第10話 再会を夢見て
「よし!準備はできた!」
駅のコインロッカーを勢いよく閉める。
Tシャツにデニム、薄手のパーカーを羽織り、帽子のつばを深々と下げる。
片手には寝袋を、片手には服が数枚入ったリュックを持ち、早足でホームへと向かう。
ここから乗り継いで、空港へと直行すれば夕方には向こうへ着ける。
自然と笑みが溢れ、胸の高鳴りと一緒に電車に乗り込む。
待ってて、ロイド!
辺りはもう日も暮れ、相変わらず静かな造林林を1人歩いていく。
林に入る前に、昔の家を覗きに行ったが、すでにそこは更地になっていた。
少し寂しくもあったが、それよりもあの洞穴へ行かなくてはと気が焦る。
満月の周期は約29、5日。このままいくと明日か明後日には満月だ。
楓は意気揚々と林の中を突き進んで行く。
途中、持ってきた懐中電灯を付け慎重な足取りで洞穴へと向かう。
昔に歩き慣れた道とは言え、久しぶりの獣道だ。
怪我をしたらまたロイドに心配をさせてしまう。
早る心を落ち着かせながら一歩一歩と足を進めると洞穴に辿り着いた。
最後に来たのは16の時、あれからまた3年も経ってしまった。
まだ待っててくれるのだろうか・・・。
入り口は背が伸びた楓には小さく、四つん這いの状態で奥へと進む。
途中で開けた道に出て、手と膝についた土を払った。
ベールの近くに到着すると、リュックから敷物を、手に持っていた袋からは来る途中で買った飲み物を取り出す。
満月の夜までここに寝泊まりするつもりだ。
会えたらまず何を話そうかと色々考えながら、敷物の上に寝転ぶ。
3月だと言うのに、今日は少し暑いくらいに暖かい。
今日は高校の卒業式だった。
もう何日も前から計画を立てて準備してきた。
幸い楓に無関心な家族だったから、怪しまれる事もなくいつも通りに制服を着て家を出た。もちろん、会場に誰も来るはずがない。
(きっと僕がいなくなっても探したりしないだろう)
この世界には僕を愛してくれる人はいなかった・・・ただ、それだけの事。
携帯も身分を示す物も何もかも置いてきた。僕にはもう必要ない。
この世界には何も未練はないから・・・。
不思議と寂しさは感じられなかった。
きっとロイドに会えることの嬉しさの方が大きいからだ。
3年前、ここに来た時ベールの側に花が置かれているのに気づき、ロイドからのメッセージだとすぐにわかった。ロイドは約束を守ってくれていた。
あの時は、父の家族からの冷遇が辛くて後先考えずにここにきてしまったが、あの花を見つけて、心が救われた。そして、気持ちを固めた瞬間でもあった。
あぁ・・・早く会いたい・・・。もし、ロイドの気持ちが昔と違っててもロイドにお願いしてみよう。
僕の居場所はここには無い。
だから、側に入れなくてもロイドの世界に行って、仕事見つけて働きながら暮らして生きていけばいい。
それだけでも、ロイドを感じられるから、それだけでいい・・・・。
ウトウトし始めた頃、ベールの向こうから物音が聴こえて飛び起きる。
まだ満月じゃないし、動物か何かかなと懐中電灯を手に取り向こう側を照らす。
「・・・楓?」
懐かしいその声に胸が高鳴る。ゆっくりと近寄ってくる人影の足元にライトを当てると、だんだんと輪郭が見えてくる。
「ロイド・・・」
その名前を言葉にした瞬間、涙が溢れる。
あんなにも恋焦がれた顔と声がすぐ側にある。
髪は短髪になっていて、背も更に伸び、身体つきもすっかり大人の体格だ。
それでも、恋焦がれた男の姿を見間違うはずはない。
すぐにベールに近寄り手を添える。
ベールの向こう側では、今にも泣き出しそうな顔で楓をじっと見つめるロイドが立っている。
ロイドはゆっくりとベールに近づき、膝をついてベール越しに楓の手に重ね合わせた。
「あぁ・・・楓だ。幻ではないんだな?本当に楓なんだな?」
「うん・・・うん・・・いつも待たせてごめんね。今度は本当に遅くなっちゃった。待たせて、ごめんね」
「会いたかった・・・」
「僕も・・・僕もすごく会いたかった!」
ベールにおでこをくっつけ互いに擦り合わせる。
気がつけばロイドも涙を流し、愛おしそうに楓を見つめる。
「ふふっ。ロイドは泣き虫になっちゃったね」
「お前のために流す涙だ。恥ずかしくも何ともない」
楓の笑顔に釣られて、ロイドも微笑む。
(やっと会えた・・・)
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