第4話 深め合う絆
「はぁ、はぁ」
ガタガタとランドセルを鳴らしながら、小脇に本を抱え帰路を急ぐ楓。
「帰るのが遅くなっちゃった。急がなきゃ・・・ロイドが待ってるかもしれない」
あれから一週間経ったが、ロイドは毎日の様に会いに来てくれていた。
日によっては一時間くらいしか会えない時もあるが、それでも楓の為に時間を作ってくれて会いに来てくれている事が、楓にとっては嬉しかった。
「ただいま」
小さな声で玄関を開ける。おそらく居間でお酒を飲んでいるであろう母に見つからない様に、そっと家に入り、素早く部屋にランドセルを置く。
そして、机にある懐中電灯と本を持って家を出る。
初めてロイドに会って帰宅した夜、昔、祖母が懐中電灯を持って夜道を歩いていたのを思い出し、祖母の部屋だった場所の戸棚から探し出したものだ。
少し古びてはいたが、家にあった電池を入れ替えると難なく付いたので洞穴に行く時は持って行く様にしている。
ロイドに会えるとは言えど、洞穴の奥は暗い。
それにロイドを待つ間、これがあれば本でも読んで待って居られる。
洞穴に着いてすぐに灯りを灯し、息を整える。
ゆっくりと洞穴のに進むと灯りが見え始め、走ってきたドキドキとまた違うドキドキが胸を鳴らす。
「楓!遅かったな」
その声に一際ドクンと胸が鳴る。
声の持ち主が手を振ると、楓も小さく手を振り返した。
「ごめんね。学校から帰るのが遅くなっちゃった。」
「・・・・楓」
楓を見たロイドの顔が引き攣り、楓に近寄りそっとベールに手を添える。
「顔、どうした?目の下が青くなってる」
ロイドに言われ、思い出した様に慌てて俯く。
「大丈夫だよ。昨日、帰ったらお母さんに見つかって、ちょっと怒られただけ。僕が悪いの。家の掃除サボったから」
ロイドに心配かけないように、精一杯明るい声で答える。
無言が少し続いたのが気になって、そっとロイドを見ると辛そうな顔で楓を見つめていた。
「本当に大丈夫だよ!全然痛くないし、平気!」
「痛くない訳ないだろ!たとえ身体が痛みを忘れても心はずっと痛いまんまだ」
ロイドの言葉に目頭が熱くなるのを必死に我慢する。そして、ニコッと笑う。
「ロイド、心配してくれてありがとう。でも、本当に僕は大丈夫だよ。お母さんは・・・心の病気なんだ。でも、きっとその内よくなるから」
「・・・父親はいないのか?」
「・・・うん。僕ができたから、お母さんも一緒に捨てられたんだって。だから、お母さんは悲しくて病気になっちゃったんだ」
「・・・・・」
「何か暗い話になちゃったね。ロイド!今日はね、王子様が英雄になったお話を持ってきたよ」
「無理して笑うな・・・泣きたいなら泣け」
「え?」
うまく笑えてなかったのか、ロイドが苦しそうに呟いた。
「もどかしい。目の前にいるのに、抱きしめてやりたいのに触れられない」
その言葉に楓の頬に熱い物が伝った。楓はそれに触れ、自分が泣いてる事を知ると、堰を切ったように声を漏らし泣き始めた。
誰もそんな事を言ってくれなかった。
祖母も庇いはしたものの、厄介者を見るように抱きしめてはくれなかった。
周りの大人も怪我を見て憐れむが、遠巻きに見るだけで声すらかけてくれない。
クラスメイトはよれよれの服を着てる楓をよくからかっていた。1人が寂しかった。そして、抱きしめてやりたいと触れれない事を悔しがるロイドの姿が嬉しかった。
この世界では誰にも愛されないけど、知り合ったばかりなのにロイドは楓を心配してくれて想ってくれてる・・・。
それが、心底嬉しかった・・・。
ロイドがベールに添えた手に、楓も手を重ねる。
楓は長い時間泣き続けたが、ロイドは何も言わずにずっと側にいてくれた。
僕、1人じゃないよね?ロイド・・・
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