オマケアフターその2 人気者のエリカちゃん

 ※主人公(加々美)視点ではありません。


 ※高校生になったエリカを第三者視点で見たお話しです。


 ********************



 高校に入学してちょっと経って。

 ようやく、クラスメートがしている周りの会話に耳を傾ける余裕もでてきた今日この頃。


「バイトー? 読モとかなればいいじゃん。エリカなら絶対なれるって!」

「いや~、読者モデルってあんまお金稼げないっていうしさぁ。ぽんぽん服とか買うお金もないしねー。あたし、清貧系美少女だから」

「自分で美少女とか……ってあんた実際文句なしに美少女だからなぁ。じゃあマジモンのモデル目指したらいいじゃん」

「いやぁ、それもどうだろうな~」


 主に女子の会話に、だけど。

 オレ、別に男子の会話とかそんな興味ないし。


 神代さんね。分かる分かる。確かに美少女だわ。

 入学してクラスで初めて見たとき『うわぁ、高校生にもなるとこういう女子もいるんだ』って思っちゃったしなー。


 まるで神代さんの周りだけ空気違うようにすら見えたくらい。 

 何者も寄せ付けないようなオーラっていうかさ。

 

 ところが喋りはじめたらそんなオーラは弾けとび、ケラケラ笑ったりもする接しやすい女子だったってことで、今じゃ男女問わずクラスの人気者だ。


 あんだけ美人で愛想良くて明るくて可愛いければ当然かな。チートだ、チート。

 どーせ彼氏とかもすげぇイケメンなのがいるんだろうなぁ……はぁ。


「おい。聞いてんのか?」

「んぁ? ごめん、聞いてねーっす」


 前の席から話しかけていたらしいが、まったく聞いてなかった。

 しゃーない。だって神代さんの会話の方が耳に入る時の重要度高いのはね、しゃーないんだわ。


「お前なぁ……あー、神代か。あんなの気にしても無意味だぞ。どう考えてもレベだって。放っておいて現実見ろ。じゃないと高校でも彼女できないぞ」

「そんなこと言われなくても知ってるし! お前だって彼女いないじゃん!?」

「え? いるよ? この前できた」

「まじぃ!? じゃあ彼女経由で女子紹介してもろて」

「やだよ」


 がっでむ!

 なんだよもー高校デビュー的なのオレにもさせろよーもー。オレだって取りあえず彼女ほしーんだけどなぁ~。


「それよりもこの前出た新作のゲーム、こっちでも買ったんだけどさ」

「ん? おぉ、やっと買ったんだ」

「うん。でさ、あれって武器とか何がお薦めなん? 前作の2をやってた時はマシンガンっぽい感じのやつ使ってたんだけど」


 彼女の話はスルーされて話題が変えられてしまった。

 いつものことだけどな、一応ゲーム仲間だし。


 特に今は大人気オンラインバトルゲームの最新作が発売されたばかりなので、オレはすぐに買ってやりこんでいる。その情報が聞きたいってことなんだろう。


「ん~、そのまま使ってていいんじゃないの? 環境トップクラスの武器はあるにはあるけど、あのぶっ壊れ具合はすぐに修正案件だろうしさ」

「なるほど。確かに発売当初は環境荒れがちよなぁ」

「そそ。バグとかも多いし。因みに今流行の戦術だとー……」


 オレが多分アプデ(アップデート)前の今しかできないであろう最新戦術の説明をしようとしていたら、前の席の友人が目を見開いて驚いている。


 え? なに? 後ろだれかいるん?


「あ、気にせず続けて続けて~」


 ……か、神代さん!?


「えっ、いや、あの?」

「今流行の戦術の話し、あたしも聞きたいなーって」


 オレの後ろの席にいつの間にか神代さんが座っていた。

 至近距離で見る笑顔がクラクラしてしまうくらいに美人だ。


 って、ちょ、ちょっと待ってくれよ。


 一体どういうわけなのこの状況?

 も、もしかして。


「えと、神代さんもこのゲームやってる、とか?」

「うん。だから会話が耳に入ったら気になっちゃって。あ、邪魔だったかな?」

「いや、そんなことはない、ですけど」

「あははっ、なんで敬語ー? あたし同級生だけど?」

「だ、だよねー?」


 だだだだって緊張するじゃんよ!?


 こんな距離で女子と話すこと自体あんまなかったのに、よりによってなんで神代さんと急にゲームの話しに!

 高校になったら彼女作りたいとは思ってたけど、これはいきなりレベル上限突破すぎるっ。


 オレはもっと現実的にいけるくらいの彼女でいいんだっての。そんで早いところ青春っぽいデートとかして、ゲームばっかりの日常とおさらばするのだ。


 でも……神代さんと話せるラッキーを捨てることはないよな?


「え~っと、戦術っていうのは、まず速攻でミサイルを――」

「あー、アレかぁ――」


 途中から自分でも何を話したのかよく覚えてないけど、なんかそんな風にして神代さんと初めてまともに会話をしたのだった。







 あれから、ちょいちょい休み時間とかに神代さんとゲームの話題で喋ったりするようになった。


 どうやら彼女も割とゲームをする方らしい。

 流石にゲーマーとかって訳じゃないみたいだけど、それでもなんか意外だなぁとは思う。


 今もクラスの女子と賑やかに話しているけど、相手の女子はゲームとかと無縁そうだし。


「え~? またまたぁ、エリカに彼氏いないわけないじゃん。あ、寧ろあれ? 複数人いるとかそういう感じ?」

「いやいや、本当にいないんだってば。てかあたし、彼氏大量につくってるみたいに見えるわけ?」

「うん。割と」

「なんでよ!?」


 見えるよなぁ。割と。


 思わず心の中でウンウンと頷いてしまう。


「うそうそ。じょーだんだって。最初はちょっとそういう感じに見えたけど、エリカと喋ってるとそれはなさそうだなって分かるよ」


 うん、それも分かるわぁ。

 最初はそんなイメージあったけど今は大分イメージ変わったみたいな……。


「ただ、放課後も忙しそうだしさ。彼氏かなって思うじゃん?」

「あ~。放課後の誘い断りがちなのはゴメンだけど、アレはバイトとか仕事なんだってば。あたし、勤労系美少女だからさ」

「だから自分で……いやあんたは確かに美少女だけどもね。それだけに不思議だわ。あんたなら彼氏なんて簡単に作れるっしょ? もし、忙しくて出会いの機会云々ってことなら紹介してもいいけど?」


 全く不思議な話しだ。でも、出会いの機会は別にわざわざ紹介とかしなくてもよくないっすか?


 このクラスにだって男子は……神代さんと釣り合いとれる男子はそりゃいないだろうけどさぁ。


「いや、紹介とかはいらないー。っていうか、彼氏つくるの別に簡単じゃないしね」

「はぃ?」

「あたし、彼女になろうか? って言った相手いるけど、ズッパリ断れてるし」

「はぁ!? え、なに、相手はなんか特殊性癖の変態かなんかだったの?」


 信じられない。例えばオレなら神代さんのそんな申し出を断るとかあり得ないし。

 ロリコンとか、異性に興味がないとか、そういうのなのか?


「いやいやいや。普通の男の子だってば……いや、ちょっと普通じゃないかもだけど……変態とかじゃないよ」

「マジぃ? それであんたが振られたわけ? 嘘でしょ」

「振られたつーか、う~ん説明が難し……あ~、うん。この話し終わり! とにかくあたしに彼氏はいない!」

「お、おぅ。そうなんだ。ま、深入りするつもりもないし、いいけどねー」


 う、う~ん。なんか割と衝撃的な話しだったなぁ。

 神代さんでも男に振られたりするもんなのか?


 …………神代さん、彼氏、いないのか。


 ま、オレには関係ねーけど。







 ある日の放課後。

 友達とゲームの話しを途中までしていたのだが。


「あ、そろそろ時間か。んじゃ彼女と約束してるから帰るわ」

「死ね」

「じゃ、家帰ったら連絡するから。したらオンライン繋いでイベント戦潜ろうぜ」

「死んでしまえ」

「悔しかったらお前もはよ彼女つくれ。んじゃーな」


 くそう。あの野郎め。

 今日はやたら引き留めてどうでもいい会話をしてるなぁと思ったら、彼女との待ち合わせ時間までの暇つぶしだったんかよ許せねぇぜ!


 はぁ~彼女ねぇ。

 プラモじゃあるまいし、そんな簡単につくれたら苦労しないんだよなぁほんと。


「…………」


 チラリと、神代さんの席の方に振り返った。


 気が付けばまだ帰らずに残っているのは二人だけになっていて、西日の差し込む教室で彼女は窓の外をぼ~っと眺めている。


 ――すごく、綺麗な横顔だった。


 もし一度も喋ったことがなかったなら、見蕩れて、その後にそそくさと逃げ出したくなるくらいには。


「ん?」


 あ。


 ガン見してたら不意に振り向いた神代さんと目があってしまった。

 今更そらすのは不自然すぎる。


「なーに? あたしに用事?」


 神代さんが笑顔で話しかけてきた。


 すごく綺麗だと思って見蕩れてました、なんて言えるわけもないし。顔が赤くなっていないか不安に思いながらもなんとか答えを絞り出す。


「えっと、ほら、神代さんがこの時間まで残ってるの珍しいなって思ってさ」

「あ~。あたし放課後はすぐ帰るもんね。今日はおねーちゃんと買い物いく約束あるんだ。それで待ってる感じ」

「へぇ~、お姉さんか」


 そういえば、神代さんにはすげぇ可愛いお姉さんがいるって噂は聞いたことあったかも。

 上級生のことだからあんま詳しくは知らないけど、本当なら姉妹揃って美少女とかヤバイな。二人揃ったらどうなってしまうやら。


「でもちょっと遅いなーって思ってるところだったんだよね」


 そう言いながら、神代さんは自分の席を立つとオレの隣の席にストンと座った。


 オレはオレで、あの野郎に彼女との待ち合わせ時間まで暇を潰す相手をさせられていたから残っていて、こうして二人きりになれてしまったわけか。


 うん、あいつのこと許せそうな気が急にしてきたわ。むしろサンキューまである。


「そうなんだ。えと、オレも用事あって残ってたんだよね。ちょっと暇つぶしに話しとかしてく? あ、でもまたいつもの話しとかになっちゃうかな。流石にこんな時にゲームの話題ってのもアレか」


 アレってなんだよアレって。我ながらテンパりすぎかッ!?


 でも神代さんは、クスリと笑って答えてくれた。


「ううん。いいじゃん。あたし、学校ではゲームの話しする相手ってあんまいないからさ~。いつも楽しく話してるよ?」

「あー……ならよかった」

「うん。あ、内容だけじゃなくて話しやすいからってのも勿論あるよ? 情報助かってるし。いつもあざーっす、だね」


 不意に、神代さんが首をこてんと傾けるようにして人懐っこい笑みを浮かべた。


「……ねぇ、神代さんってさ、彼氏いないって、マジ?」

「へ?」


 ――は?


 突然何を口走ってるんだオレは?


 ゲームの、ゲームの話しをするつもりだったのに。

 ただ神代さんと会話できてラッキーって思ってただけなのに、こんなん聞いてドン引きされたらどうすんだっ。


「あ、あ~っ。もしかしてこの前の会話聞こえてた? って、そりゃ聞こえるよね、ふつーに教室ん中で話してたしね。あははっ」


 神代さんと二人きりになってしまった現状に脳みそが暴走でもしたのかもしれない。


 ダメだ。これ以上はダメなんだ。

 神代さんなんかを好きになんてなったって絶対に報われるわけない。


 オレはもっと現実的に、そこそこでいいから楽しく付き合える彼女つくって。こんな無理目な相手なんか偶に話せるくらいで十分で。


 なのに彼女の瞳に、笑顔に、魂かナニカを吸い込まれてしまったみたいで。


「彼氏はいない。うん。マジマジ」


 やっぱり、本当にいないんだ。

 

 なら、それなら、一万分の一とか、ワンチャンでもあるなら――。


「でも、彼氏とかより大切な人は、いるかな」

「…………へ?」


 それって、どういう。


「説明は難しいんだけどね。あたし彼氏とか恋人とかはあんま興味ないんだけどさ。そのなんていうか、色々な意味で大好きな人なら――って、あたし何言ってんだろうね!? ご、ごめんねっ急にっ。あ、アハハハッ」


 自分で語りつつ顔を赤くする神代さんは、驚くほどに可愛らしかった。

 二重の意味で心臓が止まりそうになるくらいには。


 だって、こんな彼女を想像したことがなかった。


「……いや全然、大丈夫だけど」

「そ? ならよかった。あ、あははっ。いつもゲームとかの話しで盛り上がってるからかな? ついつい口が軽くなっちゃったよ。こりゃ将来カウンセラーとか向いてるかもね!」

「そう、かな?」

「いやごめん、適当言ったっ。でも話しやすいのはマジでそうだと思うよ? 何かしらの才能はあるはずっ」

「そ、そっかぁ」

「うん、そうそう」


 ………………え。どうしよう。どうしたらいいんだこの胸の中の塊を。


 ついさっきまではラッキーと思っていたのに、急にこの二人きりの状態が居心地悪く思えてきて。


 だ、誰か助けてくれないだろうか?


 などと思っていたら、教室の後ろのドアがコンコンとノックされた。


 え? 願い通じちゃった的な?


「失礼します。エリカは……あ、いた」


 顔を覗かせたのは見知らぬ男子生徒だった。

 どうやら先輩のようだけれど。


「誠おにーさん!? なんでこっちの教室に?」


 どうやら神代さんの知り合いだったらしい。

 というか、お兄さんなの? もしかして。


「華恋がな、学校の用事で遅くなっちゃいそうだから予定の変更を伝えてほしいって。今しがた聞いてきたところだ」

「あー、なるほどね。了解~。ってか、その為にわざわざ残って様子見ててくれたんだ? 優しいやさしー誠先輩?」

「ふざけろ。ただ暇だったんでたまたま図書室で本探してただけだ」

「またまたぁ~。どーせ、あたしが上級生の階に行くのも気まずいだろうし、連絡手段もなくて待ちぼうけも可哀想だから折りをみて華恋の様子を伝えてやるか。とかなんとか考えてたくせに~」

「見てきたようにいうなっ。エスパーかお前はっ。とにかく伝えたから俺は帰」

「はい、じゃ~一緒にかえりましょーね~、先輩っ」

「腕を掴むなって、アホか!? 帰るならべつべつに――」


 凄い勢いで後ろの扉まで移動した神代さんが、先輩のことを無理くり押しやりつつ教室を出ようとする。


 その途中で一瞬振り返ると。


「あ、また明日ゲームの話ししようね!」


 そういって、教室では見たことの無い笑顔を見せながら出ていった。

 応えを返す余裕もなく、ただ不様に片手を上げたんだか振ったんだかするのが精一杯で。


 オレは、しばらく教室に一人きりで座っていた。


 ……………………………なるほどなぁ。


「あれが、神代さんの」


 なんというか、あれだ。軽く死にてぇ気分。

 短ぇ夢だったなぁ、ってやつ?


「はぁ――やっぱ、彼女とか恋人とか、しばらくいいかな。それよりゲームで対戦とかしてぇ……」


 うん。やっぱりあの野郎、彼女優先してオレを置いて帰ったのぜったい許さん。

 オンライン繋いだ時にはボコボコにしてやろう。







「あ、あのさぁエリカ」

「ん~?」

「教室に残ってた男子ってさぁ」

「ん? 男子? ……あ、嫉妬!? もしかして嫉妬とかしちゃった!?」

「いやそうじゃなくて」

「ないのかよ! くそうっ」

「なくてだな。よかったのか? なんか話してる途中だったんじゃ?」

「え? いやぁ、お互いになんか用事あったぽくて残ってたから。暇つぶしに話してただけだったし、特に問題ないと思うけど?」

「……あ~、うん。まぁ、ならいいんだけど。うーん、なんつーか……」

「なんつーか?」

「いや、うん。なんでもない。エリカは人気者だなって」

「うぇ? そう? んー? ま、おにーさんと比べたらね!」

「ほっとけ。――ったくこの天然小悪魔め」

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