第11話 満月の夜に

互いにベールにもたれかかり、これまでの事を話し合った。

ロイドは王になった事、今は民の為に力を注いでる事、それも全て楓との約束があったから、挫けずに戦えたとロイドは言う。

そして、満月の夜は必ずここに来ていたと告げた。

楓は少し俯きがちにポツリポツリと話し始めた。

お父さんの家族とはうまくいかなかった事、本当は16になったら来るつもりが、世間体が悪いと高校まで行かされた事、卒業したら自由になれると思ったら今度は大学に行けと言われ、挙げ句の果てに受かったら、いい所のお嬢さんとお見合いをしろと言われて、受験をすっぽかし卒業式の日に家出をした事・・・

「楓、辛い思いをしてきたんだな」

「うん・・・でも、僕が怪我をしたあの日、ずっとロイドが生きるのを諦めるなって励ましてた声がずっと耳に残ってて、だからロイドに会えるまでは頑張って生きようって思ったんだ」

「楓・・・」

「それより、ロイド!さっきも言ってたけど、いつもここに来るのは満月の夜だったんだよね?次の満月は明日か明後日じゃないの?」

暗い気持ちを跳ね返す様に、楓が明るい声でロイドの顔を覗き込む。

(昔から変わらないな・・・元気なふりをして俺を励ましてくれる)

その笑顔に癒されてきた事を思い出す。楓に微笑みながらそれはなと言葉は続ける。

「こちらでは正確に満月の夜がわかるんだ。明日がそうだ。それで何気なく丘が見える窓辺で座って眺めてたら、洞窟の方から明かりが一瞬だが見えたんだ。まさかと思いながら、気になって来てみたんだ」

「あぁ!僕の懐中電灯の光か!」

「楓はいつからここへ?」

「今日だよ。家を出れる日が今日しか無かったし、あ!見て!」

思い出した様に懐中電灯で、リュックや寝袋を照らす。

「いざとなれば、ここで何日も寝泊まりするつもりで色んなものを持ってきたんだ!」

「ここで野宿だと!?」

「うん!・・・と言っても、寝袋と敷物と服を何枚かだけ。でもね、僕、こっそりお金を貯めてたんだ。だから、ご飯は外に買いに行けばいいし、お風呂は銭湯に行けばいいと思って・・・」

「このバカ!盗賊や人攫いが来たらどうするんだ!」

「盗賊って・・・ぷぷっ、僕の世界に盗賊も人攫いもいないよ」

「それでも何かあったらどうするんだ!」

「僕は大丈夫だよ。ただ、ロイドを長い事待たせちゃったから、来ないかも知れないって不安だった。もし、ロイドにいい人ができて、側に入れなくてもロイドの世界に連れてって欲しかったから・・・」

「・・・楓、言っただろう?俺は楓以外の人を愛さないと。必ず迎えに来ると約束しただろう?」

「うん・・・来てくれてありがとう」

頬を染めて、はにかむ楓が愛おしくてたまらなかった。

「今日は朝までここに居てやる。明日は朝戻って政務を終えたらすぐに来るから、待っててくれるか?」

「うん。今度はどこにも行かない。ここから離れずにロイドを待ってる」

ベールにはばかれ互いの温もりも感じられずにいるのをわかっているのに、側で寄り添って少しでも互いの存在を確かめ合うように摩り合う。

(明日・・・ようやく明日・・・)

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