!と慣れない事に赤面する楓は、これがカルチャーショックなのかとボソボソ呟き始めた。

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