第9話 会いたい

3年後・・・


「陛下、会議の時間です」

「今いく」

庭園を窓から見つめる1人の男・・・。

短髪のブロンド髪に紺碧の眼、黒をベースにした軍事服に、肩掛けのマントには王を表す飾りがいくつも付いている。

ロイド・ウェイル 21歳。

18歳で信頼できる仲間と謀反を起こし王座奪還に成功した。

元々情に厚く、多方面で才気を発していた為、ロイドを慕うものや支持者が出てきて、それが次第に大きな力となった事が、奪還と鍵となった。

今は前王を始め、前王の支持者やそれに群がる貴族達を一清し、民の暮らしを良くする為に奮闘している。

奴隷制度をやめ、重い税金を大幅に見直し、一清した者達の財産を貧困民に分け与えたり、修繕が必要なところへの費用へと分散した。

まだまだ問題が山積みだが少しずつ民の生活は安定して行った。


夜も更け窓辺に座るロイド。空を見上げポツリと呟く。

「そろそろいくか・・・」

軽装のままテーブルにあるランプを掴むと、足早にドアへ向かい外へ出る。

部屋の前には護衛が居たが、窓の外の月を見上げ、何も言わず深々と頭を下げる。

満月の夜にロイドが1人で出かけていくのは毎度の事だったからだ。

護衛もつけず、ロイドはランプを片手に裏の丘へと向かう。

そして、途中で野花を摘み、あの洞窟へと歩いて行く。

あの別れから満月の夜になると洞窟で楓を待ち続けている。

野花を積むのは、万が一にも行き違いなどがない様に、忘れずに来ているという印の代わりだ。

だが、もう何年もベールの向こうには誰も居ず、印となる物も置かれていない。

(今日もきっと何もないだろう・・・)

諦めにも似たため息が漏れる。

楓は元気にしているだろうか。新しい家族とはうまくいっているのか。

もしかして、また酷い目にあっていてここに来れないのではないか。

それとも・・・約束を忘れてしまったのか・・・不安だけが頭を駆け巡る。

せめて、何か印が欲しい・・・そんな切なる思いが胸を締め付ける。

洞窟に着いて、ベールの向こう側を照らす。

やはり誰もいない・・・

いつもの様に花をベールの側に置き、古いものと取り替える。

ふと地面にいくつもの石が並べられている事に気付く。

明かりを照らして目を凝らすとガルシア語で書かれた「ロイド」の文字。

不恰好ではあるが、確かにロイドの名前がそこにあった。

ロイドの頬に涙が伝い落ちる。

「楓だ・・・楓がここに来たんだな・・・」

ベール越しにその文字をなぞる。

幼い時に、楓がロイドに名前の書き方を教えてくれとねだっていたので、ガルシア語でロイドの名前を教えた事がある。

それを思い出し、何度もベール伝いにその文字をなぞる。

「ありがとう・・・楓、俺はいつまでも待ってる・・・だが・・・会いたくてたまらない・・・」

声にならない程の言葉を投げかけ、その場で嗚咽を漏らす。

(早く・・・早く会いたい・・・)

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