第16話 朝チュンチュン

「んぁ……」


 朝、というか昼近い匂いがする。

 クソ重い瞼を開けた俺は、時間を確認しようと壁に引っ掛けてあったデジタル時計を見る。

 時間は11時を示していた。


「あー、ダリィ」


 案の定、いつ意識飛んだのか覚えてねぇ……。


 エナドリの大量摂取と、深夜テンションの反動を感じながら、息を吐く。 


「ふぁぁ、そーいや二人は……」


 首を動かして、星名と根上を探す。

 アイツらも多分俺と同じタイミングで寝たからどっかに転がってると思うんだけど……。


「んぅ……むぅ」

「あ?」


 腰に掛かってる重さ。

 目をやると、根上が俺の腰にガッツリ抱きついていた。

 

 気持ち良さそうな寝顔だなぁおい。


 グッスリと寝ている根上にそんな感想を抱きつつ、俺は根上の肩を揺するが……。


「根上さん。昼っすよもう。起きてください」


 起きる気配けはいねぇなコレ。

 まぁベットから出る時は無理やり引き離せばいいか。


 根上の爆睡っぷりに、俺は数秒で起こすことを諦めた。


「あとは星名か。アイツはどこに……」


 ――むにゅ。


「ん?」


 意識がハッキリとしてきて、俺は自分の右手が柔らかいモノを掴んでいることに気が付いた。


 そしてこの感触には覚えがあった。


「んぁ……ん」


 俺の右手は、またも星名の乳を揉んでいた。


 ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!!??


 思わず、心臓が飛び跳ねる。

 まさか一度ならず二度までも星名の乳を揉むなんて、誰が想像できただろうか。

 

 ま、またやりやがったな俺の右手!! くっ、もはや俺の手は星名のOPPAIに導かれてるようになっちまったのか!?


 一瞬そんなことを考えるが、今は時間が無い。

 早く手をどけなければ……そう思うが、


 ――待てよ。まだ離さなくてもいいんじゃねぇか?


 俺の脳に、そんな思考が過る。


 要は揉んだことがバレなきゃいいんだ。なら星名が起きるギリギリまで、この感触を堪能してもいいんじゃねぇか?


 モミモミ。


 そうだ。俺はコイツのパシリとしてコキ使われまくってる。ならこんくらいのご褒美があってもいいだろ……!!

 これは給料みたいなもんだ。俺にはコイツの胸を揉む権利がある!!


 もちろんそんな権利は無いんだが、俺は無理やり自分を納得させ、星名が起きないようギリギリの加減を保ちながら胸を揉み続けることにした。


 モミモミモミ。


 この感触、やっぱり最高だ。ホントに最高だ。


 モミモミモミモミ。


 この沈み込む感じ、極上の低反発まくらを彷彿とさせる。


 モミモミモミモミモミ。


 そして服越しでもわかるこの圧倒的な艶のある肌。とんでもねぇや。


 モミモミモミモミモミモミ。


 いやー、さながら女神のOPPAIだな。

 ま、コイツ自身は悪魔みたいなもんだけど(笑)


 ギリギリギリギリ。


 あれ? 心無しか手首が熱くなってきたな。


 ギリギリギリギリギリ。


 なんかどんどん熱くなってきたんだけど。

 え、揉み過ぎで腱鞘炎けんしょうえんにでもなったか?

 いやいいやいや、まだそんな揉んでねぇし。むしろ揉み足りないくらいだし!?

 つーか……。

 

 ギリギリギリギリギリギリ!


「痛たたたたたたたたぁ!!??」

 

 少し遅れてやってきた激痛に、俺は堪らず大声を出した。


「ん〜……」


 見ると、星名が気持ちよさそうな寝顔で、それはもう凄い力で俺の手首を握りしめていた。


「ちょぉっ!? おい離せ星名!! 手首折れる!! 折れちゃうぅぅぅぅぅ!!」


 腕を振って離脱を試みようとするが、まったく動く気配は無い。

 俺の手は完全に星名の胸の上で固定された。


「んにゃ〜」

「んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 胸の感触と手首の痛み。

 天国と地獄を反復横跳びしながら、俺は魂の叫び声を上げた。


 ーー……。


「ふぁぁぁぁ……あ? おいミナトォ、なにプルプルしてんだぁ?」

「すみません。とりま手を離してください……」


 約三十分後。

 遅れて起きた星名に、打ち上げられた魚みたいに震えていた俺は、絞り出すような声でお願いした。



「ん〜うめぇ~」

「ヤバヤバのヤバ」

 

 時間はちょうど昼の12時。

 星名と根上は俺が根上の冷蔵庫の中から使えそうなモノを使って作った昼飯を食べていた。


「起きてすぐこんな美味いメシ食えるとかマジで神だな」

「最&高」


 にしても、まさかコイツらに料理を振る舞うことになるとは……。

 いきなり「なんか作って」と根上に振られたから作ったけど、まぁ気に入ってくれたんならなによりだ。


「足疲れた。今日はどこも行きたくない」


 メシを口に入れたまま、なんてこと無いように言う根上


「あー……」


 ん? どーしたんだ星名のヤツ。


 星名の反応が少し妙なことに気付く。だが特にそれを口に出すこと無く成り行きを見守ってるいると……。


「おう、そーだな。ウチも今日はダラダラしたい気分だ」


 星名はそう答えた。

 それを見ても、感じた妙な違和感は消えない。が、考えてみればどうでもいいことだった。

 それに気付いた俺は立ち上がった。


「んじゃあ俺はこれで!! 洗濯機貸してくれてありがとうございました」

「うぇー、帰っちまうのかよミナトー」

「一緒に映画ウォチパしよー。昨日の映画ヤツ、2がある」

「いやいや、さすがにそろそろ帰らないと。アネキも心配なんで」

「あーならしゃあねぇか」

「んー、また学校ガッコ―でな湊斗ー」

「うす」


 ふぅ……これでようやく解放か。


 心の中で溜息を吐いた俺は、そのまま玄関の方まで歩く。

 

 あ、そうだスマホ。


 だがそこで自分のスマホを持っていなかったのを思い出し、俺はUターンして寝ていた場所に落ちてるであろうスマホを取りに行った。


「あったあった」


 案の定そこにはスマホがあった。

 画面をつけると、アネキから鬼の量のメッセージが来ている。

 うん、まぁ予想通りだ。


「ん?」


 だがそれに交じって、『おい』というメッセージがつかさから来ていることに気付く。

 一体なんだ、そう思って俺は『どうした』と返した。

 そしてすぐに既読が付いた後、司からきたメッセージにはこう書かれていた。


『お前今日学校だけどどうした?』



「ってことなんだよ一花 いちか

「呼び捨てはやめろと言ってるだろう。学校では先生、お前は生徒だ」


 ペシリと、俺の頭がはたかれる。


「って。へーい先生」


 俺がそう言うと、目の前に座る担任の美人女教師、七瀬一花は足を組み直した。

 教師になってまだ二年目のはずだが、その貫禄かんろくと凄みはどう見ても二年目じゃない。スポーツで言うと十年選手って感じだ。

 だが面倒見が良くて親しみやすい性格をしてるからか、生徒からの人気は高い。

 あと絶賛彼氏募集中だから誰か彼氏になってあげてほしい。


 ガシッ!!


「ッテァ!?」


 直後、俺の膝に激痛が走る。

 一花が膝を蹴りやがった。


「普通こういうのって『なにか失礼なこと考えなかったか?』とか前置きがあるもんだろ……」

「前置きなんていらないだろう。私とお前の仲だ」

「さっきは先生と生徒がどうとか言ってたよなぁ!?」

「ソレはソレ、コレはコレ。また一つ成長したな、湊斗」


 生徒を蹴ったことに対する反省が微塵も感じられないくらいの清々しい笑顔だ。

 思わずこっちまで清々しい気持ちに……なるワケがねぇ。

 今に見てろよ、と俺はリベンジを誓った。


「とりあえず、お前が優雅に私服で午後登校をキメた理由は分かった。体裁を整えるために学校に置いてあったジャージに着替えたのも、的確な判断だ」

「ふぅ。先生が理解ある大人で助かったぜ。んじゃ俺はこれで」

「バカ者。まだ話は終わってない」

「ぐえ」


 クルっと振り返って扉に向かおうとした俺の襟首を一花は掴んだ。


「ンだよ先生。星名と根上を連れて来なかったのは悪かったよ。不可抗力ふかこーりょくってヤツだ」


 アイツら完全にオフモードになってやがったからな。『今日学校でした!』なんて言ったら俺にどんな罰ゲームが飛んでくるか分からねぇ。これは身を守るための仕方のねぇ判断だ。


「違う」

 

 が、一花が聞きたいのは別のことらしい。


「まさか根上の家で寝泊りしたこと怒ってんのか? 今どきじゃねぇぜその考え方はよー」

「それも違う。お前が女の家でちちくりあってようがどうでもいい。私が聞きたいのは星名と根上、アイツらのことだ」

「え、アイツら自身?」

「あぁ。今年からあの二人の担任は私になったからな。教師として、ある程度のことは知っておきたい」

「だったら前の担任に聞けばいいじゃねぇか」

「前任の教師はまともにコミュニケーションを取ったことが無いそうだ。だからお前に聞きたい。今、二人の一番近くにいるお前に」


 結構付き合いが長いから分かる。こーゆー時の一花はマジで真剣マジだ。


「俺だってまだ二週間も付き合いねぇからな。それでもいいなら話すけどよ」

「あぁ、それで構わない。助かるよ」


 観念して口を開いた俺に、一花はそう言って微笑んだ。



◇◇◇

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