オマケ日常話その1 エリカと友達と勉強会
※本編の流れには直接関係のないゆるい日常回なので気楽にお楽しみください。
(オマケは取りあえず二回を予定)
※出てくるエリカの友達の名前などは覚えなくても大丈夫です。
(近況ノートに友達三人のイラストがあります)
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「ねぇ、誠おにーさん。ちょっと相談があるんだけど?」
「ん? なんだ?」
夜。誠一郎が自室にいたら扉からひょこっと顔を覗かせたエリカが話しかけてきた。何か用事があるらしい。
「あのね、今日学校の友達と話しててさ。テスト近いから皆でテス勉しようって話しになって。でも集る場所に悩んでるんだよー」
「あー、中学生だもんな」
そりゃテストあるよな。いや俺もあるけど。
などと思いつつ、あまりテストのことなど真面目に考えたことはない誠一郎である。
どうやらエリカの話しでは、友達の家に集るにしても兄妹が居るとか、親が在宅ワークしているとか、集るには遠いとか、条件的にちょうどいい場所が難しいらしい。
結果、いつも同じ友達の家にばかり集ることになって、迷惑というか負担になっていないかエリカ的には心配なのだ、と。
大雑把に見えて案外と気を遣う時があるエリカらしい相談であった。
「今までウチはアパートだったし色々難しかったけどさ。この家なら広いし、場所も丁度いいから友達呼んでも大丈夫かなぁって。勿論、誠おにーさんが良ければなんだけど……」
確かにそういう意味では加々美家はうってつけの場所である。
親に気を遣うこともないし、部屋も無駄に余っているし、もし華恋が暇してる時なら教師役として呼んでもいい。
ただし一つだけ難点があると誠一郎は考えていた。
「分かった分かった。俺は友達が来てる間、どっか出かけて暇つぶししてくればいいんだな?」
そう、自分が家に居たら問題だと思っているのである。
「へ? いやいや、居候が家主を追い出しちゃってどうすんのさ。ただ家に呼んでもいいか聞きにきただけだってば。誠おにーさんは普通にしてて大丈夫だから」
「えぇ? 俺だぞ? 友達に同居してると思われたらエリカの学生生活に支障あるんじゃないのか?」
「……いまいち誠おにーさんの自己評価とあたしからの評価が噛み合ってないんだよねぇ……ま、今はいいけど。とにかく大丈夫なの! 全然気にしないでいいの!」
そうなんだろうか?
っていうか、そもそも他人に同居していることが知られる時点でどうかと思うのだが――。
と、一瞬考えた誠一郎だったが、結局許可を出すことは決まっていた。
「あぁ、分かったって。別に好きに呼んでいいよ」
「っ! ありがと、誠おにーさん!」
誠一郎が自室からあまり出なければいいだけだし、仮に見つかっても兄妹かなんかだと普通は思うはず。
そう、判断したからだ。
エリカが誠一郎に友達を招く許可を得てから数日後。
「ただいま~」
「お邪魔でーす」
「お邪魔します」
「お邪魔しますー」
非常に珍しことだが、誠一郎の家に三人の来客が訪れた。
エリカの学友で、
(因みに、エリカにバイトを勧めた子はこの中にはいない)
「うわー、でっけぇ家ー」
ひときわ背の小さい理恵が、家に入った瞬間に辺りを見渡して声を上げた。
「あんまり人の家でキョロキョロしない方がいいんじゃないかしら?」
理恵を注意したのは、妙に目つきが鋭い上にえらく声が低い女子。梢だ。
別に怒っているわけではなく、これが彼女にとって普通の目つきなのである。
「エリカちゃんってー、結構お金持ちだったのー?」
逆に眠そうな半目をしているのは加奈だが、彼女の場合は本当に普段からぼーっとしていることが多い。
この三人は、エリカにとって比較的仲のいい面子だった。
比較的、というのは普段学校で話すことはあっても放課後に遊んだりすることは然程ないからだ。
誠一郎と会う前からエリカはすぐに自宅に帰ってしまう生活をしていたので、友達と遊びに行ったりする機会はあまりなかったのである。
ただ、そもそもエリカを色眼鏡で見ない女子が希少ということもあった。
そういう意味ではこの三人も多少変わり者の集まりと言えるのかもしれない。
「あたしはお金なんてないよー。てか貧乏なのは知ってるっしょ。この家はちょっとした事情で住まわせてもらってるの。いいから勉強でしょ、勉強~」
三人をリビングに押し込むと、エリカは机に教科書を広げだした。
最初の1時間くらいは皆、真面目に勉強をしていたのだが――。
「あら、皆さんもういらしてたんですね。いつもエリカがお世話になっています。もし勉強で分からない所があったら遠慮無く聞きにきてくださいね。私はお邪魔にならないように自室にいますから」
――途中、家に帰ってきた華恋が一旦顔を出したことで脱線が始まった。
「はぁああ~……やっぱめっちゃ可愛いわエリカのねーちゃん」
「前にも一度会ったけれど、何度見ても流石エリカの姉って感じよねぇ」
「エリカちゃんは美人さんって感じだけどー、お姉さんは小さくて可愛いなぁ。理恵ちゃんの方がもっと小っさいけどねぇ~」
「うっさいわ。悪かったよ小さいのに可愛くなくて」
「加奈はそんなこと言ってないでしょ。そりゃあエリカのお姉さんに比べたら可愛くはないけれど」
「フォローするならちゃんとフォローしてよ梢!?」
自分の姉を褒められると、エリカも気分がよくなってきてしまい。
「ふふーん? まぁそりゃあたしのおねーちゃん最強に可愛いからね~」
結局、勉強そっちのけで雑談が始まってしまった。
「いいよなぁ。美人なねーちゃんがいるって。うちには口うるさいにーちゃんしかいないしさぁ」
「あら、妹だって結構うるさいものよ?」
「え~? 一人っ子よりはいいと思うけどなー」
兄妹談義が始まってしまい、時間がずるずると過ぎていく。
故に、こっそりと家主が帰ってきていることに誰も気が付いていなかった。
「あのさ、もっかいエリカのねーちゃんと話してみたいんだけど、勉強のこと聞きにいく体で部屋行ってみてもいいかな?」
「聞きに行く体って、どうせならちゃんと勉強のことも聞きなさいな」
「あはは~。理恵ちゃん、もう最初の目的が勉強会だって忘れてそうだもんねー」
「別にいいけどさぁ、おねーちゃんに変なこと聞かないでよね。んじゃ、あたしは皆にお茶でも淹れてるからその間に行ってきたら? おねーちゃんの部屋二階だから」
エリカを置いて、三人がリビングを出る。
と、そこで。
「あっ……。えっと、いらっしゃい」
「へ? あ、ども?」
「こんにちは」
「おじゃましてます~」
家に帰ってきた後、手を洗ったりうがいをしたりして洗面所を出た誠一郎と、三人はバッタリ出くわしてしまった。
(華恋の調教で、誠一郎は帰った後の手洗いうがいの習慣が身についているのだ)
誠一郎はすぐに自室に引っ込み、三人も華恋と軽く話しをしてからリビングに戻る。
「あ、おかえりー。お茶はいってるよ」
三人が席に戻ると、理恵が用意されたお茶も飲まずにエリカに話しかけた。
「エリカエリカ、さっきの男の人、誰?」
「へ? あぁ、誠おにーさん帰ってたんだ」
「え!? あの人ってエリカのにーちゃんなのッ?」
「あ~~、まぁ、概ねそんな感じ?」
流石にここで『赤の他人だけど借金返してくれたから一緒に住んでる』と言うのはマズイと思ったので、適当に事情を濁して話すエリカ。
「全然似てないね~。まぁエリカちゃんとお姉さんも似てはいないけどー」
「それでも美形度が似てるじゃん。でもあのにーちゃんはそういう意味でも全然似てないっていうか、別に悪い顔じゃないけど正直二人とはレベル違うだろ」
「理恵、流石に失礼よ」
「えー? でも実際さぁ。エリカもどうせならもっとかっこいい兄貴の方がよかっただろーっ?」
理恵の言葉に、エリカはやれやれといった風情でため息を吐いた。
「分かってないなぁ。まーあの人色々分かりにくいから無理ないかもだけど、誠おにーさんのかっこよさが分からないようじゃ理恵は将来男選び失敗するかもねぇ」
「お、おぉう、すげぇこと言うなお前。兄貴にどういう感情持ってんだよ」
「エリカちゃんってー、シスコンだと思ってけどブラコンでもあったのー?」
「というか、本当にお兄さんなのあの人? あまりにも雰囲気が違うけれど」
神代姉妹に比べて、誠一郎の雰囲気に若干のアウトロー感が滲んでしまっているのが見抜かれたようである。
さらっとシスコンであることは決定しているエリカが、梢の質問を誤魔化すように口を開く。
「え? えと、兄っていうか、従兄弟っていうか、親戚っていうか、まぁそんな感じっていうか? とにかく、誠おにーさんはホントかっこいいから。ちょっと一緒にいたら分かるから」
「へぇー。ま、エリカがそう言うんならそうなのかもな」
「そうね。エリカって異常に男の子を見る目シビアだものね」
「人は見かけじゃないもんね~。エリカちゃんは見た目も中身もヤバイけどね~」
「さっきから加奈はあたしにやたら当たり強くない? もしやあたしのこと嫌い?」
「まさかー、それなりに好きだよ~?」
「それなりなの!?」
若干変わり者の集まりとはいえ、やはり恋バナ関係になると話しは弾むらしい。
もっとも、この中に彼氏持ちは一人もいないのだが。
「はあぁ~、男選びねぇ。でも言われてみれば自信ないかもなぁ。男の善し悪しなんて全然わからんわ」
「だったらエリカちゃんのお兄さんにしとけばー? エリカちゃんがかっこいいって断言するくらいだから、間違いないんじゃないの~?」
「あ、確かに! エリカ、兄貴のこと紹介してもらっていい!? 年上彼氏ってイイかもだしっ」
「え? ダメ」
「即答かよ!?」
「あ、ご、ゴメン。なんかつい」
真顔で超速却下したエリカを、理恵が怖々とした表情で見ている。
「お、お前、やっぱりすんごいシスコンでブラコンだろ? そんなんでどうすんだ? ねーちゃんとか兄貴に恋人でき……た、ら?」
「――エリカ、あなたすんごい怖い顔してるわよ? 理恵が泣くわよ?」
普段からは想像も出来ないような冷たい目をしたエリカの肩を、梢がぽんっと叩く。
「え? あ、マジ? 一瞬で色々想像しちゃって、ちょっとそうなった時にどうしてやろうか考えてた」
「誰に何をする気なんだお前……」
「エリカちゃんってー、実はヤンデレ? とかメンヘラ? の気質ちょっとだけありそうだよねー。ぱっと見は尻軽に見えるから逆に地雷感あるっていうか~」
「加奈はやっぱりあたしのこと嫌いなの!?」
「まさかー、まぁまぁ好きだよー?」
「まぁまぁ!?」
結局、四人は殆ど勉強がはかどることなく勉強会を終えるのだった。
三人の帰り際、もう姿を見られてしまったので一応は誠一郎も部屋から出てきた。
本当なら引き籠もっていたいのだが、相手がエリカの友達である以上はあまり心証を悪くしないほうがいいだろうという判断である。
華恋と並んで玄関で見送りをしていると、梢が誠一郎に話しかけた。
「あの、お兄さん。ちょっといいかしら」
「ん? 何か忘れ物か?」
目つきがやたら鋭いながらも、中々美形な少女に突如話しかけられて一瞬怯む誠一郎。
もしエリカや華恋と普段から接してなかったらもっとテンパっていたことだろう。
「いえ、そうではなくて。ちょっとお聞きしたいんですけど、彼女とかいらっしゃいます?」
「へ? いや、いないけど……」
「では年下の彼女ってアリですか? 例えば、中学生とか」
「えっ――」
「あーっ梢もう帰らないとだよね!? 急いで帰るよねっ、バイバイみんな!」
梢の襟首を引っ張って玄関から出て行くエリカ。
何が起ったのかよく分かっていないが取りあえず後をついて行く理恵。
混乱している誠一郎と目を見開いて固まっている華恋をよ~く見比べたあと、ペコリとお辞儀をしてから出ていく加奈。
エリカの友人三人は、そうして嵐のように帰って行った。
エリカ一人に(強制的に)見送られた帰り道、三人はしばし黙って歩いた後。
「おぃ梢。なんであんなこと聞いたんだよ。なんかエリカが怖かったぞ?」
「あら、私はエリカの為に聞いただけよ? だって、年下に興味ないと困るでしょ」
「あー、エリカちゃんのお姉さんもすんごい表情してたもんねぇ。エリカちゃんは美人さんだけど、胸はお姉さんに負けてるしねー。若さで勝っていかないと~」
まだ先ほどの話題を引きずって喋り始めた。
因みに、加奈自身はぺったんこでまったく胸はない。
「はぁ~……しっかし、エリカがシスコンなだけじゃなくブラコンだったとはなぁ」
「馬鹿ね。あれがブラコンのわけないでしょ」
「そだね~。あんな顔を実の兄にしてたらちょっとヤバイねー」
「え? やっぱそうなのか? ……ま、そうだよな。あのかっこいいかっこいい言ってる時の顔はなぁ…………はぁ、彼氏ほしーなぁ」
「理恵は本当に男選び失敗しそうだから、相手が見つかったらまずは私達に相談することね」
「っていうか、理恵ちゃんにはしばらく無理じゃないかなぁ~」
「お前ら言葉のチョイスのトゲもうちょっと抜いてこいや!?」
こんな感じで話しつつ、別れる頃には三人それぞれ脳内で今日の出来事に対して総括がでていた。
(よく分からんけど、もうこの家くるのやめよ。エリカがこえーし)
(よく分かったから、またお邪魔しよう。エリカの応援しないとね)
(偶に来て姉妹の修羅場になってないか観察しよ~っと)
多数決で、多分またいつか勉強会が開催されることが決定していたのだった。
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