第2話 出会い
「何度言ったらわかるの!」
ガラスが割れる音と共に床に子供が倒れ込む。
「ごめんなさい。お母さん」
濡れた床で小さくうずくまり必死に許しを乞うが、母の怒りは治らず、体を足蹴りしながら声を荒げた。
「あなたの顔も見たくないの!私に近寄らないでって言ってるでしょ!」
「ごめんなさい。お花が綺麗だったから、お母さんに見せたくて」
「いらないわ、こんな物!出ていって!」
ドアを指差しながら、すごい形相で睨む母に小さく返事をしゆっくりと体を持ち上げる。ドアを出る頃にはとめどなく涙が溢れては流れる。
足早に家を出ると、その足で裏の林に駆け込む。避難場所へ向かう為だ。
ただ、一つ。家族から愛されていない事だけが他と違った。母はいわゆる愛人だった。楓ができた事で疎まれ捨てられた。
思わぬ形で楓を身籠った事、あっさりと捨てた憎い父親に面影が似ている事で楓を疎ましく思う母親と、目の届かぬ様にと与えられた元の家を追い出され、今は母の実家である田舎の民家に住んでいる。
心を病んだ母はお酒を飲んでは楓に強く当たり、それでも祖母が生きていた頃は庇ってもらえたが、その祖母も2年前に他界した。
生活はよりいっそう荒れ、母の当たりも日増しに強くなっていった。
そんな楓の避難場所はいつも家の裏手にある雑林林で、そこをあてもなく時間を潰すように歩いている内に、小さな洞穴を見つけたのだ。
そこは誰も知らない楓だけの場所。そこで、母が酔い潰れて寝るまで時間をつぶすのが日課だ。
「今日もお母さんが寝た頃に帰ろうかな・・」
小さな声でぼやきながら膝を抱えていると、洞穴の中からボソボソと歌の様な声が聞こえた。
洞穴の奥が深いのは知っていたが、薄暗い中を進んでいく勇気がなく、いつも明かりが差すぎりぎりの所に座っていた。
内心ドキドキしながらも、歌声があまりにも心地よく、誘われるように足が進む。
奥にいくにつれて屈んで進む程の高さだった洞穴が縦に広がって、余裕で立って歩ける位になっていた。そして、声がはっきりと聞こえるくらいまで進んだ瞬間、目の前が明るくなり楓の目が大きく見開けられる。
目の前には、見た事ない景色と見たことのない服を着た綺麗な少年が座っていたのだ。
「誰だ!?」
楓に気付いたのか歌うのをやめた少年が、鋭い目でこちらを睨む。一瞬体が怯んだが、そっと近づく楓。
「僕は青木楓。君は?どうしてここに居るの?」
「・・・」
「そっちに行ってもいい?」
様子を伺いながら、少しずつ足をすすめる。綺麗な少年は少し後退りしながらもじっと楓を睨み目を離さない。
顔がはっきりと確認取れるほど進むと、その場に座り込み、そっと手を差し伸べる。
ーーコツン
何かにあたった感触に気付き、両手で感触を確かめる。
「あれ?なんだろう・・・何か壁のような物があってそっちに行けない」
その言葉に少年も近寄ってきて、見えない壁の感触を確かめる。お互い不思議そうに一通り感触を確かめると、顔を見合わせた。
「綺麗な目・・・顔もやっぱり綺麗だ」
目の前の少年は、子供なのにすでに整った顔つき、キラキラと輝くブロンドの長い髪を後ろで1つに束ね、深い青い瞳を持っていた。
体つきも子供と思えないほど逞しく、やはり見慣れない服装で楓をじっと見ていた。
「君は海外の子?そこはどこなの?この見えない壁は何?」
「・・・ここはガルシア国だ。名はロイド。ロイド・ウェイル。お前は何者だ?」
「ガルシア?聞いたことない国だ。僕は楓。ここは日本だよ」
「日本・・・?」
「わぁ・・・本当に不思議な事ばかりだ。ねぇ、ロイドって呼んでいい?ここにはよく来るの?僕は毎日来るけど、いつもは入口の近くに居るんだ。奥に来たのは初めてだよ。」
「・・・ここにはたまにしか来ない」
「そっか・・・ねぇ、ロイド。まだここに居る?僕、まだ帰れないんだ。良かったら、少しだけお話したいな」
「・・・ああ」
「本当!?嬉しい」
ロイドの返事に満面の笑みを浮かべ、楓は話し始めた。
楓に警戒心を持っていたロイドも次第に打ち解け、時折笑顔を見せながらお互いの国の話や好きな物などで会話に膨らませていた。
そして、お互に心がポカポカする不思議な感覚を感じていた。
本当に不思議なことばかりだ・・・
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