オマケアフターその3 ある日の日常(前編)
現在は華恋、エリカと同居をしているわけだが……うん、もう居候だとかお手伝いとかは抜きにして同居だってことは完全に認めるわけだが。
俺たちは今のところ別に恋人同士とかではない。
まぁ、色々な意味で今更何を言ってるんだと自分自身思わなくもないでもないのだけれど。それでもその辺りは一応重要な一線だろうな、と思っているのも事実で。
何しろ俺たちは三人なのだ。
つまり女子二人と一緒に暮らしていて――どっちが好きだとか、どっちかとどうなりたいとか、俺ははっきりと選択したことがない。
それどころか、俺が彼女らをどう想っていて、どうなっていきたいのかをはっきり伝えたこともない。
これは、もしもの時に困ったことになるのではなかろうか、と思うのだ。
例えば。もしもどっちかとヤッちゃったらどうすんだよこれ? 案件である。
俺とて家庭環境や親との関係に問題があった子供だ。
関係が曖昧な相手と迂闊に子供ができてしまうような行為をする気にはなれないし、するつもりは全くなかった。
――が、あの姉妹とずっと一緒となると我慢するにも正直いって限界がある。
だからこそ『普通の恋人』のようなノリを堂々とするわけにはいかない。
だからこそ俺達の関係には他人とも家族とも違う特殊な一線が引かれていて、絶妙な距離感がそこには横たわっている。
と、俺的には思っていたんだけれども……。
「ねぇねぇ誠おにーさん、ベッド借りていい? っていうか借りるね? こういうクラフト系のゲームは寝そべりながらやりたくってさー」
「あ、じゃあ私もベッドに座っていいですか? ちょっとこのゲーミングチェア? っていう椅子はまだ座り慣れなくて、疲れてしまったので」
「じゃあおねーちゃんのふともも枕にする~。へへ~、頭幸せ~」
「ちょっ、エリカ。もうっ」
俺が勝手に思っているだけで、こいつらは距離感とか全くもって気にしてない可能性、実はあったりしないだろうか?
「誠おにーさんもおねーちゃん枕つかう? 片方のふともも譲るよ?」
「人のふとももを勝手に譲らないでください」
「え? でも前に温泉であたしがおにーさんに膝枕したっていうの羨ましがってなかっ、ッム~!?」
「よ、余計なこと言わないのっ」
だって距離感とか一線とか意識してたら、男子の部屋に二人して長時間上がり込んでゲームとかしないと思うんだよなぁ多分。
挙句、ベッドに二人して乗ってくるとか…………近いよ! 距離感が! っていうか密着感だよこれはもう!
この部屋に椅子は二つしかないからと折角ゲーミングチェアを譲って俺がベッドに座っていたのに、何故二人してこっちにくるのか!?
やっぱ俺って男としてまったく意識されていないのでは? と一瞬考えるが、流石にそれはないだろう。現状にいたるまでの諸々で一応それは理解している。
でもだとしたら一体どういうつもりで? というか、どういう関係性を想定してこの距離感なのか? さっぱり分からん。
「あ~……俺ちょっと飲み物とか取ってくるわ」
「う~ぃ。じゃ、おにーさんのキャラは安全な場所に移動しておくねー」
「私はとにかく素材集めの為に地下を掘り進めてますので」
頭を一旦冷やすために、寧ろ一旦逃亡する為にベッドから腰を上げて自室から出た。
現在、休日なので昼間っからゲームをしてたりするわけなのだが、珍しく華恋もがっつり参加している。
事の経緯はエリカが『おねーちゃんもクラフト系ゲームならハマると思うんだよね! だからさ、最初は誠おにーさんとあたしでサポートしつつやってみない?』と言い出したことだ。
華恋は真面目ゆえに仕事しすぎ状態になりがちなので、息抜きにゲームを楽しめるようになるならいいだろうと俺も思ったわけだが。
しかし、俺の部屋にここまで二人が長時間居座ることになるとは……。
確かに自室にはモニターが二台あるし、しゃーないっちゃしゃーないんだけれども。
長い時間密室にいるせいで二人のパーソナルスペース的な意識が徐々に潰れていっている気がする。
「う~ん、最初は全員普通に座ってプレイしてたんだけどなぁ」
クラフト系ゲームって素材を集めたりなどいわゆる『作業ゲー』状態になることが多いから、段々と姿勢も楽なものになっていきがちだ。
エリカは最初は床に座っていたのだけれど速攻で足を崩して、今は寝そべりゲーム状態に突入した。
あの華恋ですらベッドに足を崩して座ってる状態だ。
――そうなってくるといちいち服がめくれたりとか、部屋着でラフな格好してるから胸のあたりがチラチラ見えたりとか、精神力に継続ダメージが入るんだよなぁ。
大体、そのベッドで夜寝ることになる俺の気持ちも一応考えてほしいものである。
別に何があるわけじゃないが、何かしら意識してしまうのはもうどうしようもない。
「ったく。危機感がないんだかワザとやってんだか」
華恋とエリカの場合、本気で距離感とか一線とか全く気にしていない可能性もある。
俺が想定している『どっちかに手をだしちゃったら?』みたいな懸念すらも『じゃあ、どっちも?』とか言い出しかねない怖さがあった。
普通に考えたら頭おかしいだろと思うが、あの二人は普通じゃないので普通に考えるだけ無駄だ。
んで、もしもそんなことを言われた日には、俺の精神が崩壊するかもしれない。
色々な意味で。
この歳であんまり生々しいことを考えたくはないが、将来に渡って大きな影響を及ぼすであろう行為に関してはしっかり危機管理が必要だと思うのだ。
「つーか、普通そういうの警戒するのって立場逆じゃないのか……?」
一緒に暮らすようになってしばらく経つが、やっぱりあの姉妹の考えてることは俺には読み切れないんだよなぁ。
あ、だから賭け勝負にも負けたんだった。
冷蔵庫からジュースを取ってから部屋に戻ってきてドアを開ける、と。
「あ、おかえり~誠お兄さん」
「おかえりなさい、誠一郎君」
「お、おぅ」
うおぉ……なんつーか、なんだろう、この香り。
一旦部屋を出たことで気が付いたけど、俺の部屋に女子特有の香りが充満してる気がする。
多分、女子更衣室とかこんな感じになるんだろうなぁ。
くそぅ、気が付くと意識してしまうじゃねーか。
「どしたの? おにーさん」
「座らないんですか?」
そして、ベッドの上でやたらとくっついている少女が二人。
姉に抱きつくようにしてエリカがじゃれついている。
「エリカは一体何をしてんだ……?」
「え? あ~。ゲーム疲れたからちょっと休憩してた、的な?」
「さっきから抱きつかれたり胸を揉まれたりで鬱陶しいんですよ」
え、なにそれ見たかった。
じゃなくて。
「だって~、疲れたらおっぱい揉むものだって聞いたことあるし。固いゲームパッドばっかり持ってたら手が疲れちゃうし? 柔っこいモノ揉みたくなるじゃん」
「私の体が過剰に柔らかいみたいに言うのやめてください」
「大丈夫大丈夫、ウエストはきゅっとしてるから。ほらほら。うへへ……」
「だから抱きつくのはやめ、ちょっと、腰を抱かないのっ」
つまりあれか、エリカのやつ、ゲームに飽きてきて手持ち無沙汰になったもんだから姉の体をもてあそんで暇つぶしてたのか。
なんというけしからん休憩方法だ。
でも正直大変目の保養にはなる。むしろなりすぎて困るまである。
「ほら、おにーさんもこっち座って座って!」
ぽんぽん! とエリカがベッドを叩く。
冗談だろ? 今こうして姉妹がじゃれついているのを目の当たりにした上でまたそこに突入しろってか?
(じゃれついているのは主にエリカであって、華恋は一切目を逸らさずにゲームしているけれども)
「いやゲーミングチェア空いたんだったら俺はそっちに座るから」
「だめ~。おねーちゃん枕の次はおにーさん枕がいいの! おねーちゃんのふとももを撫でながらおにーさん膝枕に頭おきたいの!」
「駄々っ子にしても要求が意味不明すぎるぞお前」
華恋のふとももを撫でるのはなんなら俺もやってみたいけど、俺のふとももを枕にするのは別に全然嬉しくないだろうどう考えても。
「あれー? おにーさん忘れちゃったのかなぁ? あたし、温泉で誠おにーさんに膝枕してあげたのになぁ? お返しにしてくれてもいいのになぁ~?」
ぬ……それを言われるとちょっと弱いところではある。
確かに、あの時ぶっ倒れていた俺をエリカが介抱してくれたのは事実なのだ。
別に大したことを要求されているわけでもないのだし、ここまで言われたら膝枕くらいはやってやったらいいじゃないかと思わないでもない。
「はぁ。ったく、分かったよ」
「やった。ふふふっ、これでこのベッドの上はあたしのおにーさんおねーちゃんパラダイス……!」
「何言ってんだお前……」
休日にずっとダラダラしているせいでエリカの脳みそも良い感じに緩んでいるのかもしれないが、死ぬほど頭悪いこと言ってる気がする。気がするっていうか言ってる。
エリカの脳の具合を心配しつつも、壁を背にするようにしてベッドに再び腰掛けた。
すぐ隣には華恋が座っていて、エリカは本当に俺のふとももに頭を置いてくる。
なんかデカイ猫がじゃれついてきているような気分だ。
「うんうん。ちょっと硬いけど、これはこれでしっかり頭を支えてくれてる感じがしてよいですなぁ」
「エリカ、誠一郎君の足が痺れる前にどくんですよ?」
「は~い」
そこは気をつかってくれるんかい。
もっと他につかうところあるだろうと思うのだが。
しかしまぁ俺だって伊達に今までこの姉妹と生活を共にしてきた訳じゃない。
この程度の身体的接触、どうとでも我慢できるはず――!
と、いうことで無心でゲームをしていようと思ったのだが。
「ムィ?」
唇にナニカが当たる感触。次いで甘い匂い。
棒状のチョコをエリカが下から差し出してきた。
「ふふ~。あたし、おにーさんにお菓子食べさせてあげる係ね。これなら両手塞がったまま食べられるよ?」
あ、ダメだこれ。絶対集中できないわ。
眼下にいるエリカのどや顔がやたら可愛くて無理。
ずっとゴロゴロしているせいで髪の毛がちょっと乱れ気味なところすら魅力的に見えてしまうのがこいつのズルイところである。
「お前なぁ、むぐ」
菓子をモグモグしつつ、ゲームパッドを諦めてベッドに置く。
「あれ? ゲームしないの? じゃあ頭とか撫でてほしいなぁ?」
「撫でてって、お前それはやりたい放題すぎじゃ――」
空いた手をすかさずエリカに確保されて、有無を言わせず彼女の頭に誘導される。
艶やかな髪の毛の感触に、つい思わず本当に撫で始めてしまった。
くっ……これは、何故か撫でているだけで妙に幸福感がありやがる。
なんか撫でさせられて幸せ感じているのは敗北感も同時にくるなぁ。
「あふぃ~、この空間快適すぎ~。頭溶けちゃうなぁコレ」
これは、ほんまにデカイ猫だな。
猫を撫でていたら幸福感ありそうなので、そういうことなのかもしれない。
ただ、猫と違って可愛いだけじゃなくてこう、妙に色っぽい雰囲気纏っているからマジで困る。
っていうか、こんなことやってるのにすぐ隣の華恋はよく何の反応もしないな?
と思って横を見てみると、まったく微動だにしないままにゲームに集中し続けている姉の姿があった。
こっちは妹とは逆ですんごい肩凝りそうなプレイしてやがる。
流石に後で疲れが出そうだなこのままじゃ。
「あ~――あれだ、休憩! これ以上エリカの脳が溶ける前に休憩しよう。華恋も一旦休憩しろ。んで、ついでにリビングにモニターごと移動しよう。俺の部屋でこれ以上ゲームやるのはなんか色々危険な気がする」
主に俺の理性がな。
それに、ベッドでこれ以上この姉妹に色々されるとマジで夜寝られなくなりそうだし。
「え~? このベッドは今あたしのユートピアなのにぃっ」
いかん、既にエリカの脳が相当ヤバそうだ。
「いいから頭どけろっての。夕飯の準備だってあるだろ?」
「あ、それはそだね。今日はシチュー作るから早めに煮込まないとだった」
飯の話題になったらスパッと起き上がるエリカ。
同時に、華恋もやっとゲームパッドを置いた。
「確かにリビングに移動した方がいいかもしれませんね。採掘に夜までかかってしまいそうですし、誠一郎君が寝る時に邪魔になってはいけませんから」
……あ、あれ? 華恋さん? 思った以上にこのゲームにハマっちゃってませんか?
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