第3話 出会い
(くそっ!何が万物の王だ!民を苦しめて、貴族や皇族が潤ってどうする!?民あっての国ではないのか!?)
ズンズンと足を踏み鳴らしながら、丘を登って行く。はらわたが煮えくるのを必死に抑え込みがら、足早に進む。
城の裏手の丘の上には岩場があり、そこを登れば小さな洞窟がある。ロイドは気分を落ち着けたい時や1人になりたい時にここへ来るのが習慣になっていた。
ここはガルシア国———
いくつかの国を治める大きな国で、ロイドはガルシア国の第三王子だ。
父はガルシア国の王で、幾つもの戦争で勝利を勝ち取った英雄と言われているが、暴君でも有名で、何かと戦争を起こしては残虐な殺戮や、敗戦国の老若男女問わずに奴隷化したり、数多は妾として後宮に住まわせている。
戦争の費用や妾の囲い費、贅沢三昧の国費はもちろん国民の高額税だ。それに群がる貴族どもが余計にタチが悪い。
この国のやり方は間違っていると思ってはいるものの、ロイドはまだ14歳と成人すら迎えていない子供で、自分に力がない事が1番腹ただしい。
学問も武術も他の王子たちより群を抜いているが所詮まだ子供。何もできない。
(早く成人を迎えて、国王の座を奪い取ってやりたい。)
街が一望出来る洞窟の入り口で腰を下ろし、ぼんやりと眺める。
そして壁に背もたれながら目を閉じ、ふと幼い頃、母が歌ってくれた歌を思い出し、口ずさむ。
王に嫁ぎ、第二王妃であるにも関わらず冷遇を受け、元々体が弱かったのにロイドを出産してからは床に伏せている日が多かった。
だが、どんなに辛くてもロイドとの時間を慈しんでくれた。
そんな母もロイドが8歳のときに他界したが、その暖かさは胸に刻まれている。
この歌は母を鮮明に思い出させてくれる。
思いに馳せながら歌っていると、奥からガサっと物音がした。
「誰だ!?」
体に緊張が走る。目を凝らすと小柄な子供が近寄ってくる。
「僕は青木楓。君は?」
そっと近付いてくる楓に不信感を持ちながら、耳を傾ける。
肩まで伸びた黒髪によれよれの服。
庶民がここに隠れ住んでいたのか?日本?そんな国は聞いた事がない。何者なのだ?それに、この見えないベールはなんだ?
頭の中を色んな思考が巡る。
「ねぇ、まだここに居る?僕まだ帰れないんだ。少しだけお話しない?」
ほとんど空返事を返していたロイドだが、その言葉にハッとする。
よく見れば、頬が赤く腫れ、見える手足に痣や傷がある。
口元は切れたのか血が滲み、服も汚れている。これは転んだ傷ではない・・・。
痛々しい姿に心が落ち着かず、子供の提案に自然と返事を返すと満面の笑みが返ってきた。
(なんて・・・愛らしい笑顔なんだ・・・)
ロイドはその笑顔に息を飲む。
痛ましい姿なのに、キラキラと輝く大きな黒目。小さな鼻に薄く小さな口、そして屈託のない笑顔・・・・一瞬にしてロイドの心を惹きつける。
鳴り止まない動悸を隠すように側に座り、楓の話に耳を傾け返答する。
目をキラキラさせて時折笑顔を見せる楓が、じんわりと胸のわだかまりを溶かしていく感覚が心地良かった。
「ロイドはここによく来るの?僕は毎日いるんだ。いつもは入り口の近くにいて奥まで来たのは初めて!暗いから怖かったけど、来て良かった」
心から喜んでいる姿にロイドも自然と笑顔になる。
「俺はたまにしか来ない。城はすぐ近くだが、時間があまり取れないんだ」
「城?ロイドはお城に住んでるの?」
「ああ。俺はこの国の王子だ」
「王子!?わぁ・・・だからカッコイイんだ!綺麗でカッコイイ!」
楓の言葉に耳が熱くなり、咄嗟に腕で顔を隠す。
(なんでそんなに俺の目を真っ直ぐに見つめて、恥ずかしい事を言うんだ。)
必死に顔を隠しながら楓を見ると、寂しそうな暗い顔で俯いていた。
「ロイド、王子様ならもう会えない?」
「たまに来るって言っただろう?」
「じゃ、じゃあ、僕、毎日ここにいるから、時間ができて気が向いたら会ってくれる?」
今にも泣きそうな顔で見つめる顔が愛しくて、笑顔で答える。
「もちろんだ。毎日は約束できないと思うが、必ず会いにくる」
「うん、うん!ありがとう!嬉しい」
楓の笑顔に、ロイドは頭を撫でてやりたい衝動に駆られるが、互いに触れる事ができない。もどかしさが胸を締めつける。
(出来るだけ時間を作って、毎日楓に会いに行こう)
そう決意してその日は別れる。また、明日会える・・・
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