第5話 深め合う絆

楓が泣き止み落ち着くまで側にいた後、帰る時間が来て後ろ髪を引かれる様にロイドは城に戻った。

(楓は無事に家に着いただろうか。また母に見つかって打たれていないだろうか)

部屋でくつろいでいても、頭の中は楓の事でいっぱいだ。

とてもじゃないが落ち着かない。

触れれない悔しさがずっと胸の奥でズキズキと痛む。

(それにしても楓が男だったとは・・・)

楓が泣き止んだ頃、少し冗談混じりに

「女の子が嫁入り前に傷を作っては貰い手がないな。俺が嫁にしてやるか?」

と言ったら楓がキョトンとした顔で見つめた後、クスクスと笑った。

「ロイド、僕、男の子だよ。ずっと「僕」て自分の事言ってるのに、気付かなかったの?」

「楓は男なのか!?」

ロイドの驚き様に楓は声を出して笑う。

「そうだよ。男の子だよ。だからお嫁さんは無理だね。でも、一番の友達にしてくれる?」

やっと笑った顔に安堵しながらも、「友達」という言葉に何故か少し胸がいたんだが、もちろんだと応えた。

何故、あの時胸が痛んだのだろうか・・・。

いや、答えは知ってるではないか。

楓が男だった事に落胆はしたが、楓を可愛いと思う気持ちは変わらなかった。

声をあげて泣く姿を見て抱き締めたい、愛おしいと強く思ったではないか。

あぁ、俺は楓の言う「一番の友達」では嫌なのだ。

思えば初めてあの笑顔を見た時から愛くるしいと感じていた。

男と分かってもそれは変らない。

触れる事ができないこちらの世界と楓の世界。どうしたらいいのだ・・・。

たとえ想いが通じ合えても相容れない現実がロイドを苦しめる。

そして、先が見えないまま時は過ぎていった。



「楓、すまない。だいぶ遅れてしまった」

いつもの様に洞窟を覗くと、満面の笑みでロイドを迎える楓がいた。

あれから2年の時が過ぎたが、相変らずベールに狭間れたまま逢瀬を続けていた。

「僕も今来たところだから大丈夫だよ!」

変らず愛くるしい笑顔で寄ってくる楓は、ロイドにとって心からの癒しになっていた。

「ロイドはいいなぁ。すっかり大きくなって洞窟もそろそろ狭いんじゃない?」

楓の言うように、ロイドはこの2年でグンと背も伸び、日々の鍛錬のせいか身体付きも更に逞しくなった。

心から羨ましがる楓が可愛くてつい目尻が下がる。

「楓はなかなか伸びないな?相変らず細いし・・・食事はちゃんと取っているのか?」

「うん。この頃はお母さん、出かける事が多くてたまにだけどお金置いててくれるから、それで何とか食べていけてる」

「そうか・・・」

傷を作ってくる頻度が減っているのはそのせいか・・・。だが、相変らず細すぎる。食べているというが、毎日きちんとした食事ではないだろうな・・・。

そんな考えがすぐに浮かぶくらい楓の体は小さかった。

楓の国の人は小柄が多いと聞くが、とても4歳下とは思えない体つきだ。

何もできない自分が歯痒い。

「ロイドの国では16歳が成人だっけ?」

「ああ。2日後には成人の儀式がある。やっと国事にも携わる事ができる」

「ロイドの夢が一歩近づくんだね。あぁ、間近で見たいなぁ。ロイドの成人の儀式。きっとカッコイイんだろうなぁ」

洞穴の天井を見上げ、何かを妄想しながらふふっと笑う楓を見ながら、意を決意したようにロイドが口を開く。

「楓、成人の儀式が終わって、夜は晩餐があるんだがいつものこの時間に抜けてくるから、楓も来てくれないか?」

「え?いいの?ロイド、大事な日なんでしょ?」

「話があるんだ。来てくれるか?」

「もちろんだよ!じゃあ、ロイドのカッコイイ姿が見れるんだよね!?楽しみにしてる!」

楓の返事に安堵して、明日は準備があるから来れない事を伝えてその日は別れた。

成人の儀式が無事に終わったら、楓に想いを伝えよう。そしてこのベールについても・・・。

自分の気持ちを自覚してから、ずっとベールの事を調べていた。

半信半疑だが、一つだけ神話の様な記述を見つけた。

その記述が本当なら触れ合う事ができる。

楓が想いを受け止めてくれるなら、触れ合う事ができるのならここの世界に来て欲しい、側にいて欲しいと伝えよう。

楓が来てくれるのなら、生涯楓だけを想い、命に変えても守り抜く。

あと二日・・・

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