第8話 また会える日まで
(もしかしたら楓は・・・)
そんな不安が頭を駆け巡る。いや、きっと療養中で来られないんだ。そう言い聞かせ、ロイドは今日も丘を登る。
政務に携わる様になって、自分の時間も限られてきた。
これから頻繁に来れなくなるかも知れない。
時間を作りたいが、楓との約束を守るためには必要な事だから楓もわかってくれるはず・・・。
そう思いながら洞窟を潜ると、ロイドの目が大きく見開かれた。
幻か?そう思うには、やけに鮮明に人の形を彩り、その人影がこっちを見てにっこりと笑った。
「ロイド、待たせてごめんね。来てくれて良かった」
久しく聞いていなかった愛しい声が、耳にしっとりと馴染む。
同時に目頭が熱くなり涙が溢れ出す。
ベールに駆け寄り、手を添えて楓を見るめるロイドに、いつもの笑顔で見つめ返す楓。そして、楓もまたベールにそっと手を重ねる。
「また、泣いてる。僕は大丈夫だって言ったでしょ?」
「無事で・・・無事で良かった・・・」
ロイドは嗚咽交じりに声を捻り出す。
「実はね、近所の人がお母さんの叫び声と物音に気付いて、警察に連絡してくれたんだって。それでね、血がついたまま座り込んでるお母さんを見つけて、僕を探しに来てくれたんだ」
「そうか。あの者たちが助けてくれたんだな」
「うん。それでね、病院で治るのに時間かかっちゃった。待たせてごめんね」
「お前が無事ならそれでいい。無事なら・・・・」
「もう、泣かないで・・・。それでね、お母さん捕まっちゃって、僕、施設の人に連れて行かれそうになってたんだけど、お父さんて人が来てね、僕を連れて帰るって言うんだ」
「・・・・・」
「僕はロイドと離れるのが嫌で、ここに残るって言ったんだけど・・・僕は子供だからどうにもならないんだって」
段々と涙声になる楓は、辿々しくそれでも一生懸命に言葉を続ける。
「今日はお別れをいいに来たの。お父さんの家、ここからすっごく遠いんだ。もう来れないと思う」
「そんな・・・やっと会えたのに・・・」
ロイドの言葉に我慢出来なかったのか、楓は大粒の涙をポタポタと流した。
「今日もね、わがまま言って連れてきてもらったの。だから、あまり時間がないんだ」
「楓・・・」
「ロイド、友達になってくれてありがとう。僕、ロイドと出会えて、ロイドと沢山話できて、ロイドが僕を心配してくれて嬉しかったし、幸せだった」
「・・・・」
「いつもロイドの事ばかり考えて、考えると胸がポカポカしたりドキドキしたり・・・あの日もお母さんに蹴られてもロイドが心配しちゃう、どうしようってそればかりで・・・」
「・・・・・」
「刺されて・・・本当は死んじゃうかもって思ったけど、ロイドに会いに行かなくちゃって、僕が行かないとロイドが心配して待ち続けちゃうって・・・でも、本当は最後にロイドに会いたいって思って洞穴で待ってたんだ」
「楓・・・」
「僕、ロイドが好きだよ。大好き」
満面の笑みで、涙を流しながら楓はそう呟く。
そんな楓がロイドはとてつもなく愛おしくて重なる手を摩る。
「楓・・・俺があの日話があるって言ったの覚えているか?」
「うん?そうだ、話って何だったの?」
「楓・・・俺は楓を愛してる」
「え?」
「初めて会った日、楓が笑ってくれてその時からずっと楓が好きだった。男だとわかっても気持ちは変わらないどころか膨らんでいったんだ」
「・・・・」
「それからこのベールの事を調べて、一つだけこの洞窟とベールについての神話を見つけた。お互いの世界の満月の日、月が一番真上に来る時間に数分だけ開くそうだ」
「本当?」
「あぁ。神話だから確実にとは言えんが、試してみたかった。あの日、楓に伝えて楓が俺の気持ちを受け入れてくれたら、満月の夜、迎えに来るからこの世界に来ないかと、俺の側に居てくれないかと言おうと思っていた」
「そんな・・・でも、ロイドは王様になるんでしょ?僕が側にいたらロイドに迷惑かけない?」
「迷惑なもんかっ!お前が側にいてくれたら俺は強くなれる。何よりお前に触れたいし、お前を守りたい。お前が側にいるだけで幸せになれるんだ」
「ロイド・・・僕、ロイドの側に行きたい」
「あぁ・・・楓・・・」
ベール越しに額を擦り合わせ、互いに涙する。
「楓、どこにいるんだ!?」
楓の背後から男の怒鳴り声が響く。その声に楓がビクッと体を振るわす。
「あぁ。お父さんがきちゃった。ロイド・・・ロイド・・・」
体を震わせて泣きじゃくる楓をベール越しに撫でる。
「楓、行かないでくれ。満月なんてすぐ来る」
「ロイド・・・僕はこの世界ではまだまだ子供だ。もうすぐ13だけど、ロイドの世界でも子供だから・・・」
「楓・・・・行くのか?」
「行かなきゃ・・・でも、ロイド、僕がもう少し大人になったらまたここに来るから・・・もし、ロイドの気持ちが変わらなかったら迎えにきてくれる?少しだけ時間かかるかもしれないけど、会いにきてくれる?」
「・・・あぁ。必ず会いに来る」
「うん・・・もし、忘れてしまっても僕の事は気にしないで。ただ、王様に必ずなって幸せでいて。これだけは約束して」
「バカだな・・・忘れるもんか。絶対に忘れない。俺はお前以外は誰も愛さない。楓だけを想ってる。約束は守る。王になって必ず迎えに来る」
「うん・・・じゃあ、少しの間お別れだね」
「楓・・・」
重ね合った手を互いに擦り合わせ、おでこを寄せ合う。そして、ベール越しに約束のキスをした。
(楓・・・ずっと待ってる・・・ずっとお前だけを愛してる・・・)
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