2章 押しかけ美人(で自由)すぎる妹
第7話 学校で菓子パンを食べる二人
チャイムの音で目が覚めた。
昼休みになったのか。今日も今日とて寝てたわ。
「ふぁ~……」
あくびを一つしてから、鞄の中をガサゴソとあさってコンビニのパンを取り出した。
パンなら購買部にも売っているのだが、あそこはいつも混むのでいきたくないのだ。
飲み物だけなら自販で買えるけど……それも食い終わってからでいいかなぁ。
寝起きで色々と面倒くさかったので、そのままパンの袋を開けてモソモソと囓りだす。
――と、不意に神代の姿が目に入った。
いつものように数人の女子で固まって食事を始めるようだ。
「あれ? 神代さん、今日はお弁当じゃないんだね?」
「え? あ、えぇ。ちょっと、ここ何日か色々ありまして、それで」
神代も机の上に菓子パンをのっけている。
どうやらそれが珍しい事態らしい。周りの女子が不思議がっている。
「普段こういう食事はあまり取らないんですが」
「あ~、分かるぅ。神代さんって確かにコンビニのパンとか食べるイメージないわぁ。完璧な栄養バランスのお弁当とかしか食べなさそうなイメージだよね」
「栄養バランスのとれたお弁当……そう、ですね。普段はそういうお弁当です」
俺も『神代はコンビニのパンなど普段は食わない』というイメージあるけど、多分あいつらが思っている理由とは全く違う。
コンビニのパンより自炊の方が安いから、という質素倹約な理由だ。
数日前、初めて朝食を用意してくれた時に『普段はコンビニで買い物をしない。だって高いから』みたいなことを言っていたしな。
自分もパンを食べつつ、ハムハムとパンを頬張っている神代をぼーっと眺める。
「……パン1個で足りるのかな、あいつ」
家での食事の様子を見るに、結構食べるもんなぁ。神代って。
「おぉ? 珍しいね。加々美っちが
「見とれて……? 何言ってんだ、
同居人の腹具合を心配していただけなのだが、なんか妙な勘違いをされた。
声をかけてきた男は友人……友人? の楠木だ。
なんで疑問符付きなのかというと、放課後に一緒に遊んだこともなければ互いの連絡先すら知らないからである。まぁ、俺が教えてないからなんだが。
基本、俺はクラスの中じゃ完全に浮いてる、というか寧ろ沈んでる陰キャなんだけど、楠木はそれを『変わってて面白い』とか抜かして昼休みなると偶に絡んでくる変なやつなのである。
「じ~っと見てたじゃん。照れなくても大丈夫だよ。高嶺ちゃんに一度も見とれたことない男子なんてこのクラスにいないだろうからさぁ」
本来の座り主が余所で飯を喰っているために空席になっている俺の前席に、パンと紙パックジュースを持って勝手に座る楠木。
こいつ、今日は本格的に俺に絡むことに決めたらしいな。他に面白い話題がなくてよっぽど暇していたのだろう。
「あ~。ま、そうなんだろうな」
神代を『高嶺の花の高嶺ちゃん』などと呼び始めたのはこいつだが、その呼び方が主に男子の間で定着してしまっているくらいには、彼女は手の届かない花扱いなのだ。
「ま、見とれるまでにしといた方がいいとは思うけどねー。何しろ、彼女は男子に興味がないって話しだから」
「……へぇ」
「誰がどう挑戦しても、連絡先すら教えてもらえないし」
それはただ単に連絡できる手段を持ってないからだと思うけど。家電の番号とかを教えるのはちょっと、っていう感じで。
つーか、そもそも今現在あいつの住んでいる家には家電ないしな。俺が引いてないから。
……あいつに連絡用のツールを支給した方がいいのかな? いや、絶対断られるだろうな。
「放課後に遊びに誘った連中も全滅だってさ。少なくともこの学年で俺の知ってる有名所の男子はもう全員すっぱり」
それはただ単にバイトとかで忙しかったからだと思うけど。
今は――俺の家でバイトしてるからなんだけどな。何故か。ほんと、何故こんなことに。
「だからこの前、加々美っちと一緒に帰った時には皆何事かって噂してたんだけどね。次の日はふつーにいつも通りだったから、すぐに鎮火しちゃたんだよねぇ。結局、あれってなんだったの?」
「……なんでもねーよ、ただの事務的な用事だ。どうでもいいけど、その高嶺ちゃんって呼び方、止めた方がいいと思うぞ」
パンを食べ終わったので、ため息交じりに言ってやる。
神代が聞いたところでどれだけ気にするかは分からんが、少なくともあいつは高嶺ちゃんなどと呼ばれて喜びはすまい。
「勿論、神代ちゃん本人の前では呼んだりしないって」
「私が、なんですか?」
「っんひ!? か、神代ちゃん?」
気が付いたら、神代が楠木のすぐ後ろまで歩いてきていた。お陰で野郎の変な声を聞いてしまったじゃないか。
「え、えっと、聞こえてた、かな?」
流石に焦っている様子の楠木。自業自得だけどな。
「すみません。私を呼ぶとかなんとか、そこしか聞こえませんでした」
「あ、あ~。じゃあいいんだ。気にしないでよ」
「そう、ですか?」
会話内容までは聞こえていなかったらしい。じゃあ何しに来たんだこいつ?
「あの、加々美君」
「んぁ?」
俺? 学校で俺に何の用事だ?
「な、なんだ?」
「加々美君は、いつも今日のようなパンばかりをお昼に?」
「お、おぉ。そうだけど?」
神代は自分が食べたのであろう菓子パンのパッケージの裏面を『じと~』っとした目で見た後、俺の机の上に放置してあったパッケージも手に取った。
「タンパク質が……なのに脂質と糖質だけ……栄養バランスが……」
なんぞブツブツと言っている。
どうやら、袋の後ろに書いてある栄養表記をチェックしているらしい?
「加々美君――おべ…………いえ、いいです。また後で」
「へ? あ、はい?」
結局、神代は具体的なことを何も言わないままに去って行った。
マジで何しに来たあいつ。
「加々美っち」
「ん? 何だ?」
俺と神代のやりとりを呆然した表情で聞いていた楠木がこちらを妙な、それこそ珍獣を見るような目でまじまじと見てくる。
「一体どんな魔法使って高嶺ちゃんの気を引いたの?」
答えを考えるのが面倒だったので、無視して自販機にジュースを買いに立った。
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