ベールの向こう側

颯風 こゆき

第1話プロローグ

「ぐすん・・・」

カサカサと葉を踏む小さな足音と、嗚咽混じりの泣き声が静まり返った林に響く。

小さな足音の持ち主は、慣れた足どりで小さな洞穴に辿り着き、膝を抱え込み座った。

辺りはまだ日も高く眩しい位の日差しが差すが、この洞穴は薄暗く、鳥の囀りしか聞こえない林をより一層静かにさせる。


「今日も機嫌悪かったな・・・。ご飯、また食べれないな・・・」

グゥと小さくなるお腹をさすりながら、ため息をこぼす。

もう3日もまともに食べていない。

ボサボサの髪は肩につく程伸び、よれて小さくなった服は埃と血で汚れていた。

10歳という歳の割には小柄で、女の子の様な愛くるしい顔には赤みを帯びた手あとがくっきり残っていた。

打たれた際に切ったのか、口の端は切れ、うっすらと血が滲んでいる。

洞穴に着いて安心したのか、涙もいつしか止まり、気持ちも穏やかになった。

(やっぱりここは落ち着くな・・・。偶然だけど見つけられて良かった)

抱え込んだ膝の上に、ちょこんと顎を乗せ、洞穴の中から静かな林を見つめる。

(どうして僕は誰からも愛されないんだろう・・・僕はこのままずっと1人なのかな・・・)

胸の中でそう呟くと、また目の奥が熱くなり、そっと膝に顔を埋めた・・・。

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