第7話 突然の別れ
朝からソワソワして落ち着かない。
今日は成人の儀式の日。楓に会う日だ。
昨日会わなかっただけで、すごく恋しくてたまらない。
これは、儀式で緊張しているのではなく、楓に会って伝えなくてはならない事があるから落ち着かないのだ。
儀式が終わったら、先に行って待っていよう。いや、もしかしたら楓が先に待っててくれてるかもしれない。
胸の高鳴りを止められないまま、儀式の準備を整えて城内の広場へ向かうロイド。
(早く、早く終われ・・・)
儀式が終わると同時に広場を飛び出し、その足で裏の丘を登る。
早る気持ちが足を忙しく動かせる。
そして、洞窟を見つけ慎重な面持ちで、入り口に入ると人影が見えた。
「楓!来てたのか!」
そう呼びかけた瞬間、ロイドの顔が一瞬で青ざめる。
ぐったりとした楓の顔は血の気がなく、地面の赤さと一緒に楓の服が赤色に染まっていたからだ。
「楓!どうした?楓!」
呼びかけにも応じない楓の姿に、身体がガタガタと震えだす。
ベールをドンドンと叩きつけながら、必死に楓を呼ぶ。
「楓!お願いだ!目を覚ましてくれ!」
何度も呼び掛けてる間も体の震えが止まらず、涙が溢れてきた。
「楓!」
「・・・ロイド?」
か細い楓の声に、ロイドは呼びかける続ける。
「楓!何があった!?その怪我はどうした!?」
「ちょっと・・・・お母さんを怒らせちゃった。心配かけてごめんね。僕は大丈夫だよ」
「大丈夫なもんか!血が・・・血が沢山出てる・・・・」
涙で楓の姿が滲む。それでも、決して楓から目を離さないとばかりに何度も袖で涙を拭いながら声を掛け続ける。
「医者は近くにいないのか?誰か助けは来ないのか?」
「わからない・・・ロイドに会いたくて・・・会いたくなって黙って家を出てきちゃった。あぁ・・やっぱり泣かせちゃったね。ロイド・・・僕は大丈夫だよ。泣かないで」
か細い声を一生懸命に捻り出し、ニコッと楓が笑う。
目の前に愛する人が怪我をしているのに、助けてやる事ができない悔しさが、ロイドの握り締めた拳に指を食い込ませる。
ズリズリと身体を引きずり、ベールにもたれる様に楓が近寄る。そして、ベールに手を添えてまたニコッと笑う。
「ロイド、おめでとう。やっぱりかっこいいね。ロイドはきっと立派な王になれるよ。僕は信じてる。嫌な王様なんてやっつけちゃえ」
「ああ・・約束する。俺は必ず王になる。だから、楓も諦めるな!きっと助けが来る!」
楓の手にそっと合わせて、目を見つめる。
「もう泣かないで。かっこいいのが台無しだ。ねぇ、ロイド・・・僕、少し疲れたから、迷惑じゃなければ僕が寝るまで側にいてくれる?」
「あぁ・・・ずっと側にいる」
「パーティに遅れたらごめんね。ありがとう・・・」
「あんなもの出なくていい。ずっと楓の側にいる」
「うん・・・ロイドはいつも優しいね・・・」
ロイドを心配させない様に楓は笑顔でい続ける。そして、そっと目を閉じた。
「うぅ・・誰か、誰か楓を助けてくれ!」
嗚咽混じりにロイドは叫び続けた。
しばらくするとガヤガヤと声が聞こえ、ロイドはここだと叫ぶ。
「おい!ここに居たぞ!」
数人の大人が楓に駆け寄る。
「おい!楓は大丈夫なのか!?助かるのか!?」
ロイドの叫び声どころか姿も見えていない様子で、男達は楓を取り囲む。
そして、楓を抱きかかえると足早に去っていく。
「おい!何で聞こえないんだ!楓!楓は無事なのか?」
バタバタと遠ざかって行く足音を聴きながら、その場にうずくまり嗚咽を漏らしロイドは泣き続けた。
(頼む!誰でもいい。楓を助けてくれ。楓・・楓・・・)
静まり返った洞窟の中で、ロイドの嗚咽だけが響いた・・・。
あれから、1ヶ月。
毎日ロイドは洞窟に足を運ぶが、そこに楓の姿はなかった。
あの地面についた血溜まりもいつの間にか色褪せていた。
ロイドは楓が無事でいる事を洞窟で祈り、しばらく経ってから帰路する日々が続いた。
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