二流の流儀

@runrun_life

二流の流儀

一体、己(おのれ)とは何なのだろう。営業として働くユウキは、日々問いかける。

思えば運動も勉強も、決して1番になったことはない。幼少期の野球では副将、大学は2流大学、社会に出てからは、ベンチャー企業の支店長だ。良く見積もって中の上、そしてこれらは色々なものを犠牲にして、有体に言えば努力に次ぐ努力をした結果勝ち取ったものである。決して片手間でそのポジションに収まっているわけでもなければ、アウトローに生きられるほどの度胸もない。つまるところ、凡人なのだ。


さて、私のような凡人にも凡人のプライドはあるもので、一丁前に抗ってみるも今の立ち位置なのだから、流石に思うところがある。果たして才能がないのか努力が足りないのか、定かではない原因を探りつつ毎日を過ごすのであった。



「支店長の業務はどうだ?」 定例報告会議で上司のタケルから毎回聞かれるこの質問ほど難しいものはない。この「どうだ」は、売上なのか、人間関係なのか、世間話なのか・・・・・回答を間違えるとエライことになる。「ぼちぼちですかね。順調ではあります。」他支店の数字に目をやりつつ私は答える。

ユウキはこの会議が一番の苦痛であった。支店長の中で一番若いから、というのもあるが、何よりタケルとは馬が合わないのだ。淡々と近況報告を済ませて退席しようとしたが、案の定呼び止められた。「ユウキ、最近プライベートはどうなんだ?」タケルは毎回と言っていいほどこの問いかけをしてくる。そしてタケルの人生観とズレていると説教というかアドバイスというか、形容しがたい話が始まるのだ。

「ユウキ、お前はまだ若いのだから・・・」また始まった、と思いつつ、ここでタケルの気分を害しても、と思い当たり障りのない返答をしていく。そうして会議は終わり、帰路につく。


帰路にて私は思考を巡らす。タケルの言いたいこともわかる。そしてそれが善意であることも。ただ、ユウキにとっては余計なお世話なのだ。「私はそれなりに上手くやれるだろう」、と思うと同時に、自身の限界などわかっているつもりだ。支店長に上がれたが、それ以上の出世が望めるほどのバイタリティはないのだ。恋人や友人の輪を広げることも、趣味に興じることも、十分行ってきたつもりだ。どれもそれなりにこなせてしまったからこそ、1番になれないことを理解してしまったのだ。馬鹿になり切れない自身を嘲笑しつつ、玄関のドアを開けた。



テレビを見つつ食事をとっていると、部下のユウマからメールが来た。流し読みしつつ、携帯を閉じる。

彼は優秀だ。明らかに稚拙な文章や話術しかないのに、悪い印象がないのだ。むしろ、良いイメージしかないまである。いわゆる、人間性が出来ている、というやつだろうか。

今はまだ私のほうが上だが、抜かされるのは時間の問題だろう。だからといって、つぶしにかかるほどの度胸も私にはないのだ。良くも悪くにも、私は突出できないのだ。どこまで行っても中途半端だな、と思いながら食事を終え、一息つく。



寝る前にグラスを傾けつつ、1日を振り返ると、今日も一流とは言えない1日だったと思う。部下のユウマは将来的に私を追い越して出世するだろう。タケルの政権もしばらく続くはずだ。私の立ち位置も決して保証されているものではない。

もっと意地が悪ければ、タケルに取り入ったりユウマを潰せるのだろう。或いはもっと能力があれば、こんなことを考えずに熟睡できるのだろうか。今日も今日とて、ないものねだりをしつつ来てほしくない明日から目をそらす為にベッドへ入る。人より優れつつも頂点へ立てない、それを理解した上で生き続けるしかないのだ。

これから何十年も、この葛藤を堪能しつつのうのうと生きてしまうのだろう。ならば王道を往く人生を邪魔にしないように、精一杯、路傍の石として生き抜こうではないか。それこそが、二流の流儀なのだ。こうして私は望まない明日と戦うべく、目を閉じるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二流の流儀 @runrun_life

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ